【月夜の絵本会vol.5】ゲストは絵本『12にんのいちにち』(あすなろ書房)で日本絵本賞を受賞された杉田比呂美さん。
インタビュー後半では、杉田さんが「昔好きだった本」「影響をうけたもの」「仕事をする上で大切だと思うこと」...等々のお話を伺いました。

   



◆子どもの頃に読んだもの・好きな作品やアーティスト

 

東條:子どもの頃はどんなものを読んでこられましたか?

 

杉田さん:学校の図書室で出会った黄色い表紙の絵本、バージニア・リー・バートンの『せいめいのれきし』が好きでした。

図書室へ行っては手にとって読んでいた、いまも大好きな一冊です。

文章も読んでいましたが、絵を眺めるのが好きでした。
大昔から現在までの移り変わりを。

 

東條:子ども時代から「時の流れ」を描いたものがお好きだったわけですね。

 

杉田さん:はい。バートンの『ちいさいおうち』なんかも好きですねえ。

 

東條:その後美術系の専門学校へは、イラストレーターになりたくて入られたのですか?

 

杉田さん:いえ、学校ではグラフィックデザインを学びました。最初の勤め先は文房具会社のデザイン室だったんです。

在籍中に時々たのまれてやっていたイラストのほうが面白くなってしまって。

 

東條:影響をうけたアーティストなどいたら教えて下さい。

 

杉田さん:絵本だと『さむがりやのサンタ』レイモンド・ブリックス

それから...フランスのイラストレーターSempé

あとはタンタンのシリーズが好きです。


子どもの頃から漫画にはすごく影響を受けていると思います

大人になってからは写真集が好きで、よく眺めています。

有名なところではロバート・キャパ。日本人の写真家では桑原甲子雄

日常を切り取ったような写真が好きです。

 

東條:杉田さんご自身も写真を撮られたりするんですか?

 

杉田さん:一時期はすっごく凝っていました。

風景写真・・・給水塔とか鉄塔、電線とか()

 


東條:写真は、「とじこめられた一瞬」を読み解く作業が面白いなと思います。

 

杉田さん:そうですね。それから撮る人間によって、同じモチーフでもまったく違うニュアンスの出来上がりになるところが写真の不思議なところだなと思います。

「一瞬」ですよね。「一瞬の切り取り方」が見えるのが写真の面白さですね。

写真は「すくい取るもの」だから、そういった意味では、技巧で描くこともできる「絵」とはまた違うものだな…と思います。

 

 

◆クリエイター志望のみなさんへ

 

東條:作家志望の学生さんからの質問です。「どうやったら世に出られるのでしょうか?」

 

杉田さん:絵本についてはさっきお話ししたように“偶然のタイミングと思いつき”で出せた部分もあるのですが、イラストの場合…今の状況はちょっとわからないのですが、私の時代は出版社へ電話連絡し、直接「持ち込み」で絵を見てもらうということをたくさんしました。

いろんな人に見てもらいましたね。

今は多分、直接会う前に郵送というシステムをとっているんじゃないかな。

なるべく人に見てもらうこと。そうすると自分では気がついていなかったことを指摘してもらえるので、もちろんいい点も悪い点もあるのですが。

まったく違う視点で見てもらえるというのはすごく面白い出来事です

 

東條:「ものづくりを目指すなら、これだけはやっておいたほうがよい」という事は何かありますか?

 

杉田さん:途中でやめないこと。

それから・・・最初は真似したりするものいいと思います。

でもその中で「自分だったら」というものを少しずつ加えていくといいと思います。

そうしていると少しずつ変わっていけると思います。




 

 

◆続けること

 

東條:それでは最後に、これから杉田さんが取り組みたい、やってみたいと思われる仕事について教えてください。

 

杉田さん:とくに野心などはまったくないのですが、とにかく「続けたい」ということですね()

 

東條:デビューされてどのくらいですか?

 

杉田さん:フリーになってからもう30年くらいですかね。

疲れて「ちょっと休もうかな」「海外にしばらく行こうかな」と思う事もありましたが、結局仕事してないと落ち着かないんですね。

じゃあ、やっぱり続けるしかないなと。

やめちゃえばそこで終わりだけど、続けていればきっと、何かの形にはなるんじゃないかなと思います。

方向は自分でコントロールできないけれど、続けていれば、「自分に合ったどこか」にいつかきっと行けるんじゃないかと思うんです。

〈おわり〉


(インタビュー後は、ご参加いただいた皆さまといっしょに「絵本」「おとな・子ども」「図書館」などの話題でおおいに盛り上がりました。杉田さんにも遅くまでおつきあいいただきました!)



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(後記)
プロとして30年以上、装画のお仕事では宮部みゆき、東野圭吾作品なども手掛けてこられた杉田さん。
日常の「なんでもないもの」を静かにみつめる眼、忘れないで記憶する感性、「続けることの大切さ」...。

「杉田比呂美作品になぜ惹かれるのか?」
今回お話を伺う中で、その理由がよくわかったような気がします。

杉田さんにはインタビュー後の懇親会にもおつきあいいただき、一同忘れられない時間を過ごすことができました。


杉田比呂美さん、ご参加くださいました皆さま、いつも素敵な場を演出してくださいます
ロケットカフェの岸山さんにもあらためてお礼申し上げます。
ありがとうございました!


(絵本コーディネーター 東條知美)