【あなたが うまれた せかい】
☆『あなたがうまれたせかい』
(ウィリアム・ホール 文/ロジャー・デュボアザン 絵/星川夏代 訳 2008年 童話館)
先日 冷たい雨の降る朝に、勤め先の先生から「冬の雨はいやですね」と声をかけられました。
「東京でこの時季に降る雨は、私の故郷では・・・きっと束の間の青空を見せてくれている、と思うとちょっと嬉しいんです。」
「思ってもいなかったわ」と、生まれも育ちも東京下町のその方はおっしゃいました。
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ロジャー・デュボアザン(1904-1980)はスイス生まれ、アメリカで活躍した絵本作家です。
(動物でも人でも)なにげない日常をテーマにした作品が多いのですが、登場人物の心情の変化や関係性をさりげなく浮き上がらせ、読む者にふと立ち止まらせるような名作を数多く残しています。
鮮やかで明るい色彩は、眺めているだけで暖かい春にいる気分にさせられます。
『あなたがうまれたせかい』(ウィリアム・ホール 文/ロジャー・デュボアザン 絵/星川夏代 訳 2008年 童話館)は1958年にアメリカで出版されました。
絵本はこんなふうに始まります。
あなたがうまれた せかいは、すてきなところです。
あさになると、おひさまが かおをだして、ほほえみます。
いぬに、ありに、ことりに、ねこに、
ぎゅうにゅうはいたつの トラックに、そして、みみずに。
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この調子で 朝から夜までの町の一日が、至極丁寧に、ひそやかに描かれていきます。
急がないで ゆっくりかみしめたい一冊です。
スープをすくうスプーンに注ぐ日の光、
木の枝を大きく揺さぶる風、ガソリンスタンドに影を作る雲、
いもむしを濡らす雨粒、
砂浜をつつむ大きな虹、
列車に長い影を作る夕方の西日、
あなたの家にさす月の光
・・・・・
目にも留めないような場所。
小さな小さな片隅。
でも いつも なにかしらが起こっているんですね。
この広い世界中で、世界中の「あなた」のもとに、日が当たったり風が吹いたり雨が降ったりしていると想像してみてください。
そうです。あなたがうまれた せかいは、こんなに すてきなところです。
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この当時のアメリカでの出来事をちょっと見てみますと、1957年「戦場にかける橋」(「 The Bridge on The River Kwai」)がアカデミー賞(作品・監督など7部門)を受賞しています。
時を経て現在。ローマ法王が、米大統領選の共和党候補となる勢いのトランプ氏を評して、
「架け橋ではなく、壁をつくることばかり考えている人はキリスト教徒ではありません」と語られたそうですね。
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「あなたがうまれた世界は素敵なところだよ」と、すべての子どもたちに向かって胸をはって言える世界を願いながら・・・
ご紹介します。
(☆『あなたがうまれたせかい』(ウィリアム・ホール 文/ロジャー・デュボアザン 絵/星川夏代 訳 2008年 童話館))