目の前の人とものをあるがままに、自然の中に自由を求め!
◇牛肉と馬鈴薯・酒中日記◇
国木田独歩
近代的短編小説の創始者独歩の中・後期の名作を収録。理想と現実との相剋を超えようとした独歩が人生観を披瀝する『牛肉と馬鈴薯』、酒乱男の日記の形で人間孤独の哀愁を究明した『酒中日記』、生き生きとした描写力を漱石がたたえた『巡査』、ほかに『死』『富岡先生』『少年の悲哀』『空知川の岸辺』『運命論者』『春の鳥』『岡本の手帳』『号外』『疲労』『窮死』『渚』『竹の木戸』『二老人』。
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1.死
2.牛肉と馬鈴薯
3.巡査
4.富岡先生
5.少年の悲哀
6.空知川の岸辺
7.酒中日記
8.運命論者
9.春の鳥
10.岡本の手帳
11.号外
12.疲労
13.窮死
14.渚
15.竹の木戸
16.二老人
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だってねエ、理想は喰べられませんものを!
ーーー国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」より。
超ご無沙汰しております「文豪ストレイドッグス制覇計画」、この度やっと小説編に入ります。
「入ンな」
果たして、室内より甲高い答えの声があった。
幾つもの遠隔錠前が施された重い樺製の戸を潜り、室内に入る。
室は二十畳に少し足りぬ程度。壁に床に電子機材が積み上げられ、光電素子の明滅が薄暗い室内を照らして居た。
部屋の奥中央には電算筺体の群が立ち並び、野良犬の唸りの如き冷却扇の音を響かせて居た。机上に四枚ある液晶版に、それぞれ別個の画面が青白く光る。
「イヨオ眼鏡。今日も手帳の言成かい?」
(中略)
机に両脚を載せてふんぞり返る情報屋は、十四歳の少年だった。(P.34)
電網潜士(ハッカー)「田口六蔵」少年です(・∀・)
挿絵もないし、わたしはアニメも見ていないし、小説から初登場シーンを抜粋させて頂きました。
六蔵少年はかつて武装探偵社と《蒼色旗の反乱者》によって警察官だった父親を殺され、ハッキングを仕掛けたところで武装探偵社に捕まって国木田さんの世話になっている少年です。14歳という子どもですが、実力は一丁前で国木田さんは今回、行方不明者探しに六蔵少年を頼ります。
……どうしてここでは六蔵少年だったのでしょう? 国木田さんには花袋さんという友達がいるじゃありませんか。いつ辞めたのかは分かりませんが、最初は花袋さんの意志で辞めたのだと思っていましたが、12巻を読んで花袋は誰かの命令で探偵社を離れたのでは? と思うようになりました。だって六蔵少年初登場の時点ではまだ黒幕が《蒼王》だとは分かっていなかったわけだし。当時花袋さんは何らかの命令(指示者は多分夏目先生とかそこら)を遂行中なので頼ることができず、止むを得ず六蔵少年を頼ったのでは……というのがわたしの予想です。
六蔵少年は最期、人の手で殺され、自分も人を殺してしまいます。それは国木田さんの理想ーーー「誰も死なない」が打ち砕かれた瞬間でした。
武装探偵社は「正しすぎる」人間ばっかりが集まっています。国木田さんも与謝野さんも谷崎さんも賢治くんも社長も敦くんもまっすぐ過ぎるほど正しい。それが時には自分を傷つけることになるのにそれを辞めようとしない。武装探偵社にはそういった人間ばっかりで、正しいだけでは生きていけないことを知っている太宰さんと鏡花ちゃんはその眩しさに哀しくなり、絶対に手に入らないと諦めの気持ちを持ち、その一方で羨ましくもなり、どこかで救われた気持ちにもなっているような。
さて、本題。六蔵少年の基は本書の9番目「春の鳥」に登場する白痴の少年、田口六蔵です。文ストの六蔵少年は本物とは真逆ですが、ここでの「私」は英語と数学の教師ですから、国木田さんの前職と同じです。そして六蔵少年の死後の母親の言葉「六は、死んだ方が幸福で御座いますよ」は六蔵少年が殺した佐々城信子女史の最期とも重なります。「これが一番善かったのだよ」という言葉と。
国木田独歩は日本で最初に純文学を書いたと言われており、自然主義文学の先駆者です。彼の淡々とした、あるものを感情無しに書く文体は当時の流行りであった華やかな硯友社にはそぐわずに早過ぎました。
国木田独歩の短編は主人公の多くは自分自信で事件は起こらず、激しい起承転結もありません。しかし国木田独歩の淡々とした人間の描写には人、自然、世界の真実があるような気がします。「牛肉と馬鈴薯」の「不可思議な自然に驚嘆したい」はその最たるものと考えます。国木田独歩の方が徳田秋聲よりも詩的で哲学があるように思えます。
「牛肉と馬鈴薯・酒中日記」でした(・∀・)/
次は国木田独歩の私生活に突っ込みます…(*^o^*)/