生きてるうちに、さよならを/吉村 達也 | Bon livre –いつか最良の一冊と出会う–


生きてるうちに、さよならを (集英社文庫)


※ネタバレふくみます。

一部上場企業「モトミヤ精工」の社長である本宮直樹は、
生前葬をしようと思い立ち、それをきっかけに人生の転機を迎える。
その一年を手記としてまとめようと一代記を書き始めるが…。

タイトルと表紙の青い海の写真にだまされた!
爽やかな感動作かと思ったら、予想外のドロドロ。
でも、期待を超える衝撃があったよ。

書き出しは、穏やかそうな紳士というイメージだったのに、
親友の葬儀のエピソードで「あれ?意外にも激情型だな」と。

そして第ニ章の終わりで
愛人が九人いたことをさらっと発表しなさって、
おいちょっと待て!どこが紳士だよ!

家庭を顧みないで、家族との仲は冷えきっている、
そのくせ妻や子供から蔑ろにされたくなくてキレる、
こういう男、ほんとうに腹立つわー!と
臨界点へ駆け上がったところで、思わぬ急展開。

物語の様相が一変する。

本人が書いているように、ずるくて潔くない男だ。
最後をどう始末したって、自分の父親だったら許しがたいもん。
「澪には見せない」という判断は正しいわ。

兄ちゃんは偉いな、俺が社長を継ぐはずだったのに!
なんて取り乱さないで。
この親父の息子なら、すねかじる気まんまんでもおかしくないのに。

えっ、そうくる!? の畳み掛けで
後半は興奮してしまったわ。

私もお葬式はやらないで
「生きてるうちに、さよならを」パーティーがいいな。
戒名は「埼玉産霜降黒豚姉」とかでいいし。
あの世で「しもやん」って呼ばれるわ。