ショートショートの価値/星新一 | できれば本に埋もれて眠りたい

ショートショートの価値/星新一

星新一

1001話をつくった人


最相葉月


星新一 一〇〇一話をつくった人/最相 葉月
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ショートショートの第一人者、星新一。

その伝記です。
なんだか悲しい話でした。


戦前全国展開し、お客にも経営者にも夢と希望を与えた星薬局。

そこの社長、星一の長男として「星親一」は生まれました。

規模も大きくなり、政商、と言われる規模にまで発展したところで、戦争終結、そしてカリスマ社長の死。


長男として後を継ぎますが、教育はされてはいたものの、清濁併せ呑んで業界の魑魅魍魎とやりあうには、性格もあいませんでしたし、年齢もまだまだ(20代前半)でした。


様様な利権が絡む中で、気が付けば多くの財産と多くの借金。それも誰のものかよく分からない状態。ある程度整理がついたところで自分は閑職に退き、しばらくすると小説を書き始めるのでした。そして「星新一」が生まれるのです。


人間くさい部分を極力排し、ぞくっとするような、皮肉めいたような、くすっとするような、奇抜な取り合わせと鮮烈なオチ。


そのショートショートは、元来の自分にも他人にも感情めいた部分に興味がもてない性格と、社長時代に味わった人間のどろどろした部分からの逃避、それが合わさった不思議に今までの日本の小説とは違う、オリジナルなものでした。


しかし、不幸はそのオリジナル、ということにあったのでしょう。

ショートショートといえば後にも先にも星新一です。

他にも数多くのショートショート作家がいれば、その分野での比較ができ、その良さが位置付けられたのでしょうが、他にいないため、「ショートショートの星新一」として読まれることしかできなかったのです。


時代は純文学全盛。

SF・ショートショートは星新一とともに成長したようなものです。

その新分野のオーソリティーを的確に評価できる人はだれもいなかったのです。


他の作家は、それなりの評価や賞を得ていくのに、自分はなにも与えられない。

初期の自分の才気のみでジャンルを切り開いていたころとは違い、何を目指しているのか分からなくなり、スランプに陥っていくのでした。

そこで自ら偉業として1001話を目指すようになるのです。


作家としては、マンネリを書いて売れればそれが最高、という感じで皮肉めいて言ってはみるものの1001話を目指した創作活動は質と量を保ち、媒体も確保しながらの困難な道でした。

そして星新一らしく、1000話ではなく1001話、それも1001話を9雑誌に同時9編を掲載し1001話越えとなるのでした。


トータルで2000万冊以上売れ、現在でも売れつづけ、翻訳も多い星新一のショートショート。

それだけで十分価値があることは自明なのですが、晩年の星新一は過去の作家として扱われ、なんだかさびしげでした。

ショートショートの作家として軽んじられた様子とそのさびしげな反応を読んでいると、やっぱり人は評価されなければ自家中毒に陥ってしまうものなのか、と思いながら、最相というノンフィクション作家から見た目が相見えただけで、誰も知らないところでそれなりに満足した作家生活だったのかも、と思ってしまいます。


いずれにせよ、そのうち星新一の再評価が行われるような予感を感じさせる作品でした。


といいつつ、私はほとんど星新一の作品を読んだことがありません。

私も純文学至上主義に侵されていることを新たに自覚した作品でした。