【うつくしい月夜に】
空にみえない夜は、絵本でお月見いたしましょう。
☆『ムーン・ジャンパー』(ジャニス・メイ・ユードリー/文 モーリス・センダック/絵 谷川俊太郎/訳 偕成社)
月明かりに照らしだされる(点描による)美しい庭、かたすみに忘れられたシャベルやバケツ、小さないきものたち。
そしてなまあたたかい夜風に誘われ家をとびだす、裸足の子どもたち...
きと なかよくしたいから、よるの きに のぼる。
しまで ねむるつもりになって キャンプする。
うたを つくる。 しも つくる。
そして くさの うえで とんぼがえり。
1959年、アメリカのハーパー社で出版された美しい絵本です。
当時の“伝説の編集者”ノードストロムはこの4年後、(この年に『かいじゅうたちのいるところ』で大評判を博すこととなる)センダックに宛てた手紙で、
「この作品のように短くて詩的で、でももう少しずっしりとした内容(あなたの作品ならおのずとそうなりますが)の本を作っていただけたら」...
と書いています。
わたしはこの『ムーン・ジャンパー』という作品の、五感にうったえる力、浮遊感、神秘的な美しさの方により惹かれます。
* * * * *
浮遊感、神秘的な美しさを感じる〈月夜の絵本〉をもう1冊。
☆『ミシンのうた』(こみねゆら/作 講談社)
見習い針子の娘は、ショーウィンドウに飾られた美しいアンティークミシンに「触れてみたい」と焦がれるようになります。
満月の夜、ミシンにさそわれるように屋根裏部屋を出て、服を縫い始める娘。
こうして満月のたびに出来上がるふしぎな服は、お客さんに評判をよぶようになりますが......
無心にミシンを踏む娘。その心は既に、遥か手の届かぬ場所へ飛んで行ってしまっているのです。
満月の夜のふしぎな力。
月夜に跳ねるあの子どもたちも娘も「ここにいるけれど、いない」・・・そんな気がする月夜の絵本。
絵本コーディネーター東條知美