【故松尾治亘元学長 元東医眼科学教授】
私がパリに4年間留学していた際には、
毎年学会などで訪ねて来てくれました。
私の配偶者が、先生の教え子のこともあり、
心配であったのか、お声を掛けてくださりました。
パリ郊外のスケッチ旅行のお供など、
たくさん可愛がって頂いたものです。
先生が、ボソッと言った言葉の中に、
「勉強も大事だけど、ピレネー山脈のルルドの泉に行ってみたら、
医者として涙が出るよ」というものがあります。
涙が出るのは本当か?と思いましたので、
早速、車で訪れてみました。
谷には、何千人の不治の病と思われる人々が、
ミサを聞き、聖水と聖体(ビスケットのようなもの)に群れていました。
泉が出る洞窟の周りには、無数の松葉杖が掛けてありました。
その光景を目にして、
「医者の無力。
医者の松岡君よ、驕るなかれ」と、
松尾先生が教えて下さったと思いました。
浄土真宗である私の目に、
涙が溜まったのは言うまでもありません。
その後、縁あって、
母校の東京医科大学第五内科主任教授選に立候補しました。
松尾先生は、私のためにコピーなしの、
手書きの推薦状を肩を痛めながら、
30人もの先生方に送ってくださりました。
私は30数票を取り、トップ当選しました。
推薦状のお礼に、お菓子と寸志をお持ちしたが、
寸志は突っ返され、
「学生の為に頑張りなさい」と仰いました。
私は、志半ばにして大学を去っってしまったことを松尾先生に申し訳なく思います。
ルルドの泉の松葉杖