トライアルに受かるために (4) | マニュアル課 翻訳室

マニュアル課 翻訳室

フリーランスで翻訳と翻訳レビューをやっています。
以前はマニュアルのテクニカルライティングもやっていましたが、今では翻訳専業です。

Context (文脈)


字面だけで訳していないか (Context)


では自然な訳文とはどのようなものなのでしょうか?わかりやすければ、それでよいのでしょうか?

翻訳では、字面ではなく意味を訳すことが重要だと思います。また、言葉が発せられる場面(文脈)にふさわしい言い回しを使うことです。


同じ用語でも文脈が違えば、別の訳語を使います。ある用語や文が常に1つの意味で使えるわけではありません。翻訳対象の業界、分野、ユーザー、対象読者にふさわしい用語や言い回しを使って、翻訳することが重要だと思います。


私の翻訳者としてのスタンスは「わかりやすい訳文を書くこと」ですが、そこにばかり拘っていると思わぬ失敗をすることがあります。


たとえば、契約関係の文書は、一般的に1文が長く、言い回しも固いですね。はっきり言って、とっつきにくいです。では、このような文書の翻訳では、わかりやすく翻訳するのが是なのでしょうか?否です。私としては、その原文のニュアンスを生かす必要があると思います。訳文も日本語で書かれた契約書類と歩調を合わせる必要があるのではないでしょうか。


過去にライティングの仕事で官公庁のマニュアルを書く機会がありました。このとき、「係る」などの用語が普通に使われているんですね。では、これは平たく、「このような」とか「関連する」とかに書き換えて良いかというと、慎重にならざるを得ないのです。なぜなら、該当分野の文書を読む人が普段目にする言葉を使う必要があるからです。


筆者が何を言おうとしているのかを把握して、それを日本語で書き起こすのが翻訳だと思います。


関係代名詞のthatが1文に何度も出てくるような英文もあります。こんなとき私は、その英文を声を出して読み、ときには目を閉じ、筆者の言いたいことを考えます。


ここで重要なのは、原文の情報に何も足さず、原文の情報から何も引かないことです(「意味の追加/削除がないか (Addition/Omission) 」参照)。


前にも書きましたが、翻訳者は黒子です。筆者やクライアント側からすれば(乱暴な言葉を使うと)「頼まれてもないのに、余計なことをするな!」なのです。


このようなことを書くと、翻訳ってかなり難しいですね。そうです。本当に難しいです。「これで自分は一流の翻訳者だ」ということは絶対に言えないのです。翻訳をやっていると、自分の能力のなさに失望します。本当に大変な仕事です。だからこそ、常に勉強が必要です。終わりがありません。