6/10のNHK「ドキュメント72時間」(於 神保町ブックハウスカフェ)で、ロシア留学の夢が、この度の戦争で頓挫してしまったという学生さんが映し出されていました。


彼は知人から、「この絵本を読んでみたら」と勧められたそうです。



◇『きりのなかのはりねずみ』(ユーリー・ノルシュテイン、セルゲイ・コズロフ/フランチェスカ・ヤールブソワ/児島宏子 福音館書店)


ノルシュテイン作品の多くは、激動のロシアに翻弄され、苦しみの中で生み出されたものでした。 


国による芸術支援の突然の打ち切り等、氏の制作の裏側にはいつも何かしらの苦しみが伴いました。


そんな中で生み出された、光と影の幻燈。

作為とかけ離れた美しき世界。


絵本の元となるのは、"映像の詩人"とも呼ばれるノルシュテインによる有名な短編アニメーション作品(『霧の中のハリネズミ』)です。☆参考 


***


何者かに翻弄されながら霧の中を漂うはりねずみ。


光と影の森で、はりねずみの身に起こる様々な出来事。


怖くて不安で……でもそれ以上に、言葉ではうまく説明できない「予感」や「啓示」に満ちた世界がひろがります。


〈はりねずみは たちどまりました。

きりのなかに しろいうまが うかんでいたのです。〉


〈はりねずみは、おもいきって きりのなかに はいっていきました。〉


〈きがつくと、あたりは すっかり くらくなっています。

はりねずみは、きゅうに こころぼそくなりました。〉


〈「いったい ぼくは どこへ ながされていくのだろう?」〉


〈「きみが いなかったら、だれと 星を かぞえるのさ?」〉


〈「しろうまさん きりのなかで どうしているかな……」〉

……


親友のこぐまくんの隣で安心感で満たされながら、どこかミステリアスな存在の白馬に心を奪われたままのはりねずみ。


迷いの先に新しい眼がひらかれる……そんなメッセージと捉えることもできるかもしれません。



読み手の想像を喚起する美しい絵本。


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絵本コーディネーター東條知美