短編巧者 | できれば本に埋もれて眠りたい

短編巧者


朱川 湊人
花まんま

 タイトルと表紙のイメージからは「昭和初期のノスタルジックストーリー」と行った感じですが、そんなことはありません。
 最近の流行でしょうか、ちょっとしたファンタジーを入れながら、ちょっとつらめの日常を健やかな明るさでなんとかしていく話です。
 よく考えるとやりきれない話が出てきますが、それを小説として処理していく技は、目立ちませんが、なかなか達者です。

 短編集で、大体、大阪で60ー70年代に小学校低学年ごろの主人公の話で、どれもなかなかです。
 「トカビの夜」は、大阪万博のころ、近所の朝鮮人の友達との交流を描いたもの。この頃の下町なので、あからさまに差別があり、引っ越してきた主人公はだんだんと周りの影響受けてきて、という話です。ちなみにトカビは韓国のお化けです。
 「妖精生物」は、なんだかよく分からない生き物を買って育てる話です。バックボーンの暗い話と暗い淵を覗き込むように生き物を飼い続ける、短編中一番暗い話ですが、なにかしらの妙な軽さがあります。
 「摩訶不思議」いかにも大阪、というバカ話で、死んだおじさんを乗せた霊柩車が火葬場の前で動かなくなってしまい、みんなを困らせているところに、愛人がきて霊柩車が動くようになったのですが・・・といった感じです。
 「花まんま」妹が生まれ変わりのようでだんだんと前世の記憶を思い出していきます。妹思いの兄は、今の家族を保つためにできるだけ思い出させないようにするのですが・・・。さすが表題作、いい作品です。
 「送りん婆」は、「死の呪文」を知っているおばあちゃんと女の子の話ですが、かといって大きなできごとはない、たんたんと語られる普通の女の子の話です。
 「凍蝶」は、こんどは主人公が差別される側になった話です。友達もいなくなってから、墓地に行くときれいなお姉さんがいて、なんだか話をするようになっていきますが、というちょっと切ない大人を垣間みる成長物語です。

 全編、ノスタルジー色は強いのですが、変な色づけも少なく、比較的すっと読めて、大騒ぎする作品ではありませんが、好感をもって読むことができました。