東京は梅雨も明け、これから３０度、３５度という日が続きます。

皆さまも体調管理にお気をつけ下さい。

お参りの後は法話を聞きましょう

今日の御講師は、広島県呉市登照寺の服部法紹師です。

※青字が服部師の言葉の要約です。

＜死んでないじゃん＞

私は結婚して１０年が経つのですが、

うちの妻はお寺の出身ではありません。

今日は、うちの奥さんのお話ですが、是非聞いて下さい。

うちの妻は、長崎県の大村市という場所の出身です。

実家は農家でお米やメロンを作っています。

妻の母、つまり私にとっては義母ですが、

義母は２０２１年１２月１０日に６２歳で亡くなりました。

健康が自慢の義母で、病院のご縁もなく過ごしてきた方でしたが、

病院にかかったときは既に「癌のステージ４」という診断でした。

時間は少し戻り、

２０２１年３月からのお話をしていきます。

２０２１年と言えば、まだまだ新型コロナが猛威を振るっていた時です。

私は九州に「法話」のご縁を頂いたので、１週間かけて長崎、熊本、

鹿児島、そしてまた長崎での布教を予定していました。

コロナの頃ですから、先方のお寺と相談して、全てが車移動です。

そして、鹿児島が終って、最後は長崎に戻ってきます。

長崎ではホテルで一泊と思っていましたが、

妻が「私の実家に寄ればいいよ」というので、

私は妻の実家に一人で向かいました。

妻のご両親は私を温かく迎えてくれましたが、

この時、まさか義母が９か月後に亡くなるなんて、

まったく予想も出来ませんでした。

そして、６月になりますと、新型コロナも少し落ち着いてきて、

県をまたいだ通行も規制がだいぶ緩くなってきました。

私は実家に両親がいて、実家であるお寺にいますから、

両親とは毎日会えますが、

妻はもう２年もの間、実家に帰って両親の顔を見てはいません。

　　　　「行くなら、今だね」

私たちは、子供たちの保育園を休みにさせてもらいながら、

里帰りをしました。

　　　　「ただいま！」

帰って、妻は２年ぶりの再会です。

ところが、その時、お母さんの様子がおかしいのが一目でわかりました。

あんなにふっくらしていたお母さんでしたが、痩せてしまい、

顔いろも悪く、目の周りにはくまが出来、そのせいで眼がくぼんで見えます。

ダイエットで痩せたのではないことは、一目瞭然の姿です。

私が３カ月前に会ったお母さんではありません。

更に妻にとっては、２年ぶりにお母さんと出会うのです。

すっかり変わった母を見て、

しばらく言葉なく、お母さんを見つめていました。

　　　　「これは命に係わる病気ではないのか」

その晩、私は２階で子どもたちの面倒を見て、

妻は１階で両親と１２時くらいまで話をしていました。

そして、話しをした後、２階にあがってきました。

　　　　「仕事も普通に出来ている。

　　　　　ご飯もきちんと食べている。

　　　　　全然大丈夫だったのだけれど、

　　　　　最近はご飯を食べても”美味しくないと感じる”と言う。

　　　　　さすがに病院を予約して行くことになっていて、

　　　　　県立病院に３か日に行くらしい」

私は、直ぐに決断しました。

　　　　「保育園もそんなに休めないし、

　　　　　俺は子供たちと広島に帰るから、

　　　　　お前だけ検査の日まで残ったらどうだ」

妻はすぐに同意しました。

そして、３日後、検査の結果がでて、妻から連絡がありました。

　　　　「思った通りだった。

　　　　　癌があちこちに転移していて、

　　　　　いったいどこが元なのか分からないくらい。

　　　　　肺、肝臓、胃、リンパ、

　　　　　症状がほとんどでないことを考えると

　　　　　たぶん、すい臓がん”だったのではないか。

　　　　　”ステージ４で、もう、治療のしようがないので、

　　　　　これからは緩和ケアになります”　と言われた」

１１月になりました。

８月の東京オリンピックの時は再び流行った新型コロナも、

１１月には落ち着いてきました。

私たちは、”行ける時に行かないと”、と思い、

また長崎に行くことにしました。

その時、お母さんはお家にいませんでした。

病状が悪化し、病院に入院をしていたからです。

また、”コロナが落ちついた”と言っても、病院は面会制限は厳しく、

面会は”県内在住の父親と妻の妹のみ”で、

私たち県外の者はしっかりとは会えませんでした。

そんな時、お母さんから一時帰宅の希望がでました。

　　娘（私の妻）が帰ってきている。

　　自分はもう長くない。

　　もう一度、一度でいいから家に帰りたい。

そのような想いだったのでしょう。

医師は迷った末に、”一泊はとても無理だから６時間なら”と

特別に許可を出しました。

時間は９時から１５時までです。

１５時には、病院から迎えの車が来ることになりました。

日取りが決まり、その日は来られる親戚が沢山集まりました。

親戚の中にも、もしかしたらこれで会えない・・・・。

そんな想いもあったと思います。

お母さんが帰ってきます。

居間のソファーに座って、何気ない会話をみんなとしていきます。

孫はまだ幼児が多いので、にぎやかな時が過ぎていきます。

お昼の食事の時間ですが、お母さんは食べられませんので水分のみです。

みんなが食卓につこうとすると、お母さんが言いました。

　　　　「孫の食べる姿がみたい」

であればと、お母さんは皆んなに肩を担がれて、食堂に来ます。

そして、孫が食べる姿を見て言うのです。

　　　　「可愛いか～」

さて、食事もひと段落したころ、妻の兄のお嫁さん、妻、妻の妹らは

食器の洗い物をしていました。

妻は、気負って”何かを言おう”というわけでもなく、

リラックスしながらお母さんにこんなことを語りかけました。

　　　　「私たちはいつも阿弥陀様がご一緒ばい。

　　　　阿弥陀様のご縁を頂いて、

　　　　お念仏をさせてもらって、

　　　　仏さまと同じようにいのち生かされて、

　　　　やがては必ずお浄土で

　　　　仏さまに成らせて頂くんよ。

　　　　私は念仏のご縁を頂いた。

　　　　お母さんも同じことよ。

　　　　だから、

　　　　お母さんも心配しなくていいんよ。

　　　　ずっと阿弥陀様はご一緒ばい」

すると、お母さんはこう言ったのです。

　　　　「そうね、ご一緒ばい。

　　　　じゃ、

　　　　念仏言わせてもらわないといかんよね。

　　　　なんまんだぶ

　　　　なんまんだぶ」

私は居間で何気ない会話を聞いていましたが、

僧侶の私が話しをするまでもなく、

私が聞いても、”妻はなかなかいいことを言ったな”と思いました。

やがて、２時ごろになり、お母さんが言い出しました。

　　　　「もう、私は今日はこれが限界だわ」

お母さんの身体はもう悲鳴を上げていたのでしょう。

予定より１時間早く、病院にはお迎えを依頼しました。

お母さんが病院に帰ったあと、妻の兄のお嫁さんが妻に聞いてきました。

ちなみにお嫁さんは、普段は仏教にはまったくご縁のない方です。

　　　　「さっき、お母さんにあんなこと言ってたけど、

　　　　　本気で思っとる？」

もちろん、お嫁さんには全く悪気はないことはここで伝えておきますし、

私も妻もそれは理解をしています。

妻の返事はこのようなものでした。

　　　　「別に阿弥陀様の言っていることを

　　　　わかってるとか、

　　　 理解しているとか、

　　　　納得しているとか、

　　　　そんな話じゃないの。

　　　　私も何年も話を聞いているけど

　　　　よくわからんのよ。

　　　　だけれど、仏さまの話を聞いていく中で

　　　　仏さまは

　　　　私よりも正しいことを言う方なんだよ。

　　　　仏さまは

　　　　私よりも尊い方なんだよ。

　　　 私は仏さまの言っていることを、

　　　　”ああそうなの”と、

　　　　聞いているだけなんだよ」

すると、兄のお嫁さんは言いました。

　　　　「お寺に嫁ぐと、こう成るんかね・・・・」

しかし、そんな妻も１２月１０日にお母さんが往生されたときは

お通夜、葬儀と大泣きでした。

そんな合間にも、私のところでは１０月には次女が生まれていました。

３月～１２月はお母さんの大変なことがありましたので、

１０月に皆さんから頂いたお祝いのお返しも、そのままとなっていました。

ようやく、年も明けて落ちついたこともあり、

私たちは”お礼の近所への御挨拶周り”を始めました。

あるお宅にお礼に行ったときのお話です。

その方は６０代の女性の方でした。

私の町は島ですから、

「妻の母が亡くなった」とみなさんに積極的に言わなくても、

自然にお話が広まっていました。

その女性が言います。

　　　　「お母さん、大変だったね。

　　　　 親というものは、

　　　 元気な時より、

　　　 見送った後の方が、

　　　 親の事を思い出すような気がするんだよね」

その言葉に妻が反応しました。

　　　 「その気持ち、よくわかります。

　　　　私がこの島に、

このお寺に嫁ぐと言う話をしたときに

　　　 両親は反対しました。

　　　 お寺と言う一般の人には

よくわかりにくい世界に

　　　 娘を行かせる不安があったのです。

　　　　でも、そのあと、

行くなら頑張れと、

　　　　私の背中を押してくれたのが母でした。

　　　　そのお陰で母が亡くなっても、

　　　　仏さまのハタラキがあって、

　　　　その行き先がわかった。

　　　　もし、嫁いでいなければ、

　　　　母が亡くなっても

　　　　なぜ死んだの？、という嘆きや、

　　　　どうして死んだの！、という文句しか

　　　　出てこなかったでしょう。

　　　　仏さまのお話を聞かせてもらっていて

　　　　本当によかったです」

その後、私が運転し、妻が助手席に乗り、

子供たちが後ろの座席に取っていた時のことです。

後部座席の長女が言いました。

　　　　「長崎のばあちゃんに、また会いたいな」

妻が後部座席を振り返って答えます。

　　　　「長崎のばあちゃんは、

　　　　遠くに行ったんじゃないよ。

　　　　まんまんちゃん（仏さま）になったんだよ。

　　　　いつでも、みんなの傍にいるんだよ」

それを聞いて、７歳になった長女が答えます。

　　　　 「いつでも、そばにいてくれるの？

　　　　じゃ、死んでないじゃん」

妻はニコリと笑いながらこう答えます。

　　　　 「その通り！

　　　　 いのちとは、

死んで終わりじゃないからね」　　　　

死んでなお、

お母さんは

娘と

孫に

命の行方を

教え

導いていくのでした。

息が止まることを人間は「死ぬ」と言いますが、

息が止まることを仏さまは「往生」、

つまり、「生まれる」と言いました。

お母さんは、

おばあちゃんは、

仏さまの国に生まれたのです。

そして、還相回向でこの世に帰り、

有縁の方の傍にいて、

私たちを導いてくれるのですから、

死んでないじゃん。

なのですね。

出会わなければ

わからないものがある

今日もそのようにお育て頂きました

今日もようこそのお参りでした