カップルズ/佐藤 正午 | Bon livre –いつか最良の一冊と出会う–


カップルズ (小学館文庫)


※ネタバレふくみます。

小説家である「私」のもとにもたらされる数々の噂話。
どこまでが真実でどれが嘘なのか、好奇心にかられて聞いてみる。

ドラマ化された『身の上話』の
大森南朋さんのナレーションが印象的だったから
この小説のモノローグもすべてあの声、
あの語り口で脳内再生された。
おかげでミステリアスな雰囲気がついておもしろく読めたよ。

詳細がハッキリしないまま、謎が謎のまま終わる話も多い。

これが普通の一話完結だったら、なんだかぼんやりしているなぁと
消化不良を起こしそうなものだけれど、
“噂話”というテーマがあるからか、突っ込むのは無粋というか
噂にあまり興味をもつなんて俗っぽくていやだわ、という
自制がはたらいてあまり気にならない。

知人からちょっと興味深い話が聞けたくらいの感覚。

いちばんおもしろかったのは、『あなたの手袋を拾いました』かな。
手袋と出会いのエピソードが流れるようにつながるのがおもしろくて。
野村くんはいけすかない感じだけど。

自分もどこかで噂の種になっているかもしれないし、
尾ヒレがついて悪人に仕立てあげられている可能性はなくはない。

中学卒のとき、登校したらいきなりクラスメイトから
「おまえは人間のクズだ!」と罵られたことがある。
びっくりして「えっなんで!?」と聞いたけど、
彼女はぷいっと何処かへ行ってしまった。

おそらく別の誰かに私の悪評を聞かされたのだろう、
という程度で私があまり気にとめなかったことと、
それがなかったかのように彼女の態度がすぐ元に戻ったので
彼女とは今でも友達なのだけど
いまだにあの暴言の原因はなんだったのか、聞けていない。

この微妙な気味悪さというか居心地の悪さがこの小説にはあって、
それが癖になるようでもある。