ここ最近の絵本業界でヒットメーカーといえば、ヨシタケシンスケさん。
哲学的だったりナンセンスだったり...どの作品にもクスリと笑えるオチがついてくる。
飄々とした雰囲気を持つペンのタッチも、漫画風のイラストも、ふだん絵本とは無縁な大人たちに支持される理由のひとつかもしれません。
そんなヨシタケ作品のひとつ、
(出版社HP 作品紹介より)
なつみは、「すごくいいことおもいついたよ!」と、おかあさんのところにやってきました。
そして、「なんのまねをしているか、あてるゲームだよ!」と、問題をだします。
なつみは、毛布にくるまったり、手をぐるぐる回したり、身近なものをからだをつかってまねしていきますが、おかあさんはなかなか当てられません。
ほのぼのとした親子のやりとりも見どころです。
4,5歳くらいの子どもって、そうそう、こんな感じです。
夜、おかあさんやおとうさんがいくら疲れていても、子どもは眠りにつく直前まで遊びたい...というかあそんであそんであそんで~!!
とにかくパワフル。
(なつみちゃんから出題される)難しすぎるジェスチャークイズ大会、答えをぜんぜんあてられないママ。
いかにも最近の親子!といったかんじがします。
『なつみはなんにでもなれる』は今、どうしてこんなに売れているのでしょうか?
(昔からある絵本の設定)「親子のごっこ遊び」を描く他の作品と、読みくらべてみたいと思います。
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じゃーん
こちらは世界的な名作絵本。
◇『ぼくにげちゃうよ』(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 クレメント・ハード/絵 いわたみみ/訳 1976年 ほるぷ出版)
(出版社HP 作品紹介より)
1942年が初版の絵本の古典。
幼児の好みを知りつくしているブラウンの傑作です。ウサギの母子の間に交わされるほのぼのとした会話の中に理想の母子像が浮かびあがります。
『ぼくにげちゃうよ』(ほるぷ出版)の紹介文には、≪母子の間に交わされるほのぼのとした会話≫とあります。
先ほどの『なつみはなんにでもなれる』(PHP研究所) も、≪ほのぼのとした親子のやりとり≫という紹介のされ方をしていました。
両者ともに、ほのぼのした親子が描かれている、と。
1942年、アメリカの絵本黄金時代の初期に、丁寧に丁寧に創られた美しい絵本、『ぼくにげちゃうよ』 は、こんなふうに始まります。
・ ・ ・
ある日、子うさぎは家を出てどこかに行ってみたくなりました。
そこでかあさんうさぎに言いました。
「ぼく にげちゃうよ」
すると、かあさんうさぎが言いました。
「おまえが逃げたら、かあさんは追いかけますよ。
だって、おまえはとってもかわいい私のぼうやだもの」
・・・さあ、ここから母子のかけ合いが始まりますよ。
「かあさんが追いかけてきたら、ぼくは小川の魚になって泳いでいっちゃうよ」
「おまえが小川の魚になるのなら、かあさんは漁師になっておまえをつりあげますよ」
「かあさんが漁師になったら、ぼくはかあさんよりもずっと背の高い山の上の岩になるよ」
「お前が高い山の岩になるのなら、かあさんは登山家になって、おまえのところまで登っていきますよ」
「かあさんが登山家になったら・・・・
(以下略)
・・・
このように、母子の会話に出てくる「もし○○だったら」という想像のシーンが、
「左右モノトーン」、その後の「見開きカラー」のくり返しという構成で描かれるのが、『ぼくにげちゃうよ』です。
『なつみ...』と同じ「母子の空想ごっこ遊び」を題材にした「くり返し」スタイルの絵本ですが、
母と子の愛と安心感が、確かめ合うように描かれているところが、この作品の最大の魅力であり特徴です。
ちなみこの作品は1979年にアカデミー賞を受賞した米映画「クレイマー・クレイマー」にも登場します。
当時の<母性愛を象徴する絵本>といったところでしょうか。
・ ・ ・
~『なつみはなんにでもなれる』 と『ぼくにげちゃうよ』 の共通点~
おかあさんと子どものほのぼのとした会話によって展開される。
いずれも親子間の愛情が見てとれる。
会話のきっかけは子どもの思いつきである。
‟空想”がキーワード。登場する子どもは、とにかく「なんにでもなれる」。
「くり返し」という絵本(昔話に多い)の黄金スタイルを採用。
ともに小さめサイズ。子どもをひざに乗せて読み聞かせするのにちょうどいい。
読んだ後、絵本のマネして「これなーんだ?」のジェスチャークイズや、「ぼくが鳥になってにげたらどうする?」と問いかけてきたりする子どもの行動が見られる。
おとうさんが出てこない。
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~『なつみはなんにでもなれる』 と『ぼくにげちゃうよ』 の相違点~
‟笑える”世界観をもつ『なつみ...』に対して、‟微笑ましい”世界観の『ぼくにげちゃうよ』。
おかあさんのキャラクターがぜんぜん違う。
『ぼくにげちゃうよ』 のおかあさんは、冷静沈着・良妻賢母。
うさぎ穴はいつもキッチリ片付いていそうです。
『なつみはなんにでもなれる』 に描かれるおかあさんは、私たちにぐっと身近に感じられるキャラクター。
(そんなことより、はよ寝てくれ~)って気持ちが、表情に表れています。
・ ・ ・ ・ ・ ・
正直わたし自身の子育てを振りかえりますと、
理想はうさぎのおかあさん
でも
実体はなつみのおかあさん
といったところでしょうか。
あなたは、どちらの絵本により共感を覚えますか?
より親しく感じる絵本は?
買うならどっち?
「こうありたい!」を選ぶのか、
「わかる!」を選ぶのか。
それとも両方?
40年。
時代の遷り変りの中で、「おかあさん」もまた変化してきました。
1972年に絵本を選ぶ多くのおかあさんと、2016年に絵本を選ぶ多くのおかあさんとでは、
絵本を選ぶ際の基準も変わってきているのかもしれません。
いずれにしても、
絵本で子育てをもっと楽しくできたら素敵ですよね。
だって、子育ては待ったなし。
ほんとうにたいへんな仕事ですもの。
絵本コーディネーター東條知美