いまでは数少ない「文章のみを書く」タイプの絵本・児童文学作家のおひとり、かんのゆうこさん。
インタビューは、絵本画家さんの描いた原画がそこここに飾られるかんのさんの素敵なご自宅で、飼い猫のミクちゃん(13才)がのんびりと寛ぐ、穏やかで優しい雰囲気の中行われました。
【プロフィール】
かんのゆうこ 絵本・児童文学作家。
1968年、東京都生まれ。東京女学館短期大学文科卒業。
主な絵本に「ふゆねこ」(絵・こみねゆら)をはじめとする「四季ねこ絵本」シリーズ、「はこちゃん」(絵・江頭路子)、「ルララとトーララ クリスマスのプレゼント」(絵・おくはらゆめ)、「星うさぎと月のふね」(絵:田中鮎子)、「光り降る音」(絵:東儀秀樹)(以上全て講談社)他多数。
児童書に「はりねずみのルーチカ」1~2巻(絵:北見葉胡 講談社)、「とびらの向こうに」(絵:みやこしあきこ 岩崎書店)がある。
◆公式HP「銀の本棚」http://www4.plala.or.jp/natural/yuko/
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最初に、かんのさんが書かれた数多くの作品の中から、中でも私(東條)が以前より好きで気になっていた作品をいくつか取り上げお話を伺わせていただくことにしました。
☆『星うさぎと月のふね』(かんのゆうこ文たなか鮎子絵/2003年講談社)
http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=1322818
誕生日の晩にもらった、素敵なマトリョーシカ人形のプレゼント。
一番小さなマトリョーシカに願いをこめて元に戻すとそれが叶うと聞いたリセルは、「月のふねにのって、星の国にいけますように」と願います。なかなか願いの叶わないある日の夜、もう一度マトリョーシカを開けてみると一番小さなお人形はいなくなっていて・・・窓の外には月のふねが。
星の国で「星みがき」の仕事をするうさぎ、みがいた星に戻ってくる天使たちの羽音、月あかりの粉・・・
かんのゆうこさんの紡ぐ、独自性あるモチーフの散りばめられたファンタジーの世界。
【作品を作ろうと思ったきっかけ】
東條:画家のたなか鮎子さん(http://www.sakanaweb.com/profile.html)との共作ですね。
かんのさん:たなかさんの描いた「マツユキソウ」というタイトルの絵が大好きで、この人とぜひ絵本を作ってみたいと思ったので、こちらからコンタクトをとらせていただきました。
たなかさんの絵にはヨーロッパの雰囲気が漂っている。そこがとても好きで・・・カタカナの名前や「天使」が出てくるようなすてきなお話をなんとかして作りたいなあと思って書いたのがこの『星うさぎと月のふね』です。
(※ご自宅リビングには、画家たなか鮎子さんの描かれた幻想的な絵が。)
東條:“先にお話ありき”ではないのですね。
かんのさん:いつもまずは一枚の絵との出会いがあり、「この人と作品を作りたい」と思うところから始まります。
いろんな画家さんが、わたしの世界をすごく広げてくれたように思っています。
そうだ、いいものを見せてさしあげますね。
かんのさん:こちらは画家のたなか鮎子さんが、この作品に出てくるマトリョーシカを実際に作ってプレゼントしてくれたものです。素敵でしょう?
【物語を作っていく過程】
かんのさん:その頃に集めていた「マトリョーシカ」をモチーフに書こうと思いながらいろいろとストリーを温めていた時期で、加えて「星をみがいているウサギがいたら可愛いだろうな」とか、「星の中に天使が入っていたら綺麗だろうな」とか・・・
絵本の場合は、いつもひとつひとつのちっちゃいお話をつなぎ合わせるようにして書くことが多いんです。
「降りてきた」時に一気に書いて、あとでそれを時間かけて整えていくという作業になります。
【企画について】
かんのさん:ほとんどの絵本作家さんと同じように、企画は自ら編集者さんに持ち込みます。それを出版社さんの中で、営業の方も含めた会議にかけていただいて・・・そうして通ったものが出版されます。私の場合、ほぼこの形です。『星うさぎと月のふね』もそういった形で世に出ました。
東條:かんのさんの作品は、テーマがしっかりしていると感じます。だからこそ企画が通るのでは。
かんのさん:そうですかねえ。ありがたいことです。
【物語から感じる“音”】
東條:『星うさぎと月のふね』でもそうですが、かんのさんの作品には様々な“音”や“音楽”が登場します。読者にとってもそれがどんな音なのか想像する楽しみがあります。なにか、音に対するこだわりがおありでしょうか?
かんのさん:以前、〈雅楽の絵本三部作〉
『星月夜の音』 『天つ風の音』 『光り降る音』 (かんのゆうこ文/東儀秀樹絵/講談社)http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2115972 を、東儀秀樹さんと共作させていただいたのですが、そのときにこの雅楽に夢中になったということはありました。
雅楽の中に秘められた、日本人の音に関する感性というものに、たいへん感動しました。
東條:私は雅楽というものがよくわからなくて。そもそも音楽全般に関して自分から積極的に「獲りに行く」ということがない人間です。雅楽・・・難しくないですか?
かんのさん:私も同じで、それまでは音楽全般にそれほど興味がなかったんですよ。
雅楽は「世界最古のオーケストラ」といわれていて、自然の音を模しているものが多いんです。
星や、光や、風の音を。
三部作の中のひとつ『光り降る音』に出てくる「笙」という楽器があるのですが、その音は天から差し込む光を表現しているんです。この作品を東儀さんがオリジナル音楽にされたCDがあるのですが、聴いてみますか?
(♪~)
この“音”というものを、胸に広がる感じを、「私は文章で表現したい」と思ったのがこれらの作品作りのきっかけです。
私は雅楽を知って、初めて「日本の文化、日本は素晴らしいな」と思えたんです。
この作品を読んだ子どもたちが、自分たちの国の文化に誇りをもってくれたらいいなあと思いながら書きました。
【昔話から感じとる“普遍的なテーマ”】
東條:『星うさぎ・・・』は“行きて帰りし物語”ですね。
かんのさん:昔話や伝説、神話からインスピレーションを受けることがとても多くあります。
新しいものを追っていくとキリがなく、途方に暮れてしまうことがあります。人間が物語始めた初期の頃に戻って・・・古きものから学ぶことはたいへん多いと感じています。
昔話にはいつまでも本当に変わらない普遍のテーマが書かれている。ここに立ちかえってみることで、創作の泉が尽きることはないように思えるんです。
私が一番影響を受けているのは、おそらく昔話の世界ですね。
【プラネタリウム】
東條:『星うさぎと月のふね』はプラネタリウムでも投影されたのですよね。この絵本が好きなうちの息子は「なんで教えてくれなかったんだよう」と不満げでした(笑)
かんのさん:2004年のことですから。当時息子さんは・・・まだ1歳?(笑)
今年もまた投影のお話をいただいていますが、地方のプラネタリウム館が多いみたいです。
私は日立市にあるプラネタリウム館で見させていただいたのですが、プロの声優さんが朗読してくれて、きれいな効果音をつけてくださって。
今やCGを駆使したプログラムが大勢を占める中、それに比較するとアナログな(笑)絵本の世界へファーっと入っていけるような雰囲気がとても素敵でした。」
(かんのゆうこさんインタビュー②へ続く)