☆『ママとうみのやくそく』

(コ・ヒヨン 文/エヴァ・アルミセン 絵/おおたけきよみ 訳 主婦の友社) 
 
 
「うみはね、うんと おそろしいところなのよ」
「それなのに、どうして ママは まいにち うみに もぐるの?」
「まいにち のぞいたって わからないのが うみの こころだからよ」
 
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"女の一生を描く絵本" というものがあります。
 
こちらは、韓国の済州島(チェジュとう)で代々続く、ユネスコ人類無形遺産に認定されているヘニョ(海女)たちの人生を描く物語。
 
 
登場人物は、3人です。
海で生き、生かされる「おばあちゃん」と「ママ」、その二人をみつめる「わたし」(娘)。
 
 
波にのまれやしないかと心配する娘のために、浮きに(目印の)花柄カバーをつけてくれるママも、かつては海が大嫌いな若者でした。
都会へ出て、もう二度と戻らないと誓った日もあります。
 
 
一方おばあちゃんは、島から一度も出たことがありません。
 
いちにちでも うみが みられないと、
こころの なかは ザブンザブンと なみうつそうです。
 
 
結局海や波が心から離れず、都会から戻ったママは、おばあちゃんと共に海に潜るようになります。
 
 
ところが あるひ、おそろしいことが おこりました。…
 
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絵本の中で悲劇的な事件は起こったりしないので、どうかご安心ください。
 
自然は美しく、わたしたちに豊かな恵みをもたらしますが、言うまでもなく、そこには大いなる脅威があるということ…それを説くシーンはあります。
(そこでのおばあちゃんの言葉は、津波で悲しい体験をした人には、もしかすると辛いものとなるかもしれません。)
 
 
済州島の海女が海と約束したこと、「ママとうみのやくそく」とは…?
 
 
***
 
自然と共に生きる人々は、己の力、その力の及ばない所をちゃんと知っています。
 
だからいつも、
自然を畏れ、敬い 、感謝することを忘れないのかもしれません。
 
 
稲の刈り入れを終え、稲架にすべて干し終えた秋の夕暮れ…
向こうの山に向かっていつまでも手を合わせる、手ぬぐい頭の祖母の姿が思い出されます。
 
 
女の生き方、
望郷、
自然への畏怖、
環境のこと…
 
『ママとうみのやくそく』は、実に様々な角度から私たちの心にうったえかけてきます。
 
 
故郷の島で海女さんのドキュメンタリーを撮って、それを書いた作家と、
海女さんと一緒に過ごし、「団結力」「自然への尊重」「自尊心」「シンプルな生き方」を見たという画家。
 
海を描くおおらかなタッチ!
女は可愛く、かつ強くたくましく描かれています。
 
 
この夏、みんなにおすすめしたい一冊です。
 
 
絵本コーディネーター東條知美