カズオ・イシグロ No.5◇充たされざる者◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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町の「危機」とは、「木曜の夕べ」におけるライダーの使命とは? 迷路小路のような不条理が彼を満たしていく……

 
 
 
◇充たされざる者◇ -The Unconsoled-
カズオ・イシグロ 古賀林幸 訳
 
 
世界的ピアニストのライダーは、あるヨーロッパの町に降り立った。「木曜の夕べ」という催しで演奏する予定のようだが、日程や演目さえ彼には定かでない。ただ、演奏会は町の「危機」を乗り越えるための最後の望みのようで、一部市民の期待は限りなく高い。ライダーはそれとなく詳細を探るが、奇妙な相談をもちかける市民たちが次々と邪魔に入り……。実験的手法を駆使し、悪夢のような不条理を紡ぐブッカー賞作家の異色作。
 
 
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世界的ピアニストのライダーは演奏会のために宿泊するホテルに着いた。ーーーが、誰も迎えてくれない。慌ててやってきたポーター、グスタフは支配人は〈木曜の夕べ〉の準備で多忙なのだと釈明する。ところがライダーはその〈木曜の夕べ〉の詳細を全然知らないのだ……
 
 
ライダーはグスタフ、ミス・シュトラットマン、支配人ホフマンにそれとなーく詳細を尋ねるが、彼らは皆、長々と話をし、彼に頼みごとをするだけで何も語らない。ライダーはその約束のために初めて来たはずの街のあらゆる場所に行き、その中のあらゆる過去の記憶をたどり、妻ゾフィーと息子ボリス、そして古い友人たちと邂逅する。時間は流れるが約束を果たすことは儘ならず、次第にライダーは苛立ちが募る。〈木曜の夕べ〉でオーケストラを指揮する今は落ちぶれたブロツキーを始めとする人間たちはその日が近づくにつれてだんだん別の感情を露わにする……
 
 
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そんなわけで次は「充たされざる者」でした(・∀・) 950ページの超大作な上に会話文が物凄く多くて読むの大変でした←
 
 
本書は今までの「日本と英国の橋渡し役」イメージを払拭させるような特定の国無しの、言い換えれば欧米のどこが舞台でも不思議ではない「とある街」が舞台です。季節感もないので時間の流れも曖昧です。
 
 
世界的ピアニスト、ライダーは街の危機に対して過剰な期待をかけられるが、色々な人と約束や頼みごとを交わすうちに当然ながらそれが背負いきれなくなり、人々の感情も暗いものに変化してしまうーーーという終わりのない、はっきりした理由のない、目の前の現実に雁字搦めになる「カフカ的不条理」がじわじわと物語と読む人の心を占めます。
だからこの話、あらすじのその後、どうなるのか、どんな結末を迎えるのか全く予想がつかないんです。ライダーが決定的に破滅しちゃうか、それともまた頑張ろうと思えるイシグロ・エンドなのか……それともどっちもなのか……
 
 
ライダーはたくさんの人とたくさんの約束を交わしますが、ライダーは誰の約束も「充す」ことができない。したがって街の人々たちは「充たされる」ことが無い。そもそも話の中で何でもいいから「充たされた者」はいない。ボリスにしろ、ゾフィーにしろ、グスタフもホフマンもシュテファンもブロツキーもミス・コリンズもミス・シュトラットマンも。その理不尽と自分の話を長々と語るばかりで相手の話を無視する自分勝手さが「充たされざる」がライダーを追い込む「カフカ的不条理」を作り上げています。
 
 
「充たされざる者」でした(・∀・)/
次はお久なウェルズ、細菌が感染します(*^o^*)/