◇『ラ・タ・タ・タム:ちいさな機関車のふしぎな物語』(ペーター・ニクル文/ビネッテ・シュレーダー絵/矢川澄子訳 岩波書店)


【ストーリー】
小男マチアスは天才発明家。
ある日彼は、ちいさな美しい機関車を拵えるが、横暴な工場長によって奪われ、庭のオブジェにされてしまう。
失意のマチアスは空飛ぶ自転車で、不親切なこの街を出て行くことにする。
すると、ちいさな美しい機関車も、じっとしてなんていられなかった。
庭から脱走し、マチアスを追って走るのだ……!

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美しい絵本を数冊挙げよと言われたら、私は間違いなくシュレーダーの絵本をリスト入りさせるだろう。
中世ルネッサンス、そしてシュルレアリスムの香り漂うこの世界観よ……Love! 

ニクルの紡ぐ物語にはいつも、皮肉とユーモアが効いている。

加えて今作品の底には、"小さな者が大きな者(あるいは不条理)に打ち勝つ"といった、普遍のテーマが流れている。

それからマチアスの台詞にもあるように、〈もっとやさしいひとたちのところ〉へ……安心の地、約束の地へたどり着くまでを描くロードムービーのようでもある。

行け行け〜!
どんどん進め〜〜!!

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映画にもなった小説『夜は短し歩けよ乙女』には、この絵本が重要なモチーフとして登場する。

映画では、「コレクターに所有される希少本」と「人から人へ手渡され胸に火を灯す本」が、"宝"の意味を問いかけるように映し出されていた。

手渡され、読み継がれるもの……

作者(森見登美彦)は、案外絵本というものの本質をついていたんじゃないかと思う。
とか偉そうに書きました。すみません。

この美しい絵本がしみじみと好きです。
(裏表紙)


絵本コーディネーター東條知美