【再会と乾杯と、、、】

一家が無事に揃ったところで、宴会が始まった。

地震から不自由な生活をしていたせいか
心から弾けた。

大人達は、グデングデンになるまで酒を呑んだ。

寂しさや不安を払拭するかのように、喋りまくった。

極上の音楽と酒のせいで
今起きている事が全くのデタラメのように思えた。

まともに食べずにひたすら呑んでいた私は何時の間にか眠ってしまったようだ。

その晩は、余震にも全く気づかずに明け方近くまで熟睡した。



【3.15. 地獄に仏】

目が覚めると
思った程二日酔いではなかったが、体が恐ろしく怠い。


起き上がろうにも起き上がれずにしばらく布団の中で思いを巡らす。

事故は本当に深刻なのだろうか、、、

起きてTVをつけて見たい気持ちと、現実に向き合うのが怖いのとでなんとも言いようの無い気持ちでいた。

外はだんだんと明るくなってきた。

どんなに辛くて悲しい長い夜も朝が来れば安心できるのに
この日は、何となく夜明けが怖かった。

また、悪夢のような一日が始まる。

私達は一体どうすれば良いのだろう。

どこに行けば良いのだろう。

H君の家族は何処にいるんだろう。

頭がおかしくなっていたかもしれない。



朝日は容赦なく窓から差し込む。

目に見えない放射能物質の恐怖。

私は、カーテンを締め切った。

なぜかわからない。

とにかく、子供を守りたかった。



昔見た映画。

核戦争が起きたと勘違いした家族が
地上に住めなくなったと思い込み
地下シェルターに暮らすと言う
マヌケな話。

あれは、コメディーだったけど、
あの時私は、本気でシェルターに行きたかった。






いつまでも、グダグダしていても拉致があかないと
思い切って起き出した。

TVを付けずに、音楽をかけた。

朝ごはんの準備をして
コーヒーを入れると
ようやく頭がまともになってきた。

数本あったはずのミネラルウォーターは残り少なくなって居た。
夕べの酒盛りで呑んでしまったらしい。

まず、買い出しにいかないといけない。

軽い朝食を取り、今日一日のプランを話し合う。

ジョニさんは店の様子を見に行くと言い
主人は周辺を散策すると言った。

ミネラルウォーターや歯ブラシなど買ってきて欲しいものリストを握りしめ
二人は出掛けて行った。

この日は天気も良く、汗ばむ陽気だったが
窓は開けずにいた。

子供達には外出禁止令を出し
家の中で、パズルゲームや将棋、オセロ、トランプなどして時間を潰した。

その合間に、H君の家族を探す為、
彼方此方に電話をかけるが、手がかりは無かった。

そんな時、iPhoneでパーソンファインダーを見つけた。

H君の家族を探している事を書き、私の連絡先を残した。

ついでに、矢澤一家の無事も記した。



子供達が飽き始めた頃
主人が帰ってきた。

頼んだものは大体買う事ができた。

福島駅前では、チラホラとお店が開いていたらしい。

しかし、商品はごく限られたものだった。

目当てのミネラルウォーターは無事買う事ができたので
まずは一安心。

その後、ジョニさんも何やらいろいろ持って帰ってきた。

ここまで本当にいろいろ駆けずり回っていたジョニさんだが
実は、数年前から病気をして
あまり無理の出来ない体なのだ。

そんな状態を知りながら家族で押しかけてしまった。

この時、とても疲れた表情を見せたジョニさんには
本当に申し訳なく、
本当に有り難く、
早くゆっくりと休んで欲しかった。

それは、私達が一刻も早くジョニさんの家を後にする事を意味していた。

しかし、ジョニさんは

「そんな事気にしないでゆっくり居たらいいよ」

と、言ってくれた。

いま、思い出しても本当に不甲斐ない。

情けない。

でも、この時はジョニさんの優しさに甘えるしか方法が無かった。




to be continued...