【プロフィール】

杉田 比呂美(すぎた ひろみ)

 

1959年東京生まれ。絵本のほか、本の装画、挿絵など多く手がける。

絵本に『風たんてい日記』、『ひとりぼっちのくうくう』(ともに小峰書店)、『らっちさん』(講談社)、『ポモさんといたずらネコ』(理論社)、『散歩の時間』(晶文社)などがある。

(公式サイト)

http://sugita-hiromi.jp/

 

絵本好き・絵本の仕事にたずさわる人々の集まり〈月夜の絵本会〉今夜のゲストは杉田比呂美さんです。

 

杉田さんは先頃、2014年に出版された12にんのいちにち』(あすなろ書房)日本絵本賞を受賞されました。(☆日本絵本賞は、絵本芸術の普及、絵本読書の振興、絵本出版の発展に寄与することを目的として設けられた賞です。)


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東條:このたびは「日本絵本賞」受賞おめでとうございます!

杉田さんとは、ツイッターを通してお付き合いさせていただいておりました。

時折つぶやかれるその言葉に「その通り!」と思うことが多く、こちらで勝手に親近感を抱いておりました。

今日はこうしてお目にかかることができて本当に嬉しいです。

あらためてホームページを拝見したのですが、イラスト、本の装画のお仕事をすごくたくさん手がけていらっしゃいますね。

 

 

杉田さん:そうなんです。実は絵本の仕事は、イラストや装画の仕事に比べるとずっと少ないんです。

 

東條:赤川次郎、宮部みゆき、東野圭吾・・・そうそうたる顔ぶれの小説家の作品も手がけられています。

今日はそんな杉田比呂美さんに、いろいろなお話を伺ってみたいと思います。

どうぞよろしくお願いします。

 

杉田さん:こちらこそよろしくお願いします。

 

 

◆『12にんのいちにち』(あすなろ書房)の楽しみ方

 

東條:さて早速ですが、今回の受賞作『12にんのいちにち』(あすなろ書房 2014年)について。

こちらの作品は登場人物たちの一日、12にんの朝6時から翌朝6時までのそれぞれの生活を、2時間おきに、12コマに割って見開きページで見せる構成ですね。

下には建物を中心とした街の様子が、切り取って描かれています。

少し変わったかたちの絵本です。「正しい読み方」なんていうものはありますか?

 

杉田さん:いえいえ、読み方は各時ご自由にどうぞ()

一人ずつ、ひとコマずつ追って読んでいただいても、そうでなくとも。いろんな読み方ができると思います。

 

東條:わたしはせっかちな性分なので、最初は登場人物4人ずつ、つまり一度に4コマずつまとめて眺めてはページをめくって読んでみました。

 

杉田さん:じゃあ、3分割ですね?

 

東條:はい。でも結局、読むうちに細かく描かれた絵がいろいろと気になるわ、人物同士のからみ合いや住居の位置関係を「見落としたくない」と思って…結局は何度も行きつ戻りつ読みました。

いまだに全体を把握できていないような気もします()

こうして「読む時間」を長く、何度でも楽しむことのできる絵本ですね。

また私自身、写真でも絵本でも、対象を定点で観察して記録した…絵本の場合〈定点観測絵本〉と呼んでいるのですが()こういったものにとても興味を惹かれることもあり、『12にんのいちにち』は書店でみつけてすぐに買い求めました。

 

杉田さん:わあ、ありがとうございます!

 

 

◆『街のいちにち』(1993年ブロンズ新社)と『12にんのいちにち』(2014年あすなろ書房)

 

東條:2014年に国内で出版された絵本の中から「日本絵本賞」に輝いた『12にんのいちにち』ですが、これはかつて出された『街のいちにち』(1993年 ブロンズ新社)の新装版ですね。

 

 

杉田さん:『街のいちにち』は、わたしの初めての絵本なんです。

それを10年ぶりにリニューアルして内容に変更を加えた作品が12にんのいちにち』です。

デザイナーさんも別の人になっているので、本の大きさ、表紙の絵、色合いなど…だいぶ変わっていると思います。

あとは、『街のいちにち』では人物紹介のページや地図の部分への書き込み以外、中には文章がいっさいなかったのですが、『12にんのいちにち』では、各時刻の部分に文章が添えられています。

 

[あさ6時] おはよう。空があかるくなってきました。これから町を1周しましょう。

    
(左/『街のいちにち』 : 右/『12にんのいちにち』)

 

 

杉田さん:今回は「子どもにもわかりやすく」ということで、説明調にならないように、でも「理解を助けるような一文を入れましょう」ということになったんです。

それからこれ、下の部分に描いた絵は街をぐるっと1周しているんですね。

気づかない人もいると思うのですが、街には曲がり角がいくつもあって…最終的にぐるりと一周して見てもらう形になっているんです。

それをわかってもらおう!ということで、『12にんのいちにち』は最後に出てくる街の地図の中に「START⇒」の印を入れてみました

見開きの12コマの下に、流れる街の風景画がありますが、STARTの地点から始まります

地図上には、川の名前も加えました。橋がいくつも出てくるので、「川にも名前があったほうがいいね」って。

新装版は、「よりわかりやすく」作ってあるんです。

 

 

◆「大人の絵本」

 

東條:1993年の『街のいちにち』は、どういった経緯で作られたのでしょう?

 

杉田さん:当時ブロンズ新社さんで、大人向けの本のイラストの仕事をしていたんです。そのころ「同じ街で、同じ時に、いろんなことをしてる人々の絵本を描きたいな」急に思いつきまして。

雑談か何かの最中に、そのアイデアを編集長さんにお話ししたんじゃなかったかな。

実は『街のいちにち』は、私にとってもそうですが、ブロンズ新社さんにとっても初めての絵本出版だったんです。

そういうわけで、私にとってもブロンズ新社さんにとっても手探りで作り上げた「はじめての作品」となりました。

 

東條:編集部にお話しされて、完成までにどのくらいの時間がかかりましたか?

 

杉田さん:一年半くらいですね。

『街のいちにち』には、もともと「大人の絵本を作ろう」というコンセプトがありました。『12にんのいちにち』とはちょっと立ち位置の違う作品のような気がします。

 

東條:たしかに…文章もなく、文字のスタイルもデザイン的で、裏表紙にはウィスキーのボトルなども描かれていますね。


(左/『街のいちにち』 表紙 : 右/『12にんのいちにち』表紙)



(左/『街のいちにち』 裏表紙 : 右/『12にんのいちにち』裏表紙)

今回『12にんのいちにち』の作品に生まれ変わるにあたって、どのようなご苦労がありましたか?

 

杉田さん:新しく添えることになった文章の「一文」はそうとう考えました。それから細かい部分の変更もちょこちょこありまして…

以前は登場人物のひとりである〈テレビ局のリポーター〉の喫煙シーンが描いているのですが、そのコマは絵を描き直しています。


(『街のいちにち』の喫煙シーン......)


〈『12にんのいちにち』では、こんな風に。)


当時「タバコ」のイメージがちょっと今とは違っていて、働く女性でもわりとタバコを吸う人が多かったんですよね。忙しい時に一息というかんじで。
今はだいぶ風向きが変わったこともあり、さすがにマズイねと(笑)  

〈続く〉