ミッキーマウスの憂鬱/松岡 圭祐 | Bon livre –いつか最良の一冊と出会う–


ミッキーマウスの憂鬱 (新潮文庫)


※ネタバレふくみます。

えっ、これ言っちゃっていいの?
「ミッキーの頭部」とか書いちゃっていいの?

いやー、それにしても、主人公にまったく感情移入できなかった!

私は冷たい大人になってしまったのかな。
ちょっと中谷美紀with坂本龍一の『砂の果実』歌ってくるね。

うん、空っぽの大人って軽蔑されようが、やっぱ無理だわ。
この主人公の後藤、企業のハウトゥー本とか読んだだけで
「俺はビッグになる男だ!」とか言っちゃうタイプだぞ。

バイト初日から、なぜか自信に溢れ、上から目線。

私だったら、指示されるまで何もできないでくのぼうになるから
あの積極性と行動力は見習いたいけど。

でも、甘っちょれ~!ヨーロッパのチョコくらい甘っちょれ~!

故意にアトラクションを停止させたりしたら、
ディズニーで働いたことない私ですら「損害賠償」って言葉が頭をよぎるわ。
「唐突な叱責に」って、怒られることくらい覚悟じゃないんかい!

あの徹底した夢の国を作り上げるのに、細かなマニュアルに沿って当然だし
みんな仲良く楽しんでキャッキャッアハハじゃ無理だよねぇ。

むしろバイトでもプロ並みの意識をもって仕事してることに好感もったわ。

「こっち側。それはつまり、夢から醒めきった人間たちの集まる世界。
 夢は見るものではなく、与えるものだと
 割りきることのできる人々の集う裏舞台。」

キャストになったのは、夢を与える側になりたいからじゃないの?
私だったら、醒めきった仕事で笑顔を振りまくとか、出来ない。

裏方作業は好きだから、美装部の仕事はおもしろそうに見えるが。

ビッグサンダーマウンテン事件直後までの正社員の詰問は、
ちょっと冷たくはあるけど、賛同できた。

でも、後半のあきらかな準社員への差別意識や、
ミスは下のもの、功績は自分のものってやり方には怒りを覚えるわ。
某銀行小説を思い出した。

でも準社員たちも「外注の業者だから指示されたことしかやらない」とかね、
自分の仕事に誇りをもつのはいいけど、他者をバカにしたら同じじゃん。
むしろ外注のひとに独断で動かれたら、それこそ支障をきたすっつーの!

青春情熱準社員とキャリア志向正社員の温度差のあいだにいて
そりゃミッキーさんも憂鬱にもなりますよねぇ。

私は夢の国の裏側、現実的な哲学のほうに興味津々でございます。