風味絶佳/山田 詠美 | Bon livre –いつか最良の一冊と出会う–


風味絶佳 (文春文庫)


背文字の『風味絶佳』というタイトルを見て、森永のキャラメル?と首を傾げた。
本棚からだして表紙を確認して、「あ、やっぱり」と思った。
表題作の出だしを読んで、「あ、やっぱり」と頷いた。

あの黄色い箱に『風味絶佳』『滋養豊富』という文字が書かれているのを知っている人は少ないだろう。

私の祖母も不二子ちゃんと同じで、森永ミルクキャラメルが好きだから、よく買って渡す。
「おばあちゃんのために」と買っていると、志郎と同じように、同僚から好感もたれるよ。

6つの短編をおさめたこの一冊の中に、いくつか好ましいセリフを見つけた。

『間食』の寺内が言った、
ああいう人たちって、死ぬとか殺すとかって言葉を、
 まるでスナック菓子みたいに使うよね。安くていいや。


電車や街中で、イキッて「ぶっ殺すよ!?」とか言ってる人がいると、
「うわっ、ダサっ!」と気持ち悪くなる感覚ってそれだ!すっきりしたほど言い得て妙。

変人だと敬遠されている寺内に、自分と似ているところをたくさん見た。
人からもらったお菓子はすかさず食べるけど。彼の言葉選びがとても好きだ。

そして『風味絶佳』の不二子ちゃんの
一日に一度は寂しいと思うことって、人を愛するこつだろう?
この一言で、あぁ、寂しがりやも悪くないもんなんだな、と安息した。

そして『春眠』の弥生の
空はすごいねぇ。(中略)才能あるねぇ。

私もよく、人を喜ばせるものは、自然でも食物でも機械でも「天才だ!」と感激する。
「おろしハンバーグって天才じゃない?」とか。そして寺内ばりに変人扱いされる。

キャラメル食パンが発売されたとき、スーパー探しても見つからないんですって言ったら
同じチームの先輩が見つけて買ってきてくれたことがある。
すこしの苦みと、“高野豆腐みたいに”しみ込んだ甘みが美味しくて。
何より、私のために買ってきてくれたのが嬉しくて。

森永のキャラメルの中では、アーモンドが入ってるやつがいちばん好き。

家族とか、恋人とかの形に、悩んでる人たちのお話。
そういう人たちを包み込む人たちのお話。一粒一粒に、滋養がたっぷりよ。