自主パトロール
―――――――――《自主パトロール》
「所長、今月のパトロールは10月△日になっています」
「えっ?一番タイミングの悪い時だなァ、もう・・・」
安全パトロールのスケジュール表が労務部から送付され
て来ると、ワイのワイのと対策話に打合せ会議が追従する様になる。
その日がコンクリート打設の前日あたりだと、現場も神経
がピリピリしている時期だし、型枠解体中ならば、資材の散乱状態がゴミの山の様になって見えて
〈場内片付け悪し〉
という評価にも直結する。
鉄骨を建て始める時期と重なると危険予知に力を注ぎ
《建て方 作業手順書》
の内容を再確認したり指摘事項も多くなり、キビシイ注文も出てくる。
現場としても墜落防止を『重要管理項目』にして、緊張感
でプレッシャーを感じるものだ。
今回は型枠解体直後なので、型枠の木屑やコンクリートの
ガラ、紙くずを片付けてはあるものの、解体して転用しようと
している壁の型枠が横積みではなく、たてかけてあるので、
倒れてはこないけれど、見苦しさはある・・・そんな時期に重
なりそうである。
パトロールが来る為に解体作業を遅らせる(ずらす)事にする作業現場もある様だが、
(場内のきれいな時に見てもらう)
位の配慮が必要かどうかは所長の判断にゆだねるしかない
だろうが、私は特に(パトロールが来るから)とは意識しない方針にしている。
平常通りに、普段通りに仕事をしておかないと実際の
『安全管理』
とは言えないのが本音だが、平常がだらしないのだからパトロールの前には総点検も必要だと最近思う様になった。
(姑が来ると嫁さんが片づけの気配りを…と同じかな)
パトロールが来るとか、労基署さんが明日現場視察に来られるヨとかいう気持ちで毎日、場内点検を行なえば、
『無災害竣工』
は目標ではなくて簡単に達成出来ると言えるだろう。
(理想だけどネ)
何はともあれ「明日がパトロール日」と想定して、ひと通り
場内の点検を行なう事とした。
まず分電盤を開けて見る。
コンセントに沢山差し込んである電
線コードは誰が、どこで使っているのか、使用者名と使用機
械名称が表示されているのか、アースは完備されている
か、漏電(ブレーカー)は遮断正常か―――これくらいは毎日チェックしている項目であり完璧だった。
が、相も変わらず二芯コードがある。
アース付きの三芯電工ドラムにしなさいと、もう5年以上も
前から指導しているのにである。
30メートル30㍍の三芯ドラムコードの先にあと少し足りない
ので延長コードで継ぎ足し、電動工具を使用している。
電動工具類は殆ど二重絶縁回路となっており、アース接
続の必要性はなくてもよいが、作業現場の状況、雨降り中
の仕事、工具類の消耗・絶縁不良等を考えれば、アースを
接続(三芯)しての作業が適している。
(《建設現場の子守唄》にも書いているけれどネ)
電動工具類が沢山持ち込まれている時、どれか一つの不良品によって電源が切れると、
「監督さーん、電気来ないよォ・・・」
と全員が待ちぼうけの状態になってしまう。
電気そのものは目に見えないだけに、取り扱いやアースに
は特に注意が必要だ。
又、場内には開口部(マンホール・配管用空間スペース)
が有り《開口部責任者》を表示する様に通達が有り、今月か
ら厳しくチェックされる事になるだろう。
開口部を使用しない間は、頑丈な蓋で閉じているが仕上
げ工事が始まってくると、蓋を開けて中に入ったり、蓋の周
囲の工事があったりして、蓋を一旦移動させる必要が有る。
仮の蓋を横に動かして、マンホールを取り付けようという人
が、自分が取った目の前の蓋のない穴から作業中に落ちるという事故もたまにある。
直径60㌢のマンホールでも人間がすっぽり落ちる。
だから蓋を取り付けるが、仮の蓋がずれて蓋もろともに墜落の話もある。
となると、マンホールの下にネットを張って―――となる
が、ネットを張るとマンホールから下に降りられない。
となると槽の中の仕事は出来ない。
まさにアレレッどうしようだ。
この狭い穴からでも転落し、墜落すれば重大災害に直結
となるのは目に見えている。
開口の下が深い浅いにかかわらず、足元の整備の問題であり、たまたま照明が消えて手さぐり状態の時に開口部で事故を引き起こす場合も、事故報告の原因の一つにもなっている。
開口部分の安全管理には必要のない場所は蓋で封印し
ておけば先ずは問題ないが、それでは仕上げの工事が出
来ないので、蓋が外れた時の対策を墜落防止として管理す
る必要がある。
建設現場の3つの重大災害として
『墜落・重機・倒壊』
事故の内、80%以上を占める墜落事故を徹底的に管理すれば安全率は上昇する。
鉄骨建て方や足代組み立ては言うに及ばず、建物の足代
に載って外壁を仕上げている時は、安全管理に於いては気の休まる時が無い。
足代の床面は40㌢以上の巾を保ち、床から90㌢の所に手摺を設けて墜落事故のない様に万全の態勢で望んでいてもパトロールで点検されると何処か不備を指摘される。
現場で自主パトロール点検表を作り日々管理をしてはいる
ものの、やはり違った人からの安全点検をチェックしてもらう
と、気の付かない事も指摘され安全を見直すにもイイ事だ。
今度のパトロールが来る迄には徹底して
《開口部の管理》
をしておこう。
レッカー代支払事情
―――――――――《レ ッ カ ー 代》
9月に施工した内容を施主に提出する月間報告書を作成した。
秋晴れと言うのは昔の言葉なのだろうか。
この9月は台風もやって来るしデータ的にも降雨日数は年間でも多い月と示している。
いつの頃からか《秋雨前線》と言う言葉も生まれているくらいである。
雨量は少ないけれど雨の降る回数は多い(実際よく降った)様に記憶しているので、工事日誌の天気欄をピックアップしてみた。
何と9月は11回も雨/曇りとか雨、夕方雨とまあ雨の文字が天気欄に書いてあった。
単純計算として中3日も晴の日が続かなかったのだ。
この天気と勝負しながら1ヵ月良く頑張ったとも言えるけれど、まだまだこれから先が勝負である。
今日は3階の梁(2階から上を見た梁)の型枠をレッカーで吊り込んでいる。
梁、スラブ(3階の床になる部分)を現場の片隅で組み立てておいたもの(先組み)を一気に取り付けた。
人の手に頼って一枚一枚その場で組んでいたのでは時間もかかるけれど人手不足、工程アップの為にも
《レッカーを最大限有効》
に使う手段もこれからの時代だと思う。
しかし、レッカー代金は大工が支払うのか、ゼネコンが支払うのかと見解の相違でもめる場合がある。
ゼネコン側から言うと型枠工事の内訳書の中には『レッカー代含む』と明記してはいない。
とにかく型枠㎡数に単価をかけてあるだけで、レッカーで組立てようと、人力で組もうと昔から大工に『おまかせ』なのだ。
特殊な条件としてレッカーを使用せねば困難があり過ぎるという場合は、事前にゼネコンから見積時に書き加える様に指示するのが普通である。
型枠は転用して使うが、その時にレッカーを使う事もある。
1階で使ったモノの中で外壁は2階へ、内壁もある程度は2階へ、梁とスラブは3階又は4階へとバラシ(解体)ては転用するのが型枠材料転用計画だ。
マンション工事の場合は支柱を盛り替えてでも全て上階へせり上げる方法を考える。
曲面の型枠、例えばバルコニーの曲線腰壁の様に繰り返し使うならば、特に転用を考慮しておかないと不揃いのコンクリート面になって見られたものではない。
そうして迫(せ)り上げて行き最上階が終了して、さあ地上へ型枠材料を降ろそうとした場合、型枠を担(かつ)いで階段を降りる訳にはいかない(こともない)。
工事用の荷揚げリフトの正面ならそれに積んで降ろせるけれど、リフトから30㍍以上も離れた所にも型枠資材があるならばどうするのか。
水平移動でリフト迄担いで行き、リフトに載せて地上まで降ろし、やっとトラックに積み込む様な何度も人手間(ひとでま)をかける事はしたくない。
まさか屋上から放り投げる事も出来ない。
一般的に楽な方法としては最上階迄終了したら屋上へ一時仮置きして、一気にレッカー作業でトラックの荷台へ直接降ろす(積み込む)と勝負は早い。
この時のレッカー代は大工の持分なのかゼネコンが支払うのか、思案のしどころなのだ。
先にも述べたけれど、どの様に組み立てて解体しようとも全て大工の契約工事範囲内であるのに〈最終荷降ろし〉のレッカー代は含んでいるのいないので支払い時になってよくもめる。
建築の場合(これは私の経験の場合が正解だろうが)特に工程が遅れていて、どうしても工事を急がねばならない時、レッカーをゼネコン側が段取り(手配)する。
大工さんが直接レッカー業者へ頼んだら、業者間(個人的)の長年の付き合いがない場合には断られる確率が高いのも理由の一つでもある。
作業代金は高額になり契約書が無いので作業現場宛てに請求書を発行しても誰が支払うのか…で紛争を避けたいのがレッカー業者の本音であろうが・・・。
(ゼネコンが頼むのだから所長が銭を支払うだろう)
と職人さん達は思っている。
朝、現場に来た時にレッカーが用意してあるものだから(月極のレッカー常駐の時も有る)使って当然、使わないと監督や会社の言う工程に間に合わない計算を職人流に都合よく考える。
『親方や元請けの為にもレッカーで工程短縮だから、ゼネコンが払うか元請けさんが払うか俺たちには関係ない。俺達は手間請けだから………』
と言う事を平然と言う職長さんが型枠大工に限らず、どの職種にもいる。
そもそも工程が遅れて来るのは、ゼネコンが協力業者の社長と契約時に予定人数を打合せているにも拘(かか)わらず、職人の絶対数不足にも左右されて、職人を現場に送り込めないのが原因の大半(8割)だと私は思う。
ゼネコンの段取り下手も当然あるだろうけど・・・。
《9人の班で行なうと10日かかる仕事を、6人で行なうと何日必要でしょうか?》
という小学校の算数(昔は仕事算といってたもの)を今更使うとは思ってもいなかった。
自分達の持ち分工程でも少し遅れている計算の所へ、雨も降るし手違いもある。
これを取り戻すのに責任を感じない(責任感の乏しい)教育をした我々の先輩達は、何を管理していたのだろうか?
『好景気にただ乗っていて、銭・金言ってれば人は来ない。レッカー車も出始めた頃で沢山レッカーを使って、どんどん仕事をこなしている現場が優れている感覚だった・・・』
と言えば、
「こりゃあ!生意気な事抜かすんじゃあない若造!!」
と怒鳴られるだけで済むかしら・・・。
今の時代、人力で担ぐのには年寄り軍団(おっさんの集団)が多くなっていて無理だ。
『レッカーを有効に使い、能率を上げて儲けを考える』という社長の方針がしっかりしている会社程、景気のイイ話を持ち込んでくれる様だ。
私の結論は
『レッカー代は幻の職人3人分』だ。
だから当然協力業者の支払いだと言う私の偏見ではある。
左官工事(直押え)
《直押え の事》
大事な2階の『墨出し日』だというのに雨だ。
1階のコンクリートを昨日打設して、さあこれから2階の工事に掛かる為の最初の仕事である《墨出し》が墨出しが雨
の為に出来ない。
墨出しをしてみない事には、型枠のチェックすらやり様がない大事な時にこの雨降りの邪魔が入り、全てが順延という事となった。
―――雨の中、傘もささずにコンクリートの上に佇(たたず)み歩いていて色々と思い出している―――
コンクリート床面の《直押え》は上手に仕上がっていた。
これが竣工迄傷が付かねばいいのだが先ず、無理だ。
現場作業としては、土足で仕事をするし、型枠を固定す
る為にコンクリート釘を打ち込むし、各資材は枕木を敷い
てはあるものの運搬中に引っ掻(かき)傷もやがて付く。
上階コンクリート打設中には型枠の隙間からポタポタと
コンクリートのノロ(しずく)が落ちて来ては固まってコビ
リ付いても来る。
型枠解体工事中には支保工が床面に落下して、角パ
イプ等はハネ返るし、脚立を直(じか)に立てて天井を仕
上げる頃には、床面の傷は日常茶飯事になってさえも
いる。
とにかく昨日仕上げたコンクリート表面もカーペットを
貼る頃には、いくら女人夫(片付け・掃除専門職)さんが掃除し
てもなかなか ホコリがなくならないほど表面は汚れ
きっている。
座敷ほうきで掃除した位では床の墨は現れなくて、水
を掛けるとやっと判別出来る様に浮かんで来る迄、表
面は痛み汚れ、傷つけられてしまう。
なのに
(何で直押えをさせるんだ!?)
と昔はよく思った。
床の押えと掃除、傷の補修に二度も三度も左官工の手
を煩(わずら)わせる事で何のメリットがあるのか、とよく現場
所長に意見を言ったものだ。
結論から言えば床にモルタルを塗る事よりも
《タメになる事》
が多いからだ。
モルタルを塗らない場合は床クラックや浮きが出ない。
工程的に床を塗る期間が仕上げ工事の中で省略が出来
る。
キレイに埃(ほこり)を掃除してモルタルを塗る下準備と塗り
付ける日は他の職の立ち入り禁止、そして仕上げ後の
養生等5~6日は誰も入れない部屋となる。
その上、モルタルが乾く迄床の貼物工事が出来ない・・・
と、竣工前になって、日数のかかる仕事を残さないという
メリットが有るからだ。
雨に濡れながらコンクリートを見て左官の仕事も大変な
んだ―――と思った。
床のコンクリート表面からは信じられないだろうが〈湯気〉
が立っている。
床面30㌢くらい迄は立ち上っているのが良く分かる。
ドライアイスのスモーク迄はいかないにしても、湯気はは
っきり見える。
凝固熱(コンクリートが固まる時の発熱)によるものだ。
打設した翌日のコンクリート表面は撒水養生してもすぐ
乾燥し、雨が降っていて表面が水浸しの今でさえ湯気を
出すのだから、自然の力(この場合は生コンの力)に驚
きだ。
工程が全て順延。
明日の天気もはっきりしない。となると、 日曜日に出勤し
て墨出しをする可能性が出て来た。
せめて今日は柱部分だけでも墨出しをして、月曜日の朝
一番からは2階のスタート仕事の柱筋圧接を行ないたい
ものだが、この雨では・・・。
(雨が降っても出せる様な墨出しを発明すると、左ウチワ
の生活が送れるのになあ・・・)
と昔から切に思っている。
型枠大工さん
――――――――― 《型 枠 大 工》
建築現場の基本、躯体工事によく出てくる『型枠大工』と名を付けられてい大工というのは、一般の人が思っている大工さんと少し違っている。
例えばコンクリートを型に表す様にする為の工事、平たく言えばコンクリートの柱を作る時にコンクリートを入れられる様に《枠を作る》のがこの大工である。
柱の中には鉄筋が鳥カゴの様に組んである。
その柱となる外側の四面に厚さ12㍉のコンパネ(ベニア板)を用いて、コンクリートを中に入れても膨らんだり壊れたりしない様に、支保工を使い、角パイプ等で組立てる仕事だ。
そしてコンクリートを打設し養生期間を経過すると脱型するが、この
『型枠解体工』
という専門職(通称バラシ屋)がある事は、この業界に入って初めて私は知った。
鉄筋コンクリートの建物に於いて、仮設工事・基礎工事・躯体工事と仕上げ工事に分かれるが、工程の大半を占めるのがこの躯体工事の中のつまり、型枠工事である。
だから型枠工事は躯体の中ではかなり工程の進捗状況を左右する大事な(重要な)工種でもある。
大工さん1人当たり1日で10㎡も壁面が組み立てられない。
3㍍×3㍍の壁を両面(18㎡)で型枠を完成させて、コンクリートを中に打設出来る様になる迄には、まる2日は必要なのである。
各階の型枠面積を計算して10㎡で割って、延何人の大工が必要かを検討する。
複雑な形状や曲面壁や出窓・下がり壁に階段等があるともっと能率は下がる。
Zビルは1階部分の型枠面積が1950㎡あり、10㎡で割ると195人必要で、2週間(実働12日間)で創るのだから1日16人が絶対に仕事をしていないと出来上がらない。
そこを今は13人グループで何とかやりくりしているのだから、残業も必要であるが、仮に延べ160人(12日X13人)で仕上げれば、請負った親方は
『儲けた』
事にはなっている筈だ。
躯体工事とは鉄筋組立て→型枠組立て→コンクリート打設→型枠脱型のくり返しで最上階までせり上がって行く迄を云う。
普通1クール(コンクリート打設から次回の打設まで)2週間として型枠を迫(せ)り上げて行く計画を基準とするが、雨が降る場合も有れば、バラシ屋が何らかの事情で予定通り進まなくなるとか、墨出しの日が雨だったとかで型枠大工の予定が狂い躯体工程が遅れる原因にもなる。
特にお盆の前とか、年末直前にはコンクリートを打設して休暇中を養生期間に当てて、休み明けから一気に次の工程をスタートという予定が詰まっている場合が多く、現場が殺気立って来るのもこの時期である。
型枠大工の腕の見せ所は
『打放し』
という部分で、型枠を
『脱型したままで仕上がる』
として活用する面を作る時であろう。
型枠は新品を使い、セパレーター(膨らまない様に引っ張っている金物)の間隔もそのまま現れるので気を使い、コーナーには面木を打ち垂直・水平の原則をかたくなにチェックして組立てる。
しかし、ここにコンクリートをしっかり打設していなければ、型枠を脱型した時に、コンクリートの表面素肌そのものがアバタとかシマシマ模様になったり、時には詰まってなくて空隙穴が・・・となれば折角の大工の苦労も水の泡となってしまい『打放し』仕上げなのに
『やりっ放し』なのかと悪態が口に出る。
最近ではマンションの壁には〈打放しクロス直貼〉というのが多いが、壁が私の腹の様に膨らんだそのままではクロスを貼れないし建具も付かなくて、型枠(躯体)の精度によっては仕上がらない部屋も出来る場合もある。
斫(はつ)り直してもう一度打ち直しとなると、型枠大工の責任範囲として斫り工事の代金も左官の補修代も契約金額から支払う事となり、再び型枠組立再施工代も契約内工事となる。
だから現場監督としては汗水流した結果が発揮できないと
〈何を現場監理していたのか・・・〉
と自信を喪失してしまうし、大工は儲けがブッ飛んでしまう。
後から入って来る業者達から、
「オサマラナイヨ・・・所長!どうします?斫るの?」
と聞こえて来ると心臓に悪い。
「斫るよりも何とか逃げ(カムフラージュ)られないかネ・・?」
と皆で知恵を出そうとするが、やっぱりマズイものは基から断たなきゃダメなのだ。
(まァイイかこのくらいなら)と妥協すると『品質管理』が根底から崩れ落ちる事にもなる。
倉庫とか押入れの中で普段見られない所ならば〈まァイイカ〉という気分にすぐになるが、竣工検査の時には無理して仕上げた部分に限って浮き出て目立ってしまい、結局は手直しとなるのだから、早い段階で気付いた時にスパッと手直しする勇気が必要だ。
私、ことに私は、
「何とかならんかねェ・・」と必ず考え込む小心者ではある。ヘヘヘ。
埋設管破裂
―――――――――《埋 設 管 破 裂》
現場の正面の舗装道路下の本管から建物へ水道管の引込み用の掘削を行なっている。
一般的に設備用の配管工事は水道屋・電気屋・ガス屋さんと各々が似た様な場所で何度も掘削し、配管工事をして埋め戻しを行なっている。
設備業者の誰かが少し大きめに掘って、他の業種がその時に同時に埋設配管工事を行なえば道路工事だって何度も何度も
『掘っては埋戻す』
と云う無駄はなくなると思える。
建築現場の狭い敷地の中でも打合せがマズイと設備工の各社のミニユンボの2~3台が、へしあって動いている場合もある。
Zビルは田村さんに音頭を取らせて配管ルートをまとめ、地面より深い順に配管工事を行なう作業命令を指示(半強制かな)していた。
掘削に先立ち、配管する付近には直径50㍉の給水管が既に1本横断している筈で、何処にあるのか
《昔の完成図面》
の為ハッキリしていない旨を掘削工に説明しておいた。
昔の十数年も前の図面通りに配管がなされていればこの辺りで出てもイイ筈なのに・・・と用心しながら掘り進んで行った。
昼前になってもまだ発見出来ない。
「もう一度昔の図面をチェックしよう」 ![]()
と現場事務所に戻って数分としない内に、
「所長、水道管破裂させました」
と息せき切って橋本君が走って来た。
「何―――ッ!!あれほど用心しろと言っていたのに・・・!」
もう遅い。
50㍉の水道管だから、水は相当な勢いで流れ出る。
私が現場に戻った時には朝から掘っていた所にターップリと溜まって、更に側溝へゆっくりと流れ出していた。
「止水栓は止めました」
と何となく落ち着いている設備の津山君。
とにかく溜まった水は排水するしかない。
「水中ポンプだ、排水ホースもだ、電源は何処にあるのだ」
とブツブツ言いながらも小走りに動きまわりながら水替えをしている。
水が無くなると即、切断部分の復旧が待っている。
間もなく市の水道課の人が来られた。
「またですか、やっぱりハズレましたか」
(ン?―――また、又だとォ?・・・)
「これはあなた達の工事が終ると不要になる配管だから、取り付けた時にもジョイントが調子が悪くて・・・擁壁を作る時も二度抜けて・・・それで位置をズラしていたから・・・」
私にはその件は何も知らされていなかったし、私はてっきり設備工が配管を引っ掛けて破裂させたものだと思い切っていたので、
(総てが俺達の責任で壊したワケじゃァないンだ・・・)
と少しは気が楽になった。
埋設管が有ると分かっていての切断事故もかなり多いものである。
数年前に竣工した時の『完成図』が倉庫に眠っていて、その図面を基に調査するが、あくまで《参考》程度にしか考えられない。
信憑性はゼロ、信じるととんでもない事に直結しての事故となったのが今回の事件の教訓・実情だと思う。
その当時の完成図と云ってもはっきりと埋設した場所を明示してある
「埋設配管実施図」
と云うものは最近になってようやく提出する様に定められて来ているが、十数年も前の完成図ではそれを信じろと言う方がマチガイの原因だ。
「急な断水によって困る所は何処ですか?」
と水道課の人に尋ねた。
「この先のアパート2棟に配管してますが・・・高架水槽のタンクの容量から今の時間なら2時間以内に修復が終って水を送れば問題ないが・・・直りますよネ?」
時計を見た。
11時45分。切断して30分は経っているだろう。
残り1時間と少しの猶予しかないが、排水はもうすぐ終る。
「接続用バルブは何時に届くンだ!」 ![]()
呆然と排水を眺めている職人に気合をいれる。
ハッとした様に我に戻り、復旧の段取りを打合せしたものの
「何でコンな所に配管が有るンだ」
とブツブツ言うのも聞こえて来るが、私も同じ様に感じているだけに、
「仕方ないヨ、シカタナイ・・・かァ、もらった図面と位置が違うンだもンなァ」
としか言い様がなかった。
埋設物が敷地の中にあり、給排水・ガス・電気・電話線等が生きたままの状態で隣接した工事は、管の破断による直接被害もさる事ながら、それに伴い関連の建物内が停電した・コンピューターが止まった・トイレの水が出ない等の被害がアッという間に大パニックとなる。
今日は水だけの処理で危険度は低かったが、これがガスだと爆発も考えられるだけに埋設工事の掘削中は
《慎重の上にも慎重に》
と云う事を忠実に守る事を再認識・勉強させられた一日であった。