美ら海、血の海/馳 星周 | Bon livre –いつか最良の一冊と出会う–


美ら海、血の海 (集英社文庫)


物語は、東日本大震災の発生から3日後の石巻から始まる。
真栄原老人は、夥しい数の遺体を目にして、60数年前の戦争の光景を思い出す。
沖縄に生まれた彼は、鉄血勤皇隊の一員として、日本で唯一の地上戦を生き抜いてきたのだった。

そこから、真栄原幸甚少年の壮絶な体験がつづられてゆく。
『ひめゆりの塔』など、沖縄戦を題材にした書籍は幾冊も読んできたけれど、
あまりの悲惨さに、とても数十年前に実際に起きたことだとは想像もつかない。
でも、どんなに耳をふさぎたくなるような内容でも、語りついでゆくべきことなのだろう。

例えば『進撃の巨人』を楽しんでいる若い人たちは、実感できるだろうか。
得体の知れない強大な敵が現れ、街を破壊し、家族や友人たちを無惨に殺戮していく、
とても恐ろしいけれど、守るためには戦いぬかねば、生きるために逃げのびねばならぬ、
さらに食糧も医療用具もほとんどないという過酷な状況を。
漫画でもアニメでもなく、この日本で実際に起こったということを。

海岸で艦砲射撃にあい、人々が倒れていくところで、ドラマ『さとうきび畑の唄』で、
勝地涼くんが体中を撃たれて戦死するシーンを思い出した。
テレビ向けにこぎれいに作られたドラマの中では、かなり衝撃的だったな。

フィクションだとしても、取材をもとに書かれているのだろうし、
今の時代に生まれたことを心から感謝すると共に、南で眠る人々が少しでも安らかであるように願う。

ただ、大震災とからめる必要があっただろうかという疑問が残る。
震災についても、妹の貴子についても、描写が少なくて思い入れが伝わってこない。
どうもとってつけた感しかなくて、沖縄戦だけにしぼったほうが真摯に響いたのに、残念。

本書の終盤に、このような記述がある。

日本の盾とされ、二十万を超える人々が死んだのに内地の人間は沖縄戦の真相を知らなかったし、知ろうともしなかった。
そのくせ、観光に訪れては、南の島の楽園だと能天気に笑いながら、海で泳ぐのだ。


戦後のことは知らないけれど、現在、観光地としてピーアールしているのは沖縄自身であって、
そこではしゃいでいる“やまとーんちゅ”も、戦争を知らない世代ではないだろうか。

もちろん、沖縄がもっている歴史をまったく知らない子なら、きちんと教えるべきだけど、
観光客も訪れず、日本で一番ともいえる澄んだ海に目をむけようともせず、
笑い声もあげずに浮かない顔をしていれば満足なのだろうか。

戦争が終わったら、家族をなして土地を耕し、沖縄を盛り返すのだと息巻いていたではないか。

読みながら、白いお米が食べたくなって、読み終えてすぐ温かいごはんをよそった。
なんて幸せなことだろうと噛み締める。
まぁ私は白米が大好きなので、この飽食の時代においても、
ごはんを食べるときはとても幸せな気分なのだけど。いつもよりずっと美味しく感じた。

私にとって沖縄はやっぱり観光地だし、北谷にそびえる大きな観覧車や甘いアイスを思い出すし、
でもそれは、それだけ平和になったという証であって、
あの時戦った人たちが築きたかった未来の姿なのではないかと思うのです。