私が製本をする上で一番力を入れて取り組みたいと思っているのは、革装の綴付け製本です。いわゆるルリユール。ルリユールはフランス語で、もともと広義では製本全般を意味しますが、現在では工芸的な製本のことを指すようです。
ルリユールとは言えない、手軽に取り組める簡易製本も大好きですが、製本に興味を持ったのは、まずルリユール。その後、簡易な方もノートやアルバムなどの実用品を作るために、製作するようになりました。こちらは好きな紙や布をそのまま表紙に使えるので、また別の楽しさがあります。
本来は簡単な方からスタートし、慣れてきたらルリユールに挑戦、といったプロセスなのですが、そこはフレキシブルな中尾エイコ先生、いきなり初めからルリユールを教えてくださいました。
お蔭で簡易な製本は構造を見れば習わなくても作れたり、習ったとしても意外とスムースに出来たように思います。もちろん、簡易製本でもそれぞれ独自の難しさはありますので、何年経っても満足の行くものを作るのは容易ではないです。
ルリユールについては、完成品をコンクールに出すことが多く、その場合、出品まで公開してはならない決まりがあるため、製作過程をブログ等でリアルタイムで公開することができません。
だからいつも完成品をお披露目してるだけ。でも一度(ならず何度も)ルリユールの製作過程もご紹介したいなぁと思っておりました。
前置きが長くなりましたが、
今年の春、イギリスのThe Society of Bookbindersの国際製本コンペに提出し帰って来た作品がありますので、そのご紹介と併せて製作過程も振り返りながら、ゆっくり投稿したいと思います。
今回、残念ながら受賞はしていませんが、全ての出品作品がカタログに掲載されます。それだけで嬉しい。こちらがカタログ。
本の中身は、2002年にイタリアで行われた製本国際コンクール専用に印刷されたもので、アッシジの聖フランチェスコが書いた詩(祈り)、「太陽の賛歌」(創造主への賛歌)です。
原題:Cantico delle Creature
著者:S.Francesco d’Assisi
全ての被創造物を創造した神を褒め讃える内容です。
文章自体は短いのですが、複数の言語でかつ複数の訳パターンがあるため、それなりの厚さの本になっています。日本語訳も2パターン掲載があります。
製本コンクールで本が指定の場合、参加者には、未綴じの状態で本が送られて来ます。それを読んでから、内容にあうデザインで製本して出品します。
この本のように文章が短く、日本語訳の掲載がある場合、すぐに読み終わって作業を始められますが、文章が長い、日本語訳がない(掲載もなく、出版もない)、などの場合、原本を読んでいては時間がかかるため、そんな時は本文をスキャンしたりコピーしたりして、それを読みながら同時進行で製本作業にかかります。作業をしだすと本をあけられませんから。
2002年のコンクール、と書きましたが、実は当時申し込みはしたものの、結局提出はしませんでした。申し込んだ時はまだいける!と思ってたのでしょうが、出産、育児が大変な時期と重なり、結局製作しなかったようです。
でもずっと、押し入れに未綴じ本が眠っているのは気になっていて、13年間寝かせ、ようやく2015年に取り掛かることになりました。2015年から、芦屋の市田文子先生に製本レッスンを受ける機会を得たので、レッスンで使う材料とさせてもらいました。
先生ご自身は当時のコンクールに出品されたので、内容や紙質のことなどよくお分かりで、教えて頂きやすかったです。
一番上の画像が完成品です。
次回から制作プロセスを少しずつ書いていこうと思います。