創作 夢十夜! | 恋散如花

創作 夢十夜!

こんな夢を見た。

夫人の体を、胸を切開し骨を削ろうとしていた。付添いの女が云った。「夫人、ただいま、お薬を差し上げます。どうぞそれを、お聞きあそばして、いろはでも、数字でも、お算えあそばしますように」夫人は心配そうに訊ねた。「何かい、眠り薬をかい」「はい、手術の済みますまで、ちょっとの間でございますが、御寝なりませんと、いけませんそうです」

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然し夫人は薬を呑もうとはしなかった。それでは治療が出来ぬと申してもやはり夫人は了解しない。不審に思った付添女が執拗に訳を訊くので夫人は仕方無いと思ったか、苦痛に満ちた顔で云った。「そんなに強いるなら仕方がない。私はね、心に一つ秘密がある。眠り薬は譫言を謂うと申すから、それがこわくってなりません。どうぞもう、眠らずにお療治ができないようなら、もうもう快らんでもいい、よしてください」

夫人は己の意中が夢現に吐き出されるのを何より畏怖していた。手術の痛みは想像を絶するものである。とても正気ではいられまい。然し夫人は決然と其れを望み何故か威厳があるように思えた。「刀を取る先生は、あの人だろうね」一瞬夫人が弱々しく見えた。「はい、あの御方です。いくら先生でも痛くなくお切り申すことはできません」

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やがて施術が始り医者の男が手にした刃は生き物のやうに、定まった軌道があるように綺麗に奔った。血潮が白衣を染めていく。刃がまさに骨に達する瞬間であった。夫人は半身起き上ったかと思うと刃をもつ男の右手を掴み一心に迷う事無くそれを己の胸に突き刺した。周囲のものは何が起きたか理解できないで茫然としていた。

「痛みますか」男が訊くと「いいえ、あなただから、あなただから、、」そう云い掛けて夫人は最後の瞳を男の顔に向けて云った。「でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい」男は顔の表情を変える事無く唯云った。「忘れません」夫人はあどけない微笑を残し、そして唇の色が変わった。

二人は九年前に唯一回逢った事があった。それは会話も無く一瞬すれ違っただけだ。男が同一日前後して自ら命を断ったのを訊いて、その時それが両者のだと初めて気づいた。(終)

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恋愛至上主義をテーマに。これを理解出来る人と出来ない人は確実に存在するだろう。単なる夢なのか理想なのか。愛の実現方法に究極の手段は有るのか無いのか。現実的なのか非現実的なのか。現世か幻世か。答えは、そのにある。ベースは鏡花、夢十夜風に作ってみたw

<撮影地> 右京・鬼綱宅
<出演者> 鬼綱・横瀬葵・恋散如花
<脚本脚色>綱太郎
<衣 装>  鬼綱極