雪で閉じ込められたホテルはノルウェー社会の縮図ーーー
◇ホテル1222◇ -1222-
アンネ・ホルト 枇谷玲子 訳
雪嵐の中、オスロ発ベルゲン行きの列車が脱線、トンネルの壁に激突した。運転手は死亡、乗客は近くの古いホテルに避難した。ホテルには備蓄がたっぷりあり、救助を待つだけのはずだった。だがそんな中、牧師が他殺死体で発見された。吹雪は止む気配を見せず、救助が来る見込みはない。乗客のひとり、元警官の車椅子の女性が乞われて調査にあたるが、またも死体が……。ノルウェーミステリの女王がクリスティに捧げた、著者の最高傑作!
☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆
ベルゲン行きの列車が記録的な雪嵐のために脱線した。怪我人は多かったが、死亡したのは運転手1人、しかも近くにはホテルとそれと併設しているアパートメントがあり、乗客は皆、そこに避難することができた。
先の事件で半身不随になってしまったハンネは医療治療のためにベルゲンに行く途中だった。ハンネは車椅子姿という弱者的存在の具現そのものに対する周囲の同情と憐憫と過度な手伝いに嫌悪し、周囲と距離をとる。
ところが、周囲と接しなければならない緊急事態が発生した。ホテルの中で牧師のカートが死体で見つかったのだ。外は吹雪で救助の見込みもなければ外から出入りできる状態でもない。他殺だ! しかしこのことが知られればパニックになる。ハンネは弁護士のガイル、赤十字メンバーのヨハンらに請われて事件を捜査する。
さらに事故を起こした車両には厳重に警備された人物が乗っており、ホテルの最上階に閉じこもっているという噂が流れ、どんどん空気は不穏化する。ただでさえホテルはノルウェー社会の縮図のように様々な身分と老若男女がいるのに……そしてカートのことが少しずつ明らかになる中でまた新たな死体が!
☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆☆*:.°. .°.:*☆
「ホテル1222」です(・∀・)
孤高の女性捜査官ハンネ・ヴィルヘルムセンシリーズ第8作。先の事件で撃たれたハンネは半身不随になり、警察官を辞めざるを得なくなってしまいました。というかあの怪我治らなかったのか……ショック! 「もう警察官は潮時だ」と思っていた矢先でしたが……それにしたって対価が高過ぎないか!?
警察官を辞めた彼女は数学教授のパートナー、ネフィスと家政婦マリー、そして子どものイーダ以外とはほとんど接しなくなり、周囲との交流を避けています。元々頑固でしたが、頑固に磨きがかかって気難しくなりました。〈フィンセ1222〉でも周囲との交流を避け、したらしたで人とぶつかり、友好関係はとても築けない。しかし時々過ぎる郷愁がなんとなく彼女を寂しがりの人間にしたがる。
今回は現実的、社会派的な北欧ミステリーには珍しいーーー本格ミステリではよく見られるクローズドサークルもの。列車が脱線してしまい、吹雪が凄いのでホテルに避難。そこで事件が起こっても吹雪が人間を閉じ込める! さらに雪がすご過ぎてインターネットも電話もできない! 現代でクローズドサークルするならこのくらいしなきゃダメですよね。これは季節と場所を選びますが、いつだか読んだ大都会のクローズドサークルものはよくできていたなぁ。
しかし本格ミステリの味は舞台だけ。避難客169名が富裕層、中流階級、外国人、学生、子ども、夫婦等々……ノルウェー社会のミニチュアを構成し、そこからも闇や影を浮き彫りにするところは北欧ミステリーです。クローズドサークルものは本格ミステリの主流。どちらかというと「不可能犯罪」やトリックに凝ったゲームのような作品が圧倒的な中、それを無しに人間を書いたアンネ・ホルトはさすがです。
あとがきを読むに本書が本国でも最新刊の模様。しかし元警察官になってしまったハンネを主人公に書き続けるならどういったシチュレーションにするんでしょう……良き元同僚ビリー・Tが脚になるとか?
「ホテル1222」でした(・∀・)/
次はいくぜ、「動く島!」(*^o^*)/