【源平合戦のパロディを、壮大なスケールで描く絵巻物】 
☆『かえるの平家ものがたり』(日野十成/文 斎藤隆夫/絵 2002年 福音館書店)

縦横約30センチの大型の絵本は、横に開くと60センチ。
この大きな画面いっぱいに、野の花や沼の風景、かえるの一匹一匹が実に繊細に美しく描かれます。
物語のナビゲーターは、子どもたちを前に琵琶をべんべんべん・・・とかき鳴らしながら昔語りをする、がまじいさん。千年杉の下に住む長老です。

じいさんの語る、昔々「この源氏沼」であったという「源平合戦」。
一万の(かえる)兵が命をかけた大迫力のいくさのシーンはまことに圧巻。
この一冊がまるで貴重な絵巻物のように感じられます。
すばらしい絵本ですよ。

源氏はかえる。
平家はねこ。
かえるの源氏勢には、頼朝殿や巴御前、そして主役の義経(うしわかまる)が登場します。

みんな大好き義経(うしわかまる)にはいろいろな伝説がありますが、この『かえるの平家ものがたり』でも、勇気と知恵のある「若大将」として描かれています。

最強の敵・平家ねこを討ち取るため、若大将 義経の考えた作戦とは?
「その一瞬」に賭ける義経の、尋常ならぬ覚悟と男気に惚れ惚れとします。

琵琶の音と共に繰り広げられる語り口調の文体もすがすがしい、「平家物語」入門編。(パロディだけど)

ちょっとしたプレゼントにもおすすめです。


(絵本コーディネーター 東條知美)

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~出版社からの内容紹介~

 夏の朝、カエルの子どもたちが「げんじぬま」のハスの葉のうえで遊んでいる。「千年杉」の下に住むガマじいさんが琵琶をひざにのせ、しわがれ声で歌いだす。
 ―昔、この沼の主は「げんじとのさまがえる」のサムライだ。ある夏に一大事が起きた。目玉の光る化け物がアオガエルの背中に傷をつけた。
平家ネコの仕業だと、「ともえ」が断定した。
「合戦だ!」「いくさだ!」沼のサムライが集まった。けれども平家ネコには、松葉の矢など痛くない。タンポポの槍も痛くない。一万匹のカエルがやむなく退却した。

そんな大人の後ろから見ていたカジカガエルの「うしわかまる」は、大作戦を思いついた・・・・・・―
 
豊かな想像力とユーモアあふれる文、繊細な筆致と壮大な場面の絵、『平家物語』を知らない子どもたちも存分に楽しめる一冊で、伝統と斬新さ、古典と創作をみごとに融合した傑作絵本である。