眩暈がするような散文の構築/パタゴニア | できれば本に埋もれて眠りたい

眩暈がするような散文の構築/パタゴニア

パタゴニア
ブルース・チャトウィン


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パタゴニア/老いぼれグリンゴ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-8)/ブルース・チャトウィン
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南アメリカの南部を指す「パタゴニア」。
荒天で風が強いところで有名で、そこを旅したブルース・チャトウィンの1977年の旅行記。

しかし通常の旅行記とはまったく違います。
全部が96章に分かれていて、適当に抜き出してみます。


16章
「私は牧夫の小屋で寝た。その夜は冷えた。彼らは私に折りたたみ式ベッドと、上掛け用に黒い冬のポンチョを提供してくれた。ポンチョやマテ茶の道具やナイフ類以外、牧夫の持ち物は何ひとつなかった。・・・」

33章
「ウィルソンとエバンスとはいったい誰なのか。
暗黒の無法者のい歴史の中では、どんな解釈も可能である。が、いくつか手がかりはある。・・・」

37章
「さて、私は山地へ戻る理由がふたつあった。ひとつはウエメウレス渓谷にあるチャーリー・ミルワードの古い牧羊場を見るため、もうひとつはパラシオス神父の話していた一角獣を見つけるためである。・・・」

56章
「1890年代、かつてパタゴニアで芽吹いたダーウィニズムが、残酷な形でパタゴニアに戻り、それがインディオ狩りに拍車をかけるようになったようだ。”適者生存”のスローガンはウィンチェスター銃や弾薬帯とあいまって、はるかに適者であるはずの原住人よりもヨーロッパ人の方がすぐれているという幻想をもたらした。・・・」

93章
「私はプエルトコンスエロから洞窟までの四マイルの道のりを歩いた。雨が降っていたにもかかわらず、太陽の光が雲の下から差し込み、藪の上でキラキラと光っていた。・・・」


パタゴニアを旅しながら、興味がある人がいれば会いに行き、気になった歴史があれば調べ、知っている人を訪れ、パタゴニアの犯罪史、航海史、開拓史、地理、考古学、などあらゆるものに興味を持ち、たんたんと各地を回っていきます。

世界各国からの移民や現地人に触れ合い、過酷な天候と多くの人の過酷な生活をともにしながら旅するようすはただ興味本位で旅をするというには、深く広い旅になっています。
それはもう日常生活のような旅。

時代も地域も彷徨いながら、体臭までしそうな距離でパタゴニアの人々と接して、まったくの散文ながら非常に濃い作品になっています。
パタゴニアの地理と歴史に惑いたい方は、十分な時間を用意して浸ってみてください。


この人のかいたオーストラリアのアボリジニの本、「ソングライン」も前から気になっていたんですが、これを機会にまた読みたくなりました。
探してみよう。