次期、日銀総裁の植田和男氏が、
自著で銀行の信用創造の仕組みを
正しく解説した上で、
『ただし、貸出は無限に増えるのではなく、
企業の投資意欲や金利で決まっていきます。
(植田 和男. 大学4年間の金融学が
10時間でざっと学べる (角川文庫))』
 と、書いていましたが、
まさに銀行預金という貨幣創出は、
企業の投資意欲や金利で決まります。


 簡単に整理すると、
1.投資先が無い企業は、
おカネを借りないため、
銀行預金は創出されない

2.投資先があっても、
金利が高すぎペイしない場合、
銀行預金は創出されない

3.投資先があり、
企業の投資意欲が貪欲な場合、
貸出金利は上昇する

4.投資先があり、
企業の与信が不十分な場合、
貸出金利は上昇する

5. 投資先があり、
企業の与信が十分であっても、
国債金利の影響を受け、
金利水準が決まる
 などなど、諸々の要件により
銀行預金の発行や金利水準は
決まってくるのですが、
注意しなければならないのは、
「銀行は限られた貨幣のプールから、
おカネを貸し出しているのではない」
 という現実です。


 銀行預金は、
植田氏が同著で書いている通りの
プロセスで創出されます。


『(引用)実は、銀行は
お金がなくても貸出をすることができます。
ある企業に貸出をするには、
貸出契約の締結とともに、
その企業の銀行口座を開き、
その通帳に例えば1億円と
書き込むだけです。
お金は1銭もいりません。


しかし、この瞬間に銀行貸出と預金は
1億円ずつ増えています。
これが「信用創造」です。(同)』 


 ↑これは単なる事実というか、
銀行業務であり、
誰にも否定することはできません。
否定したい方は、銀行預金が
「銀行のバランスシート」の「貸方」に
「負債」として計上されていることについて、
きちんと説明しなければなりません。


 資産を入手して、
それを貸し出すというならば分かります。
とはいえ、負債を貸し出すって、何ぞそれ?


 いずれにせよ、銀行の貸出
(銀行預金の創出)や金利水準は、
市場他の影響を受けますが、
日本には一行だけ、
「政策的」に金利水準を
コントロールできる銀行があります。
すなわち、日本銀行です。


『(社説)低金利頼みの財政運営脱せ
  日銀の大規模な金融緩和を
 背景にした超低金利の環境は
 変わりつつある。
 長期金利が上昇すれば
 利払い費の負担が重くなり、
 財政の自由度を著しく制約する。
 低金利頼みの財政運営を脱すべきだ。


  財務省は2023年度予算案を
 もとに向こう3年の歳出入状況を示す
 「後年度影響試算」をまとめた。
 24~26年度に名目3%の経済成長と
 2%の消費者物価上昇という
 前提を置けば、
 10年物の国債金利の想定は
 23年度1.1%から26年度に
 1.6%に上がる。(後略)』


 財務省の御用新聞
(日経新聞)の記事なので、
「あ、そ」という感じですが、
すでに日銀が国債の過半数を
持っている状況で、相変わらず
「金利急騰!」で煽ってくる。







 金利が上がったとして、
日銀に高くなった金利を支払って、
国庫納付金として戻してもらうだけでしょ。
 民間金融機関に支払った金利にしても、
その半分近くは税金として
政府に戻ってくるでしょ。


 というか、適正なインフレ率、
金利水準に戻る「デフレ脱却」を、
なぜそこまで恐れる、財務省。
まあ、恐れているわけではなく、
単に煽りに利用しているだけ
なんでしょうけれども。


 黒田日銀の評価は様々でしょうが、
とりあえず「短期国債金利」のみならず、
「長期国債金利」もコントロールできる
(YCC)ことを証明したのは大きい。
(実は、今回の日銀以前には、
日米開戦後のFRBがYCCをやっていた。
普通にできていました)


 日銀のプロパーたちは、
2013年以降、相当に
「学習」したのだと思います。


 昨年は、
「利上げしろ! 利上げしろ!」
 と、外国の空売りファンドの
手下としか思えない連中が騒いでいましたが、
やらなかった。


 当たり前です。
日銀が利上げをするべき時期は、
我々の資金需要が高まり過ぎ、誰も彼もが、
「カネを貸してくれ! カネを貸してくれ!」
 とやり、需要が供給能力の制約を
無視して膨張していく時期です。
(つまりは、今の真逆ですわな)


 輸入物価上昇に端を発した
コストプッシュ型インフレへの対応は、
金融政策ではありません。財政政策です。
財政政策で、国民の可処分所得減少を補う。
これ以外に、対策はありません。


 無論、日本が
デマンドプル型インフレだというならば、
わたくしにしても、
「日銀は利上げしろ!
 民間がカネを借りにくくしろ!」
 と主張するでしょうが、
今はどう考えても違うでしょう。


 いずれにせよ、植田総裁誕生後も、
少なくとも「しばらく」は、
日銀がまともな状況が続くでしょう。
問題は金融政策ではない。
財政政策なのです。