ジョルジュ・シムノン No.85◇ブーベ氏の埋葬◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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死から紐解く男の過去。同じ人物とは思えないほどの数奇な顔。

 
 
 
◇ブーベ氏の埋葬◇ -L'enterrement de Monsieur Bouvet-
ジョルジュ・シムノン 長島良三 訳
 
 
第二次世界大戦直後のパリ、八月のある朝、セーヌ河の河岸通りの古本屋で版画集を眺めていたブーベ氏が急死する。七十六歳のブーベ氏は近くのトゥルネル河岸通りのアパルトマンで周囲の人に慕われながら慎ましい暮らしをしており、身よりもいないと言われていた。ところが、偶然のことで新聞に載った故人の写真から、複数の人間が身内だと名乗って警察に現れる関わりがあったという何人もの女も現れるそのそれぞれが、謎と矛盾に満ちた、脈絡のないブーベ氏の前歴を証言するそして次第に戦前・戦中の暗黒の世界があぶり出されてくる。果たしてブーベ氏とはいったい何者なのか。
 
 
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ブーベ氏は街中で死んだ。版画を見ている最中に立ったまま。突然の死にアパルトマンの管理人マダム・ジャンヌらが慌ただしく埋葬の手続きを行うが、彼は独り暮らしの76歳で身寄りや前歴など個人的な情報はまるで分からない。遺体の引き取り手もいなそうなのでモルグに送られそうなところをマダム・ジャンヌが阻止する。
 
 
ところがブーベ氏の訃報と写真が載ったことで裕福そうな夫人が、若い夫婦が、老婦人がブーベ氏を自分の夫だ、父だ、兄だと訴える人たちが現れる。挙げ句の果てには1897年の未解決殺人事件で使われたナイフの指紋と一致するというではないか。戦時中はドイツ軍に付け狙われた過去も……
 
 
サムエル・マーシュ、ガストン・ランブロ、ココルシコ……複数の名前を持つこの男は果たして、何者だったのだろう?
 
 
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「ブーベ氏の埋葬」です(・∀・)
 
 
死から始まる男の謎です。といっても殺人ではないので犯人ではなく、身元特定です。身元を特定して遺族がいるかいないかをはっきりさせないと持ち物の処分も出来ないし、口座もストップしてしまうし、遺体もモルグというイヤーな場所に送られてしまうからです。
 
 
謎だらけの男の身内だと名乗り出る人間はどの話にも出てくると思いますが、ブーベは偽名だというパターンは斬新ですよね。もしブーベが本当に偽名なら何故偽名を使った? 何故家族から逃げた? という疑問が必然的に湧いてきますよね。その明確な理由は明かされず、ただ決定的に孤独を選んだところがシムノン・キャラらしいですよね。研究者は「社会的規範からの逸脱」と称しています。
 
 
未解決殺人の容疑者に、戦時中のスパイ行動と公私が上手く合致していない、本当に同一人物かと勘ぐってしまいますが、その中にも彼の本当の姿が見えてこない寂寥感。誰も知らない名前になった時、この男は本当の自由を得ることができたというのはとてつもない虚無感があります。
 
 
何者でもあるブーベ氏にとって誰も知らないというのは、そして死は救いだったのかもしれません。
 
 
「ブーベ氏の埋葬」でした(・∀・)/ 
次はあの偉業の裏で殺人が!?(*^o^*)/