ビニールシートのイメージが変わる/風に舞いあがるビニールシート
風に舞いあがるビニールシート
森 絵都
- 森 絵都
- 風に舞いあがるビニールシート
そうか、読んだ後に見ると表紙もタイトルも雰囲気がかわるなぁ。
児童文学作家から、直木賞を受賞して一気に作家として認知度を広めた森絵都の「風に舞いあがるビニールシート」を含む短編集。
「器を探して」
「イヌの散歩」
「守護神」
「鐘の音」
「ジェネレーションX」
「風に舞いあがるビニールシート」
の6作です。
どれもさすがにうまい。
「器を探して」は天才パティシエに振り回されるアシスタントの奮闘記。
最後の部分は女性作家しか書けないなぁと感心しました。
「イヌの散歩」は、「犬は、私にとって牛丼なんです」という言葉をフックに語られる、犬のボランティアとともに語られる主婦の日常。非常にうまく分かりやすく感動的に作られています。
「守護神」は、社会人学生の単位取得作戦に絡めたフリーターのある種の「解放」の話。
「鐘の音」は仏像修復師のトラウマ懐古「解放」の話。
「ジェネレーションX」は中年サラリーマンと若いサラリーマンがクレーム対処のためお客様に陳謝しに行く道中記。
「風に舞いあがるビニールシート」は・・・是非読んでみてください。
うまいうまいというのは、どれも読者の予想を裏切るストーリーテリングを行いながらオーソドックスな感動の話にまとめていて、どちらかというと脚本家向きのうまさが感じられました。
しかし全体をとおすと
「器を探して」は若い女性向けの多少ひねった作品。
「イヌの散歩」はもう少し高年齢を狙った女性向けストレート感動作品。
「守護神」はまじめな若い男性向け。
「鐘の音」はまじめな中年男性向け。
「ジェネレーションX」は男性向け娯楽感動作品。
「風に舞いあがるビニールシート」は全方位、しいていえば若い女性向作品。
と非常に攻略的とも野心的にも見えます。
とはいえ、男性向けの作品では、ちょっとした違和感も感じます。
また「永遠の出口」「いつかパラソルの下で」 では、「こういう女性を書きたい」という感じをうけましたが、この作品のいくつかはそういう感じが薄くテクニックの先行がいくつか感じられました。
こういった間口を広げた作品も作家にはどこかの段階では必要かと思いますが、もう少し進んだらさらに女性に焦点を絞ったものを書けばさらに奥行きを持った作品が期待できそうな気がします。
とはいいつつ、個人的にはいまいちギクシャクしている「守護神」が一番なにかひっかかるいいものがあったなぁ、と思っています。
もちろん受賞作「風に舞いあがるビニールシート」は短編集のトリを飾る満を持しての作品です。
道具仕立てもこっていますし、感動の1作です。
短編は切れ味 、ということで、前情報なしとしてみます。
森絵都ファンならオススメの1作です。
--追記--
有名作品なのでアメブロ内の他のサイトを拝見。
大体50件ぐらい読んでみました。
「感動した」という人が多く、何人かは「ありがち」、と言う方もいました。
人気の短編はダントツで表題作「風に舞いあがるビニールシート」で、他はだいたい同じぐらいの人気。
多くの人が共通して「うまい」といっていますが、なかには「もっとがんばれば名作になったのでは」という方も。
なるほど、と思いました。
本の読み方は千差万別、とまではいきませんが、全部が想像の範囲内、ということもなく確率の分布のように少数の興味深い意見もありました。
ま、ここまできっちり作ってあってしかも短編なので読み方のバリエーションは少ない方だと思います。
他の作者の長編なら、感想も色々増えるのでしょう。
しかしそうはいっても、自分の感想とぴったり同じ、という人もまたいないのですね。
なんだか寂しいというか、当たり前というか。
なんだか面白いので、時間とよいサンプルがあれば、他の作品でもこういったことをやってみたいと思います。