ノンフィクション作家のモザイク | できれば本に埋もれて眠りたい

ノンフィクション作家のモザイク

ノンフィクションを書く!
インタビュー 藤吉雅春

新鋭のノンフィクション作家に「ノンフィクションを書く理由」あたりをインタビューをしたもの。
おかしな人がやっぱり多いようです。

中村智志ダンボールハウスで見る夢」で講談社ノンフィクション賞を受賞。朝日新聞社員。
この本は、いわゆる人権モノではなく、個性豊かなホームレスの人々のそれぞれの物語を、普段の日常とあわせながらかきあげた本のようです。
ホームレスの方々からそれぞれの人の物語を聞けた理由として、本人は自覚がないようですが、たとえば残飯でできた夕食を出されてなにも思わずそのまま食べた(本人いわく「胃腸は丈夫から」みたいな感じでそのことには気負いはなし)あたり、 この作家のボーダレス感が現れています。
 
中村 智志, 〓 昭
段ボールハウスで見る夢―新宿ホームレス物語


野村進フィリピン新人民軍従軍記」でデビュー。「コリアン世界の旅」で大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞ダブル受賞。
野村進の作品は何冊か読んでいますが、自分なりのこだわりを小さくとも固持するところ、エンターテイメント性を理解しているところが好感がもて、いまのところはずれはありません。
本書のなかでは、大杉栄の「自らその事実の中に身を投じて見よ」というあたりを引用しているあたりや、「自分の世界観をつくってみたい」というあたりに、野村進の方向性に納得がいきました。膨大な労力と社会正義以外の原動力はなにかな、と思っていたので。気になる作品としては「天才達」「アジア定住」「アジア 新しい物語」かな。

 
野村 進
フィリピン新人民軍従軍記―ナショナリズムとテロリズム
 
野村 進
コリアン世界の旅
 
野村 進, 井上 和博
アジア定住―11ヵ国18人の日本人
 
野村 進
アジア 新しい物語


金子達仁叫び」「断層」の記事でミズノ・スポーツライター賞受賞
サッカー関連ではいちばん有名なライターでしょうか。
かわいそうに 金子達仁の回答で「想像力でビンゴの質問をする」とかいわれたらインタビューイもあせるよねぇ。あせっているようでした。でも「取材を終えて」で本書のライターが「金子さんは自意識が強くて、そこが一流選手とあうのかも」と書いてありましたが、そこはなるほどと思いました。
インタビュー内容は他の本にも掲載されている内容なので、その辺の意識のなさはノンフィクション作家としてはどうかと思います。


井田真木子プロレス少女伝説」で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。「小蓮の恋人-新日本人としての残留孤児二世」で講談社ノンフィクション賞受賞。
今回読んだ中で一番の変人に思えました。ライター修行の話で、同じテーマについてボツになっては、「同じテーマで今回書いた内容を使わずに書く」ことを5回も編集者に強要され理由を尋ねると「いっても分からないだろうから」と。
自分のことを「頭が悪いので」となんども言っている割には、取材方法も考えられており(あの「うるせぇ」しかいわない神取忍にしゃべることを練習させるところから取材を始めたりしている)、頭はいいけどヘンな方向に向いていて、行動は常に暴走気味。
ちょっと怖いけど興味深い。気になります。

 
井田 真木子
小蓮(シャオリェン)の恋人―新日本人としての残留孤児二世


小林紀晴
アジアンジャパニーズ」でデビュー、話題となる。「DAYS ASIA」で日本写真会新人賞受賞。
はじめから「僕はノンフィクション作家ではなくてカメラマン」とのこと。
そういえばそうだ。
写真を発表したくて、それに文章をつけて本にした、といっています。
だから写真が主で文章が従。
あの奇妙な平板だけど味の文章は、写真の説明でしかないんだ、と納得。
今の若者の妙な生の希薄さをそのまま取り出せる稀有な作家ですが、文章ではなく写真で勝負しているからかなと理解できました。

 
小林 紀晴
ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ〈1〉


加賀孝英 政治関係のスクープ記事が多い。「笹川一族の崩壊」で雑誌ジャーナリズム賞スクープ賞を受賞。
のっけから「91年に羽田沖に墜落した全日空機は爆破された」とスパイ小説並。米軍情報部のエージェントと知り合い話を聞いて調べていくうちに、海上自衛隊やアマチュア無線家から発表と違う証拠が次々とでて、「マッハの恐怖」を書いた柳田邦男も絶句。
東芝のココム違反のスクープでは取材中に盗聴や尾行をされ、香港滞在中には「気をつけろ」とホテルに電話がかかってくる。
笹川一族のスクープでは、取材中「命はくれぐれも気をつけてください」「ホームは一人で歩かないように」という留守電がパンクするまで入れられる。そしてある朝警察から「これから船舶振興協会の前事務局長を逮捕する。キミにだけは先にいっておこうと思ってね。キミのおかげでここまでできた、ありがとう」との電話があり、編集部でTV確認して、編集部を出た後緊張感が緩んで号泣。
いやぁ、ほんとにこんな世界があるんですね。


江口まゆみ 「タイ・ラオス・ベトナム酒紀行!」で話題に。
「酔っぱライター」として自分のまだ飲んだことのない酒を求めて世界辺境まで取材。どんな紛争地や犯罪地帯でも「酒を探しにきました」といってどんどん奥地までいく。それはじつは文化人類学者からも「空白地帯」いわれているようなところで学術的にも貴重な取材だったりもするような内容。しかし一番興味を覚えたのは、危なくないのですか、という質問に「相手の顔を見て判断」との回答。小さな頃から引越しが多く、自分の敵味方を判断する力が養われたのかも、と語っています。うーんなんかすごい。

 
江口 まゆみ, 小の もとこ
タイ・ラオス・ベトナム酒紀行!


永沢光雄 「AV女優」が1篇1篇が長編小説級、と立花隆に絶賛され、話題に。
大学中退、演劇活動後、なし崩し的にフリーライターに。ライターの世界の世知辛さを実感しているので「ノンフィクションなんてないよ」といっています。インタビューを読んでも、特記することはありませんが、この本は前から気になっていました。

 
永沢 光雄
AV女優


吉田司 水俣病のルポ「下下戦記」が水俣支援団体から「厄災の書」といわれつつも大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
学生運動、政治活動で徹底的に非人間的な行為を行った結果、政治活動を離れても自分が普通の生活を送ることを許せなくなってします。そういった立場から数々の現場で「よい人」ではない視点で取材、発表。取材先では必ず嫌われるとのこと。
こういう人も必要かなと思う反面、政治活動でやっていることも、その後のひねくれた生活も、理解できません。
こんなひともいるんだなぁ、と思いました。

吉田 司
下下戦記(げげせんき)

こうしてノンフィクション作家のインタビューを読んでいる、金銭的に恵まれている人なんでほとんどいなさそう。
それはもう、完全に好きでやっているか、それしか生きる道がないか、といった感じです。
やらせ全盛の今の時代にノンフィクションというのは完全にういてしまっているような感じもしますが、まだまだ深耕できる分野と思っています。
ノンフィクション作家さん、もっと楽しい作品を、どんどん出してください。