【3.12. 山の集会所】

津島商店街を抜け、暫く車を走らせると
高台にこじんまりとした建物がある。

そこが私達の目指す避難所。

車を降り、そこまで送ってくれた親切な人に何度も何度も御礼を言う。

確か「下津島集会所」と書いてあったと思う。

現在はあまり使われて居ない木造の建物の前には数台の車が止まり
畳敷きの広い室内には座布団で場所をとっている数名の避難者が居た。

しかし、到着したばかりの時
ここの集会所に役場関係や津島の人は居なかった。

仕切ってくれる人が居ないので若干不安になる。

私は端っこの方に持参した布団を敷き、次男と一息ついた。

津島で長男の携帯に何度も電話して居るが相変わらず繋がらない。

その上、津島商店街付近では使えて居た私のiPhoneは山間に入ると一切使えなくなった。

入り口の脇をみるとピンクの公衆電話があった。

とにかく、長男や主人と連絡を取りたくて何度も何度も電話する。

たまたま繋がった主人の携帯の留守電に集会所の電話番号を伝え連絡を待った。

持っていた10円玉は全て無くなった。

他にも電話をかけたがっている人が何人も居たが10円玉が足りない。

公衆電話のそばに、津島の各施設の電話番号の一覧表が貼ってあった。

集会所に居た数名にカンパしてもらい、片っ端から電話をかける。

たまたま繋がったのは津島小学校だったと思う。

公衆電話の鍵を持って来てくれる様に頼んだ。

数十分後、パートさんらしき人が、白紙の名簿と公衆電話の鍵を持って来てくれた。

鍵を開け自由に電話をかけられる様になったので、暫くは行列が出来た。

その横では、
各々名簿に氏名と住所を書き入れる。

少しすると
津島の方々が作ってくれたおにぎりが振舞われた。

そういえば、朝から何も食べて居ない。

塩むすびと、おふかしと、漬物。

先ずは小さな子供から配る。

途中ではぐれてしまった子供達の分を分けてもらい
ばんじゅうを見るともう無い。

まぁ、仕方あるまいと思っていたら、次男が半分私にくれた。

優しい子だ。



避難者はどんどんと増え
3時頃になると足の踏み場もない程になった。

一服しようと表にでると
たまたま、次男の親友一家がやって来た。

次男と親友の再会は束の間の安堵感を私に齎した。

次男の親友の両親と色々と情報交換をして、長男とはぐれた話をしたら、ご主人が

「探しに行きましょう!」

と言ってくれた。

さぞ疲れて居るだろうに。

それにこの時すでに津島のガソリンスタンドはタンクが空っぽになって居た。
今後の避難を考えればガソリンだって貴重だ。

「どうせ買い物もしたかったし、良いですよ!」

屈託のない笑顔で言った。

次男を親友とお母さんにお願いして、
津島のメインストリートに戻った。

避難所を片っ端からまわったが長男は居ない。

小学校の前で長男の同級生とすれ違い、長男を見かけなかったか訪ねると
さっき、活性化センターの前に居たと言う。

大急ぎで向かうと

「居たっっっ!!!!!」

ふてくされている風ではあったが、きっと不安だったんだろう。

ぶつくさ良いながら安心しているのがわかった。

長男の友達は一人減って居た。

両親と会う事が出来たらしい。

しかし、もう一人の友人は親と連絡も取れずにいた。

彼はもともと飄々としたキャラクターで、風変わりな為あまり不安そうには見えなかった。

すぐに見つかる。

そう思って一緒に行動する事にした。

買い物に行くと
お店はごった返しており
店員さんは今まで経験した事のない大行列に目を回していた。

ここでも出遅れた。
簡易的な食べ物はほとんどない。

あまり、人目につかない
店の奥の冷凍庫。
冷凍食品をみると大袋に入ったピラフがたっぷり積まれていた。

レジの向こうには電子レンジもある。

友人のご主人と作戦会議。

フリーザーパックを買って
ピラフを温めようってことになった。

買い物客の中から「スゲー」
と言う声が聞こえ、少々恥ずかしい。

しかし、こっちには育ち盛りが5人も居る。

空腹で暴動が起こったらたまったもんじゃない。

かなりの時間をかけてようやく
全てのピラフを温めた。

アツアツのピラフと
グズグズな長男等を連れて避難所に戻った。

避難所に戻ると、次男と親友はサッカーをして遊んでいた。

夕焼けに染まる山里を背景になんとも微笑ましい。

部屋に入ると
テレビの前が黒山の人だかり。



私もその輪に混ざり覗き込んだ
瞬間息を呑んだ。




煙が立ち上る東京電力福島第一原子力発電所の映像が流れていたのだ。





to be continued...