『僕らの絵本』

東條:イベントの後半は、こちらで用意させていただいた質問をいくつか投げさせていただきながら進めてまいります。ではさっそく。(画用紙に書かれたカンペを見せる。)

【皆さんはなぜ、何のために作品を作るのですか?】これは絵本に限らず・・西浦さんには音楽についてぜひ伺わせてください。なかえ先生からお願いします。




西野:聞きたいですねえ、先生の理由。




なかえ:これは逆に言うと、「作らないでいられるか?」ってことだと思うんですよね。意味無いんですよ・・自分で「作らないでいたらどうなるか」ってことを思うとね。作っていれば生きていられる、みたいなところがあって。理由は無いですよね、こういう世界は。「そこに山があるから」っていうようなことで。だから・・理由を言いだす人は、ちょっと嘘くさい。




西野:・・・もうしゃべれないですね。危ない、危ない。先に聞かれてたら僕、理由言ってしまうとこでしたよ。「それはねえ」なんてカッコつけて言うとこでしたよ、今!ああ、よかった。先生が先で。()



(会場 笑)




東條:でもまあ、一応、念のために伺いましょう。「何のために作っているのかな」、「こういうことのために創っているのかもしれないな」というものがございましたら・・西野さん、お願いします。




西野:理由を言う奴は嘘くさいって言われた後で!?()まあでも、自分が見たいやつは作りたいですよね。で、世にないやつ。絵本でも・・・




なかえ:他人にやられたら(作られたら)イヤなやつ。




西野:そう。他人にやられたらイヤなやつ、です!それはね、漫才でもそうなんですよ。もうね・・漫才の話になってしまったら絵本と関係なくて申し訳ないんですけど。




東條:いえ、創作という点では共通ですから。




西野:例えば・・キングコング というコンビの漫才はえらいテンポが速くてですね、最初それはすごいバッシング受けたんです。でもこれが非常にテレビに向いていて。要はボケ数が短い尺の中にいっぱい入れられる。結果的には非常にテレビ向きやったんです。でも、じゃあ・・ってみんながそれをやった瞬間にね、いやんなったんですよ。自分がやんなくても(他人が)やってるし。もうそういう漫才作るのがいやになって。あるモノはもう作る気が・・・たとえそれで飯が食えようが、あるモノを作るのはもういやなんですよ。


『僕らの絵本』


西浦:そんなことで時間使いたくないってのはありますよね。






西野:だからってヘンテコな漫才作ったりしたら、ゲーっていうくらいスベったりするんですけど。




(会場 笑)




西野:でも僕は、今は無くて「こんなの見たいな」っていうものについては、結局自分がやらんと誰も作ってくれないから・・これは作りにかかるぞ!っていうことがありますね。先生なんかもそうじゃないかと思うんですけど、読者の方にあんまり免疫がないというか、誰も見たことのないものをバーって見せた時なんかは、意外と反応悪かったりしないですか?

もうちょっとみんなが安心できる、みんなが構えてる「このくらいのトコ、来てくださいよー」のど真ん中か、ちょっと外れたくらいのものは結構受け入れてもらえるんですけど。まったく外れたとこにドーンと、「これどう?これはみんな全然知らんでしょう?」って言ったときには・・どうですか?音楽でも、そうじゃないかと思うんですけど。




西浦:そうですね。






西野:「びっくりされる」で終わってしまって。あれ?今僕すっごいことやったのに・・ってことはないですか?




西浦:常に考えますよね。ホンマはめっちゃ変なことしたいんですけど、かといってやっぱり第三者からの評価がないと・・・




西野:それはホントに、お客さんあってのものですからねえ。




西浦:そこのせめぎ合いっていうか。かといって、じゃあ妥協していいのか?ってとこもあるじゃないですか。




西野:はい、はい。




東條:なかえ先生はずいぶん前から「マイナーにこそ真実がある」、「多数派はダメだ!」とおっしゃっていますね。西浦さんは、〈誰でもエスパー 〉という名前のバンドに参加されているのですが、・・・




西野:むっちゃいい名前ですね、それ!




西浦:あまり活動できてないんですけど。()




東條:誰でもエスパーのライブにおじゃました時に、曲間のMCで「僕らは誰からも理解されなくてもいい、なんて考えてるわけじゃないんです」っていう(唐突な)言葉があったんです。これは、むしろ・・誰もやらなかったことをこれからやろうとしているってことなのかな・・といういう印象を、私は抱いたんですけれども。




西野:(無いものを)見たいですよね!




西浦:そうなんですよね。誰かがやってるものをやっても、しゃあないなって。




西野:(そういうことに)時間使いたくないなって。




西浦:もちろんそういう美学もありますし、そっち(多数派)に憧れるっていうのも・・無きにしもあらずなんですが。()




西野:つまるところね、お客さんの需要ってものがあるじゃないですか。そこに合わせに行く才能が無いから。わかんないですけど・・もし自分が「みんなこれ好きでしょう?」ってとこにズバーンと合わせられて、その絵本が世界で10億冊売れるっていうくらいの能力があったら、僕それ、してると思うんですよ。それはそれで圧倒的だし。秋元康 さんとかみたいに、狙いに行って獲るみたいな。それはそれでかっこいいなと思うんですよ。

でも僕にはそれ、無いよなあと思って。合わせに行ったら多分、なんとか当たり障りなく飯食えるくらいの結果で終わっちゃうなと思って。どうせ無いんだったら・・・。

僕ね、一冊目の絵本 出すときに「売れない」って言われたんです。要はページ数が多いわ、あんな描き込みだわで。「絵本わかってる?子どもが見るものだよ」って。値段も2500円で、「なんの結果も出してへん男が2500円の絵本出して売れるかい!」みたいなことも言われたんですけど・・これをやってね、ギャフンて言わしたいんですよね。

「何のために作ってるか」って言われたら・・これ、(質問の答えに)繋がるかどうかわかんないんですけど・・作るんだったら、せっかくだったら誰も見たことのないやつに時間使いたいなあっていうのはありますね。



『僕らの絵本』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(記録⑩へ続く。)