妻のめーちゃんはテレビをあまり見ない。

いつもは携帯をいじっているか、

果てしなくぼーっとしている時が多い。


ある日、私はテレビを見ていた。

『頭文字D』という車を題材にしたアニメだ。

峠道をハイスピードで競い合う姿に視聴者は

熱くなること間違いない。


めーちゃんは隣に居たもののいつも通り

携帯と睨めっこをしていた。

しかし話数が進むにつれ

最初は全く興味が無さそうだったのが、

いつの間にか真剣にアニメを見ていた。


数話過ぎた頃、開口一番に

『明日、86のトミカ買ってきて♪』

※86とは、このアニメに出てくる主人公の愛車。

どうやら気に入ったらしい…


次の日、

私は仕事の休憩時間に玩具屋を周り

めーちゃんへのプレゼントに

86のトミカを探し歩いた。



その日の晩、

トミカをプレゼントした時の

めーちゃんの笑顔は

私まで嬉しい気持ちになる表情だった。


そして後日、2人でお出かけした時の話。

大きいゲームセンターがあったので

立ち寄ったら頭文字Dの対戦レースゲームがあった。

2人は無言で乗り込み100円を投入した。


めーちゃんは86を選択し勝負を挑んできた。

『さぁ!熱いバトルをしよう!』

そう心で呟きアクセル全開でスタートした。


最初のコーナーを抜けた辺りから異変に気付く、

『……ん?あれ?』

後ろからめーちゃんの86が追っかけて来ない。

ブレーキを軽く踏み待ってみたら86の姿が

そろそろっと現れた。


えーっと。すごく遅い。

何故だ?と思い

めーちゃんのゲーム画面を見てみたら

50km〜60kmほどしか出していない。

とても真剣な顔ツキで

法定速度ギリギリの攻防を繰り広げていた。


何してるの?


もう一度説明させて欲しい。

頭文字Dとは、峠道をハイスピード(100km以上)で

コーナーを曲がったりして

相手より早くゴールラインに辿り着かなくてはならないレースバトルだ。


それを踏まえてもう一度。

『何してるの?』


めーちゃんは原作もみて理解している。

子供たちがやってるマリオカートのゲームですら

もっとスピードが出ている。


とにかく今起きている事を理解する為に

めーちゃんの86に抜かされてみて

後ろに付いてみたら、

私の車も50km〜60kmのスピードとなった。

そりゃそうだ。


目の前の86は峠道を

ドリフトもせずブレーキランプを点灯させ

綺麗にコーナーを抜けて行った。

それはまるで自動車教習所で見るお手本のような

コーナリングだった。


一通りめーちゃんとの峠ツーリングを楽しみ

終盤、私はアクセルを強く踏み

このバトルではないツーリングに終止符を打った。


ツーリング後、

めーちゃんは

『初めてだったけど、

良い勝負ができて楽しかった〜♪』

誇らしげな顔を見て

本気のバトルをしていたんだと察した。


その後、

私は再戦を申し込まれたが速やかにお断りした。