今日の東京都心は、

降っては止み、降っては止み、

梅雨空でした。

これからは蓮の季節ですね。

お寺では盂蘭盆会法要が行われていました。

お参り後は法話を聞きましょう。

今日の御講師は、静岡県伊東市宝専寺の遠山泰範師です。

※青字が遠山師の言葉の要約です。

＜言葉によって救われる＞

お盆ですね。

この季節、多く言われるのが、

　　ご先祖様が、

　　また、

　　先に往かれたご親族様が

　　年に一度、この世に戻ってきますよ、と。

　　また、

　　数日過ごしたら、また帰っていきますよ、と言うのです。

浄土真宗の教えでは「それはないですよ～」と言います。

それは、阿弥陀様の教えを聞くと分かるのですが、

阿弥陀様は全てのいのちを無条件に救います。

また、いつでも、どこでも、私と一緒ですよと聞いていきます。

いつでも、どこでもなら、

なぜ浄土真宗ではお盆の法要をするのでしょう。

それは、

仏さまは常に私を見ていますが、

私はいつも仏さまの存在を見ていないから、忘れているからです。

ですから、お盆やお彼岸くらいは、

私からしっかりと仏様の方を見ていこうよ、というのですね。

これは、父の日、母の日に似ています。

何も、父の日だけ特別に感謝しなくても、

何も、母の日だけ特別に感謝しなくても、

毎日、父や母には感謝をしなくてはいけませんよね。

でも、その日に特別に感謝をするのは、

父や母は常に私を見ていますが、

私はいつも父や母の存在を見ていないから、忘れているからです。

ですから、父の日、母の日くらいは、

私からしっかりと父と母の方を見ていこうよ、ということと同じなのですね。

南無阿弥陀仏って聞きますよね。

これは、阿弥陀如来が「言葉の仏さま」となったということなんです。

本来、仏さまは目には見えないものですが、

なぜ、「声」の仏さま、「言葉」の仏さまに成ったかと言えば、

それは私たちが言葉の世界で生きているからです。

私たちは、普段、言葉を使って相手に伝えていきますが、

相手がいないときも、一人でも言葉を使っています。

例えば、机を見て、「机があるな」と思います。

例えば、電車をみて、「電車に乗ろう」と思います。

そして、

寝ている時も言葉を使って夢を見ています。

つまり、言葉で色々な表現やモノの区別、判断などをするわけです。

　　私たちは

　　言葉によって育てられます。

　　褒められると伸びますよね。

　　私たちは、

　　言葉によって傷つきます。

　　悪口や否定されると辛いですよね。

　　私たちは、

　　言葉によって救われます。

　　インターネットの記事に載っていたのですが、

　　ある高校生が複数の大学を受験して全部だめだった。

　　最後の一校もダメだった時、

　　母にどんなメールを送っていいのかわからなかったそうです。

　　意を決してメールをしたとき、母の返信がありました。

　　　「あなたが自分の人生を大事にして生きてくれること。

　　　　それが本当の親孝行です」

　　絶望のどん底にいた青年は、「あの言葉で救われた」と語っていました。

言葉は心に届きます。

言葉は心を動かします。

言葉は心を変えさせます。

だから、阿弥陀如来は「言葉の仏さま」に成ったんです。

阿弥陀如来は言います。

命終えて、終わりじゃないんだよ

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以前のコマーシャルで、

「氷が溶けたら何になる」という言葉がありました。

本来であれば、「水になる」と答えたいところですが、

その時のアンサーは「春になる」でした。

以前行った北海道では

「忙しくなる」と答えた方が居ました。

　 水になる

　　春になる

　　忙しくなる

同じようなことも、見ている世界が違うものなんですね。

言葉と言えば、

食事をすることを何と言いますか。

　　食う

　　食べる

　　頂く

食う、とは、食物をくわえる、というところから語源が来ているようですが、

空腹を満たす行為のようです。

食べる、とは、この食べ物はどこからきたのか、誰が運んできたのか、

そういう食べ物の背景を追って、食べる行為です。

頂く、とは、食べ物というより、「命であった」と見ながら、頂く意識です。

言葉の持つ意味は、その人の意識、生き方も表すようです。

親鸞聖人の言葉に、このようなものがあります。

　　本願力に　　あひぬれば
　　むなしくすぐる　　ひとぞなき
　　功徳の宝海（ほうかい）　　みちみちて
　　煩悩の濁水（じょくすい）　　へだてなし

意訳

本願とは仏さまの願いのことで、

力とはハタラキの事です。

ですから、

阿弥陀さまのお救いのはたらきと出あえば、となります。

むなしく、というのは、

「死んだらおしまい」と思っている人の人生です。

ですから、本願力に出あえばむなしくはないのですから、

この世を空しく過ごす人はいません、となります。

功徳の宝海とは、私を仏にするハタラキと言っていいでしょう。

つまり、

それは阿弥陀さまの功徳が

その人に海のように満ち溢れるようになる、ということです。

煩悩の濁水とは、煩悩だらけの私の事です。

私たちはすぐに分け隔てますが、

仏さまはそのようにお分けになることはありません。

つまり、

汚れた水のような煩悩も、

そのはたらきを遮ることはないのです。ということです。

私たち、

言葉を聞いて

仏さまと

出遇うんです。

これを

聞遇（もんぐう）と言います。

そのような仏さまの心を聞いたら、

随分と救われた気持ちにはならないでしょうか。

如何ですか。

＜その時、何て＞

私の息子の話しです。

長男が高校１年の時、涙を流しながら起きてきたことがありました。

そして、私の妻である、彼の母親にこのように言いました。

　　「お母さん、僕もいつ死ぬ。死ぬのがこわいよ」

いきなり、言われて妻も困りましたが、その日の夜も不安がるので

その晩は妻の一緒の布団で寝ながら肩を寄せ合って休んだそうです。

さて、翌日も彼の不安は止みません。

また、その日の晩に妻のところに来ましたが、

今度は私に微妙なアイコンタクトで「あんたが説明をしなさい」の合図です。

私は聞きました。

　　　「何がそんなに不安なんだい」

彼は言います。

　　　「だって、死んだら、家族にも、友達にも会えなくなる。

　　　　一人ぼっちになってしまう。

　　　　それを思うと怖くて淋しい」

私は、普段ご門徒さんに話すことと同じことを話しました。

　　　「人は死んで終わりの命ではない」

　　　「亡くなったと同時にお浄土に往き生まれる」

　　　「また、この世に戻ってきて、縁のある方の傍にずっといるんだよ」

　　　「だから、それを聞くために、みんなお寺に来るんだよ」

彼は黙って聞いていましたが、

母親のぬくもりと

私の話しで

それ以降は落ち着いて過ごしています。

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以前、経済系の雑誌に

「子供の悩みごと」という特集が組まれたことがありました。

対象は小学生、中学生、高校生でしたが、

小学生、中学生、高校生の質問に、

大きな会社の社長さんや役員の方が答えていくというものです。

では、これから、

小学生の悩み事のベスト３を紹介します。

まず、１位ですが、

　　「なぜ勉強しなくてはいけないのか」でした。

「将来自分のやりたいことをするためには、よく考えて行動することが必要。

　　　難しいことを勉強するのは、その練習なのだ」

　　　　（APOLLO11代表取締役・吉丸彰氏）

　　　「社会に出てからも勉強は続く。

　　　強い意志がなければ続かないから、

　　　自分からやる気になるまでやらなくてもいい。

　　　ただし、受験のことなどを考えると、早めにやる気を出したほうが楽。

　　　勉強を楽しめると人生も楽しくなる」

　　　　（デザインオフィスアキラ・伊藤晃氏）

　　　「大人になってわかったのは、

　　　勉強は知識をつけるためだけにするのではないということ。

　　　たとえばテストなら、目標に向かって努力する力。

　　　難しい問題を解くのは、集中して物事を考える力をつけるためだ。

　　　知識が直接将来の役には立たなくても、

　　　真面目に勉強に取り組んだ経験は必ず生きる力になる」

　　　　（ピュアグリーン代表取締役社長・佐藤祐輔）　

多分、ご自分の経験をもとにした回答だと思います。

では、２位はというと、

　　「友達ができない」

「『友達は多いほうがいい』　『何でも打ち明けられる関係が理想』

　　 という思い込みがあるのでは？

　　　　大人になっても続いている学生時代の友達、

　　　　ましてや小学校時代の友達なんて本当に稀だ。

　　　　自分の中で勝手に高めてしまった

　　　　　『理想の友達関係』のハードルを低くしてやろう」

　　　　　（中堅医療機器メーカー）

　　　　「友達ができないのはまったく問題じゃないけれど、

　　　　『自分の良さがわからないなんてまわりのヤツはバカだ』などと、

　　　　友達ができないことをまわりのせいにするのは問題だ。

　　　　一人でも楽しめるならそれでいいし、

　　　　もし他人を呪っているなら考え方を変えよう」

　　　　　（ビジネスホテル経営）

　　　　「いいところを見せようとしていると、

　　　　近寄りがたい雰囲気を身にまとってしまうことがある。

　　　　少し『バカなこと』をして笑いをとるくらいの器の大きさを身につければ、

　　　　一緒に笑いあえるくらいの友達は簡単にできる」

　　　　　（大手繊維メーカー）　

この方々も、きっとご自分の経験をもとに回答されているのでしょうね。

さあ、問題は３位です。

　　　「死んだあと、どうなるのか」

この問題もまた、回答するのは、会社の社長や役員さん達ですが、

この問題だけは「誰も経験したことがない」問題です。

　　　　「子どものころは私も『死』への不安に囚われることがあった。

　　　　ただし、今も結局答えは出ていない。そのことから考えても、

　　　　あまり死について考えるのはよくない。

　　　　ある程度考えたら、次は『死ぬまでどう生きるのか』を考えよう。

　　　　人生の有限性を知ったうえで将来設計することができるのは、

　　　　とてもすばらしいことだと思う」

　　　　　（アイランド・ブレイン代表取締役・嶋基裕氏）

　　　　「死んだあとどうなるのかは、正直誰にもわからない。

　　　　でも、わからないままでも楽しく生きていけるし、

　　　　大人になったら『死んだら……』なんて考えている時間がなくなるから

　　　　安心してほしい。今の不安な気持ちは、勉強したり、友達と遊んだり、

　　　　考える暇を自分に与えないことで克服していこう」

　　　　　（不動産投資会社）

　　　　「正解のない悩みに振り回されるより、

　　　　　これからの人生を楽しく過ごすには

　　　　　どうすればいいかを考えたほうがいい」

　　　　　（教育関係）　

困ったことやわからないことを先送りにして、

「もっと違うことを考えて、死ぬのはどうせ先の事だから」

その考え方もわからないではないですが、

今日明日の命のこどもが、

もしいるとしたら、

これは回答にはなっていないですよね。

では、死んだらどうなりますか？

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山口県に深川倫雄（ふかがわりんゆう）という和上さんがいます。

その方のところに熱心に通っているご婦人がいました。

その御夫人が和上に言います。

　　「私は何度も何度も仏さまの話を聞いてきましたが、

　　　お浄土とか、阿弥陀様の事がさっぱりわかりません。

　　　私は死ぬとき、心穏やかに終わっていきたいのですが、

　　　どうしたらいいでしょう」

その質問に和上はこう答えました。

　　　「何でも、物事にはお稽古が必要です。

　　　あなたは死ぬ練習をこれからしなさい」

その夫人はびっくりしました。

　　　　「死ぬ練習ですか？」

和上は言います。

　　　　「自分が死ぬことが難しければ、こうすればいい。

　　　　　大切な人がいのち終える時、どんな言葉を掛けますか？」

　　　　　さあ、今日から考えてごらん」

これ、大変難しい練習ですか？

それとも、あなたならすぐに答えが見つかっていますか？

「石橋寿閑（いしばしじゅかん）と

錦織玄周（にしごりげんしゅう）の因縁」というお話を紹介します。

昔々、江戸時代の寛延年間（1748-1751）のことです。

石見国邑智郡高見村（現在の島根県）に、

石橋寿閑というお医者さんがいました。

禅宗の檀家ではあったものの、あまり仏法にご縁がない人でした。

年齢は50歳ばかりで、夫婦と娘ひとりの3人家族です。

また、約130km離れたと柳瀬村というところに、

錦織玄周というお医者さんがいました。
とてもご法義（教え）熱心な浄土真宗の門徒であったといいます。

錦織さんは医師としての腕も確かで、

遠く離れた高見村へ往診に訪ねるほどでした。
しかし、現在のように交通が発達していなければ、

道路も整備されてない時代のことです。
日帰りは難しいので、

錦織さんは医者仲間である石橋さんの家に時々泊めてもらっていました。

錦織さんは浄土真宗の教えを大切にされている人だったので、

毎朝毎夕にお仏壇に手を合わせることを欠かしません。
「石橋さんの家は禅宗だが、きっとお仏壇があるだろう」と考えて尋ねます。

錦織　　「石橋さん、いつも泊めてくださってありがとうございます。

　　　　　ところで、お宅のお仏壇はどこにあります？
　　　　　お世話になっている石橋さんのお家の仏さまへ手を合わせて、

　　　　　お礼を申し上げてから今日は休もうと思っていまして」

石橋　　「いや、この家に仏壇なんてありませんよ」

錦織　　「えっ？　どうしてですか？　あなたももう50歳になりますし、

　　　　　人生の依りどころ・帰するところを持たないなんて大変なことですよ」

石橋さんは、笑いながら答えます。

石橋　　「貴方も医師という身分に合わないことをおっしゃる。

　　　　　さては、浄土真宗の坊主に欺されて

　　　　　“死んで浄土に参る”という話を信じているクチですか？
　　　　　しかし、よく考えてください。

　　　　　人間は、死んでしまえば、それでおしまいです。

　　　　　血は水、肉は土、体温は火、息は風。

　　　　　身体の仕組みをよく研究してみれば、

　　　　　血液が循環するからこそ、手足が動いて、話すことができるのです。　

　　　　　血液の循環が止まれば、機械が壊れたのと一緒。
　　　　　死んでしまえば行灯の火が消えたも同様で、

　　　　　地獄や極楽へ往くわけではないことは明確です。

　　　　　地獄極楽の話は、何も知らないお爺さん・お婆さんから

　　　　　坊主がお金を巻き上げるための道具です。

　　　　　貴方のように多くの書物を読む勉強熱心な方が

　　　　　そんなこと言うなんてね・・・・。

　　　　　まぁ、確かに地獄に墜ちるのが恐ろしければ

　　　　　念仏のひとつでも申して極楽に行こうと願うでしょうし、

　　　　　礼拝の対象として仏壇も必要でしょう。
　　　　　しかし、私はそんなものを最初から信じていませんからね」

まさかの返答に、錦織さんは驚きます。

ここまで自分を絶対視している人には

もう何を言っても耳には入らないだろうと思い、

すぐに話題を変えて、その場を収めることにしました。

寝床に着いた錦織さんは、布団のうえに膝をつき、

涙を浮かべながら、西方浄土に向かって両手を合わせました。

　　　　「あぁ、私も仏縁がなければ石橋さんのようになっていたにも関わらず、

　　　　　今はこうして仏法を聞く身に育てていただいた。
　　　　　いつどこで、いのちを終えても浄土の蓮の華に生まれる身となり、

　　　　　仏法を誹謗中傷する人を見ても自分の過去のすがたを振り返り、

　　　　　今の我が身を慶べるようになった。
　　　　　石橋さんに申し訳ないが、あのまま言い争いを続けていたら

　　　　　ますます彼が仏法の悪口を言い、

　　　　　私自身も怒りの心が生まれていたところだった」

錦織さんは、枕を濡らしながら眠りにつきました。

それからというもの、

錦織さんは石橋邸に立ち寄るどころか、門前を通ることもありませんでした。

さて、

３年が経ったころ

　　　　　「せっかく高見村まで来ているのに、挨拶ひとつしないのも心苦しい」

と思い直して石橋さんの家を訪ねることにします。

玄関には召使いの女性が出てきました。

　　　　「私は石橋先生の知り合いの錦織玄周という者です。

　　　　　久しぶりに近くを通ったので顔を見せに来たのですが、

　　　　　お忙しそうですし、私も予定があるのでこれで失礼いたします。

　　　　　石橋先生によろしくお伝えください」

錦織さんが立ち去ろうとすると、

声を奥で聞いた石橋さんが玄関に飛び出してきました。

　　　　「錦織さんじゃないですか！　これは珍しいですね！

　　　　　どうぞ上がっていってくださいよ。

　　　　　貴方にどうしても見ていただきたいものがあるんです。

　　　　　お時間は取らせませんので」

言われるがままに座敷へ通されると、なんとそこには

阿弥陀如来を安置した立派な仏壇がありました。

念珠を手にかけ、

　　　　「貴方に見て欲しいと言ったのはこのことだったんです。

　　　　　どうぞお参りください」

と石橋さんは言います。

　　　　「なんと！　３年前は、ああ言っていたのに」

錦織さんが驚きながら聞くと、石橋さんは涙を浮かべながら答えます。

　　　　「貴方がそう言うのも無理ありません。

　　　　　恥を忍んで理由を語らせていただきます。

　　　　　ご存知の通り、私たち夫婦は娘を授かりました。

　　　　　生まれつき賢く、器量も良く、

　　　　　たったひとりの子宝の成長が何よりの楽しみでした。

　　　　　目に入れても痛くないほどに思いながら育てていましたが、

　　　　　思いがけず娘は大病に冒されることになりました。

　　　　　私も医者ですから、

　　　　　あの手この手を尽くしたものの、症状は良くなりません。

　　　　　脈は悪くなり、五体は日に日に衰え、

　　　　　もう半日も持たないというときになって、

　　　　　はじめて我が子の死期をさとりました。

　　　　　親子の別れが近づくなかで、

　　　　　私が苦しそうな娘を膝に抱き上げて最期の介抱を続けていると、

　　　　　娘が苦しそうにしながら目を開けて言うのです。

　　　　「お父さん、私は死ぬんですか」

　　　　　私のところに来る患者だったら、

　　　　　“いやいや、家族が悲しむからそんなことは言うもんじゃない。

　　　　　死にはしないから薬を飲みなさい。

　　　　　すぐに良くなりますからね”と言いますが、

　　　　　もうどうやっても治らないと分かっている我が娘に

　　　　　“大丈夫だよ。死なないよ”なんて嘘を言うことはできませんでした。

　　　　　黙っていると、

　　　　　すべてを悟った娘は両目に涙を含みながら目をつむります。

　　　　　“（あぁ、そうであったな。

　　　　　ひとりで死んでいかなければいけないというのは、心細いよな）”

　　　　　と思いをめぐらしていると、娘は再び目を見開いて言うのです。

　　　　「お父さん、私は死んだらどこに行くのでしょうか」

　　　　　私は何も答えることはできませんでした。

　　　　　“後生はない、死後の世界はない。地獄も極楽もない。

　　　　　死んだら魂は行灯の火を吹き消したも同然”。
　　　　　そんなことを普段は平然と言っていたけれども、

　　　　　実のところを言えば私も死んだことはありません。

　　　　　さらに振り返ってみると、有名な高僧や智慧に勝れた先人たちは、

　　　　　みんないのちの問題から目を逸らすことなく向き合っています。

　　　　　智慧の浅い私の言葉では娘の問いに答えることができませんでした。

　　　　　そこで私を意を決して

　　　　　頭の片隅にあった言葉を絞り出してこう返答したのです。

　　　　　“娘よ、よく聞いてくれた。

　　　　　人間は死んだら極楽浄土という結構なところへ往くのだよ”

　　　　　すると、娘はにこりと笑います。

　　　　　「お父さんもお母さんも、

　　　　　みんなその極楽へ往くんですか」

　　　　　“そうですよ。みんな必ず参らせてもらうんだよ。

　　　　　　先に参って待っててくれよ”

　　　　　「そっかぁ、それなら安心だね」

　　　　　「でもお父さん、

　　　　　　その極楽にはどうすれば往けるのですか」

　　　　　そこでまた私は、何も答えることができなくなりました。

　　　　　何分、詳しくは聞いたことがなかったもので、

　　　　　どう答えればいいのか分からなかったのです。
　　　　　すると、私の困った様子を見かねた家内が代わりに答えてくれました。

　　　　　“極楽浄土というところには、

　　　　　お慈悲の仏さまである阿弥陀さまがいらっしゃいます。

　　　　　母や父があなたに愛情を注ぐ以上に、

　　　　　慈愛に満ち満ちたお心で私たちをすくい取ってくださる仏さまです。

　　　　　一緒にお念仏を申そうね。

　　　　　なんまんだぶ。

　　　　　ほら、もう仏さまがお前のことを抱っこしてくれているよ。

　　　　　決してひとりじゃないんだよ。

　　　　　不安に思うことはないんだよ”

　　　　　あとで聞いてみれば、

　　　　　家内も周りのお爺さんやお婆さんが語っていたことを聞き覚えで

　　　　　そのまま言っただけだったようですが、

　　　　　それを聞くと娘はとても喜びました。

　　　　　「そうなんだ・・・。

　　　　　　なんまんだぶ、なんまんだぶ。

　　　　　　お父さんも、お母さんも必ず後から来てね。

　　　　　　私、待ってるからね」

　　　　　そう言って、静かに息を引き取ったのです。

　　　　　それからというもの、私たち夫婦は泣き明かして暮らしました。
　　　　　初七日や四十九日といった法事、

　　　　　日々の会話、娘が遊んでいた玩具、あらゆるものが涙の種となりました。
　　　　　特に別れの時を思い出すと、涙が止まりません。

　　　　　娘は私たちの言葉を受け止めて浄土を喜んで亡くなっていったが、

　　　　　それを話した私自身はどうだろうか。
　　　　　口ではなんとでも言えるが、私も娘と同じところへ行けるのだろうか。

　　　　　もし、私が今日明日にいのちを終えることがあれば、

　　　　　誰もそのことを教えてくれる人はいない。
　　　　　そんなことを考えるとゆっくりと眠ることもままなりません。

　　　　　それからというもの、

　　　　　私はお寺へこっそりとお参りして

　　　　　障子の外から説法を隠れて聞くようになりました。

　　　　　お話を聞けば聞くほど、

　　　　　今までの自分のすがたがありありと照らされ、

　　　　　地獄は私が生まれていく世界であると同時に、

　　　　　その私を捨てない仏さまの慈悲が有り難くこの身に染み渡りました。

　　　　　気が付けば、

　　　　　私もまた仏縁を結び、仏さまからのお育てを預かる身となりました。

　　　　　禅宗の家庭ではあるものの、

　　　　　今はこうして阿弥陀様をお迎えして、

　　　　　毎朝毎晩と手を合わせお礼を申し上げています。

　　　　　3年前のご無礼、どうぞお許しください。

　　　　　今は同じ浄土を願うお同行であります。今後ともお導きくださいませ」

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さあ、死ぬ練習をしましょうか。

あなたなら、大切な人がいのち終える時、

その時何て、声を掛けるのでしょう。

どんな言葉を掛けられるのか。

もし定まっていなければ、

これからも法話を聞いていきましょう。

確かに

「死んだらどうなる」

これがわかっていないと

大切な人が命終える時、掛ける言葉に困ります。

また、

自分が命終える時、どこに行くのかを告げられないのも困ります。

これからも法話を聞いて、このお話を深めていきたいと思います。

今日もようこそのお参りでした