1800年代、ドイツ屈指の優秀な兄弟・グリム兄弟は、フランスによる祖国侵攻の中で危機感を募らせていました。


「おれたちの言葉と文化を守ろうぜ!」

「がってんだ、兄ちゃん!」

そんな気概によって生まれたのが、かの有名な『グリム童話集』(1812年初版)であり、序章から切々とその思いが綴られる(言語学者でもある彼らの)『ドイツ語辞典』でありました。


✢参考

『グリム兄弟言語論集 言葉の泉』(ヤーコプ・グリム、ヴィルヘルム・グリム著/千石喬、高田博行編 ひつじ書房)


おっと

いきなり200年前のよその国の話からはじめてしまい、今から何をしようとしていたのか忘れるところでした。


何を言いたいのかというと、お国言葉っていいよね!だいじ!ということ。


グリム兄弟が土地に伝わる昔話や言語を蒐集・研究し伝播を試みたように、


(全体を見渡したとき)お国言葉…いわゆる"方言"をもちいた読みもの・小説や絵本の存在意義は案外大きいのでは✨🤔

そんな気がする今日この頃。


さて、「お国言葉」(方言)という切り口で見てみますと、関西弁で書かれた絵本は圧倒的な存在感を放っております。

生活に"笑い"が根づいた土地柄ゆえでしょうか?

やっぱり面白い✨✨


すてきな「関西弁」(近畿方言)の絵本を3冊ご紹介します🎵



オモロ!関西弁の絵本




🌟「なんでやねん!」の大ツッコミが聞こえる


『まよなかのおしっこ』(さいとうしのぶ 作 KADOKAWA)


トイレに いきたくなって めがさめてしもた。


なんで こんな じかんに おしっこやねん。

いま、なんじ?

2じ!?

おばけの でる じかんやん!

……


子どもの頃って、どうしてあんなに「夜」が怖かったんでしょうね?


天井のシミが幽霊の顔に見えたり、

トイレからおばけの手が伸びてくるような気がしたり…😱


「今日からひとりで寝る」宣言をしたこの男の子も、夜中に大後悔をするわけです。


ドアを開けたらミイラが落っこちてくるんやないか、


電器のスイッチを押した途端、無数の手が伸びてきてつかまれるんとちゃうか……


なんでやねん!

ありえへん、そんなん ありえへん。


悪い想像を振り払い、果敢に階下のトイレを目指した彼が見たものとは……?


読者による「なんでやねん!」の大ツッコミが聞こえるようなラストシーン。


『まよなかのおしっこ』は、大阪府堺市出身の作者が用意した最後のオチが秀逸です🤣✨


ところどころに隠れたオバケ探しも楽しい一冊。


***



🌟そら めっちゃたいへんやな…


☆『ちこくのりゆう』(森くま堂 作/北村裕花 絵 童心社)


せんせい、きいてえな。

あさ おきたら、
とうちゃんと かあちゃんが カブトムシに かわっとったんや。
……

ネクタイをしめたカブトムシ(雄)の父ちゃんと、おたまを握りしめたカブトムシ(雌)の母ちゃん。

一大事じゃないですか。
カフカじゃないですか。

まさしは両親にとりあえず昆虫ゼリーの残り物を与え、学校へと急ぎます。(なんでやねん)

そんなまさしを、道行く途中で呼び止めたのは、野良猫のタイショーです。

「かわりに、ワシが いってやろか?」

……あ〜、今度は入れ替わっちゃった!
オレがタイショーでタイショーがオレで。
山中恒じゃないですか。
大林宣彦監督じゃないですか。

のんきに過ごせる♪…と喜んだのもつかの間、猫になったまさしは縄張り争いに巻き込まれます。

まさに危機一髪!!

どうなるまさし!?

そんなわけで、きょうは
メッチャ たいへんやったんや。
ほんでも、こうして ちゃんと がっこうに きてんのやで。
……

あなたが先生ならこの「遅刻の理由」にどうこたえますか?🤣✨

『ちこくのりゆう』は、兵庫県在住の作者による作品です。

のびのびとした表現、おおらかな気持ちになれる絵本。
ふてぶてしい野良猫の姿形も、いいなあ。

***


🌟地獄で遊んでたらあかんやろ

☆『じごくのそうべえ』(田島征彦 作 童心社)

表紙に記されているとおり、この物語の原作は、上方(かみがた)落語
上方落語とは、大阪・京都を中心とする畿内地方で主に演じられる落語の総称です。

桂米朝の「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」が原作となった絵本です。

とざい とうざい。
かるわざしの そうべえ。
いっせいいちだいの かるわざでござあい。
……

綱渡りの最中に綱から落ちてしまった軽業師(かるわざし)のそうべえは、地獄に向かう火の車で、歯抜き師のしかい、医者のちくあん、山伏のふっかいと出会います。

三途の川を渡り、閻魔大王の前に連れて行かれた4人は「生きている間に悪いことをした」とされ、地獄行きを命ぜられます。

おまえは、えええ……と……、
そうじゃ。
はらはらするような つなわたりをして、見るひとのいのちを ちぢめたによって、じごくゆきじゃ。

そんなむちゃな。
それが、しょうばいやのに。 
……

最悪の状況にも関わらず、飄々とした雰囲気の主人公と、テキトウな仕事っぷりがやけに人間臭い閻魔王とのやり取りに、思わず吹き出してしまいます(笑)

4人はこのあと、糞尿地獄、人呑鬼(じんどんき)の腹の中、熱湯の釜、針の山へと次々にほうり投げられますが……

地獄、むしろ快適♡
ぜんっぜん 怖くない♡
むしろ地獄の鬼たちを困らせる存在になっちゃったもんね♡

……と、地獄をエンジョイし地獄の地獄たる所以を破壊しかねない彼らは、たちまち迷惑な存在に。
さて、そうべえら4人の男たちは、この後どんな処分を受けることになるのでしょうか?
(そら そうなりますわな〜という、上方落語っぽいオチが最高🤣✨)

大胆なタッチで描かれる迫力の絵(地獄や鬼)と、巻き起こるドタバタな騒動……このギャップを楽しんで。
怖がりの子どもだって、安心してゲラゲラ笑いますよ♪

『じごくのそうべえ』は、大阪府堺市に生まれ高知で暮らした後、京都で大学時代を送った作者による作品です。

***


以上、「関西弁」(近畿方言)の絵本を3冊ご紹介しました。

まだまだ!関西弁の楽しい絵本、大人向きの作品は他にもたくさんありますので、機会をみてまた記したいと思います。

最後に

実を言いますと、ネイティブでない私(新潟県出身)のような人間は、関西弁の絵本を人前で声を出して読む場面ではいつもの100倍……関西出身の人の前ではとくに……ド緊張してしまうという「非ネイティブあるある」を書き添えておきます🤭

(関西弁の絵本はおもろいなあ。
上手に読めるようになるためには、日々精進やで。
いやほんまに。)


絵本コーディネーター東條知美