「次のお休みは旅行に行くの?」

スーパーの入り口のところで偶然会ったT君に私は尋ねた。

誇らしそうに電車の切符を見せられて「10時には出発なんだ」なんて言われたから、てっきり旅行の予定があるんだと思って。

 

 

 

「ううん、行かない。だけど旅行中に食べるお菓子を買いに来たんだ」

・・・・?

何を言っているのかわからないので、詳しく話を聞いてみる。

 

 

 

彼は肉体労働で必死に稼いだお金を、その切符に注ぎ込んだ事。

それは次の長休みに新幹線に乗れるチケットで、でも家族は彼が一人で出掛けるのを許してくれない事。

 

 

 

そこで彼は旅行の準備をしっかりとして、時刻表で乗り換えもスムーズにできるようチェックして、家の中で旅行気分を味わうことにしたという事。

それで、電車に揺られてるつもりになりながら食べるお菓子やお茶を買いに来て私に出くわした、という事らしい。

 

 

 

心は自由だと常々思ってるけど、彼より自由な心を持ってる人に私はまだ会った事がない。

軽い知的障害がある彼を心配するご家族の気持ちはよくわかるけど、楽しみにしてた旅行を止められて、きっと彼はがっかりしたはずなのに。

それでもあんなに柔軟に、楽しそうな顔ができるなんてすごい。

 

 

 

麗らかな日曜日なんかに、しゃー、たったかたー、たったかたー・・・・と線路を低く鳴らしながら電車が走る音が聞こえると、最近もT君は空想旅行してるのかな、なんてぼんやりと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

この本は流行り物になるのかなぁ。

紀伊国屋で平積みされてた。

ベストセラーに流行ってるタイミングで手を付けるのは、なんか照れる。

 

 

 

でもこれが流行る世の中なら、まだ未来は明るいかもと思う。

ピュアでやさしくて、ストレートで、希望の持てる言葉が散りばめられてる。

1時間もかからずに読めちゃうけど、寂しい人や傷ついてる人に寄り添う言葉だけでつくられてる。

こういう言葉を定期的に接種してれば、心が毒に侵される事が少なくなるかもなと思う。

 

 

 

強くて偉い人になるのも難しいと思うけど、私にとってはそうなりたいと思わずに暮らすのもまた、難しい時がある。

だけど私はなんのために力が欲しいと思ってる?って。

愛すべき人たちを笑顔にしたいって、ほんとはそれだけのはずなのに。

それならそんなゴリゴリマッチョな考え方する以外に何か他に方法はない?って。

そういう事を考えさせてくれる本です。