奥歯に詰まった私は私かそれでいいのか/『わたくし率 イン 歯ー、または世界』川上未映子 | できれば本に埋もれて眠りたい

奥歯に詰まった私は私かそれでいいのか/『わたくし率 イン 歯ー、または世界』川上未映子

わたくし率 イン 歯ー、または世界
川上未映子

わたくし率イン歯ー、または世界/川上 未映子
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-それが今のところ、わたしに脳はあんまり関係ありませんで、なんとなればわたしは奥歯であるともいえるわけです。なぜならわたしは単純に脳にはぐっとこん。脳にはあんまり魅力がないので、脳じゃないと、こうしたいのですよ。

ぐっとこん、いいですね。

語られるのは、自意識と奥歯というわけの分からない取り合わせ。
まだできてもいない子供にたいする語りかけ日記や歯や歯医者についての奇妙なイメージ。

饒舌な語りの上手さと、妄想ながらなんとかついていけるストーリー、哲学的自意識問題の独自アプローチや時折混ざる恋愛感情と奇想の連結の鮮やかさなどで最後まで読みつづけられるのは、ひとえに作者の力量ともいえるものの、さてこれは芸なのか地なのかが心配になってしまいます。

しかし同時収録の「感じる専門家 採用試験」でも同じ妄想文体で、あぁ地なんだなと分かります。

どうやら「父と卵」で芥川賞候補にまたなったようですが、この文体のまま、よいテーマと向き合えれば期待できますが、なお世界観が変わっていないようなら、地が地になってしまいそれはそれで残念です。


なんだか無農薬野菜に派手な色の芋虫がいるのを見つけてしまったような気分で読んで、久しぶりの分けのわからない小説は驚きがあってよかったのですが、候補作はどうなんでしょうか。


タイトルの分けのわからなさはここ最近でもぶっちぎりの一番で、よいですね。
なんやらわからん存在感だけは感じた作品でした。