柳沢と田中は、場所を変え、パソコン教室TODAYの狭いスタッフルームで話をすることになった。
柳沢は相変わらず変なことを言っている。
「松下電器(現パナソニック)はどうやって大きくなったかしってるかい?」
「戸別訪問だよ」
「大企業もテレアポのようなことをして大きくなったんだ。30年前はうちと同じような感じだったんだよ」
「うちの商材と松下電器の商材がどこが違うの?同じようなもんだと思うけどなぁ・・・」
「テレアポができないということは営業ができないとイコールだと思うけど・・・」
田中は、もう何を言っても通じないと思い、営業ができないので辞めさせてくださいと言った。
内心は治験みたいないかがわしい商材を売るのはどうかと思っているのに、治験商材=松下電器のような一流企業の商品となるのかが理解できなかった。
その時、田中は、前に柳沢から言われた言葉を思い出した。
「田中君、君は死んだ猫を売れるかい?君なら無理だと思うけど、俺なら売れるよ」
と柳沢がはっきりといったことを覚えている。
これはまぎれもなく柳沢の本質だと思ったのだ。
もちろん柳沢だけではなく、TODAYやクエスションの親会社になる響ネット、そしてさらに、統括するソフトバンクグループの体質であると田中は了解したのだ。
柳沢はそのグループの歯車として猛威をふるっていると田中は感じた。
柳沢には、営業がだめなら、事務ならどう?とか言われたか田中は頑としてもう無理です。ということを貫き通した。
とうとう柳沢は了解したが、しかし条件があった。
あと2、3週間ほど待ってほしいと言われた。
田中は2、3週間って何なんだ・・・。きちんと退職日を設定してほしいと思ったが、これが柳沢の常とう手段と思った。
2、3週間経ったら、ごめん、あと、2,3週間ぐらい待ってというにきまっている。
そして、柳沢はこうもいった。
君がいるから、実は新しく入れようとしていた新入社員がいたんだけど、断ったんだよ。
もし君がここで辞めたら、辞めたことによって、うちが被った被害を補填してくれるかい・・・。
とか、今神戸校を運営する会社とある契約を結んでいて、うちが先生を1人派遣しないといけないから、君が辞めると困る。
君が行かなくなると、先方に怒られ、下手したら損害賠償されるなどとかいう訳がわからない話をされた。
田中はこの人と話していても永遠にやめられないと思ったから、とりあえずその場はわかりましたということばで濁し、話し合いの場を後にした。
そして週末、無断欠勤を実行したるねんと心に誓った。