西野:(会場に絵本『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス 』(※15.)の画像が映し出されるのを指す。)

これは、僕の2冊目の絵本ですね。

(※15.)


『僕らの絵本』


西浦:読ませてもらいました。ちょっと、リアルに泣きそうになりました。


なかえ:よくできていますよね。


西野:ありがとうございます。


なかえ:絵がすごいんですよ。見た?


『僕らの絵本』
(『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』より)


西浦:びっくりしました。細かいですよねえ。


西野:0.03ミリのペンで描きました。


西浦:これはやっぱり、試行錯誤を重ねた上で0.03ミリのペンを?


西野:いろいろ考えたんですけど・・・、まず何年か前に絵本を本当に出そうと思った時に、「絵本作家さん」は既にいらっしゃるな、と・・・僕はお笑い芸人で、絵の勉強はしたことがない。いわゆる美術大学みたいなとこへも行ったことがない。このお笑い芸人が絵本を出すときに、絵の技術もないし、どうやったら勝てるんだろうと思ったんです。絵本作家さんに対して。


で、やるからには勝ちに行かないといけない。絵本作家さんをギャフンといわせないといけないと思ったんです。思った時に、僕は絵本を書くという活動を生業としていない、別の食いぶちがある。絵本作家さんはこれを生業としてご飯を食べている。そうするとけっこうな頻度で本を出さなきゃ・・短いスパンで出さないと成り立たないだろう。僕は、10年に1冊でもいいんだと思ったんです、極端な話。それは、副業でやる人の利点だなあと思って。


だったら時間がかかる絵本を作ろうと思ったんです。作るのに時間がかかるものを。あとはもう、文房具屋さんへ行って「とにかく一番細いペンをくれ」と。これがおっきい筆でシャシャシャッと描ける絵だったら、もっとすごい人がいるわけですから。1ページに1か月かかって、1冊描くのに何年もかかるやつを作ろう、と。


テーマとしてまず「時間がかかるもの」を作ったら、ちょっと抜きん出ることができるんじゃないかなあと。そう思ったんです。



『僕らの絵本』


西浦:もともと絵を描くのは好きでいらっしゃったんですか?


西野:いや、それはないですよ。イタズラ書きしてた程度で。時間あったら絵かいてたかっていったらそうでもなくてですね。ほんとに1冊目の絵本を描く時から「せーの」で「ドン!」で向き合って・・・。


西浦:僕も(西野さんの絵本作家としての顔は)全然存じ上げてなくて、この絵を見た時に、誇張ではなくてホントに度肝を抜かれたというか・・・本当に素晴らしいですね。


西野:ありがとうございます!

(会場に絵本『オルゴールワールド 』(※16.)画像が映し出される。)

(※16.)


『僕らの絵本』

西野:すごい時間かかったんですよ。・・・でも、お話(を書くこと)の方が好きですね、絵を描くより。これも、お話を届けるために絵を描くんです。お話だけやったら見てもらえないんで。お話の方が好きですねえ、どっちかっていうと。


なかえ:お話と絵を一人で書かれるからね。普通絵本をやっている人は、作家が文章を書いて絵描きに渡すわけですよね。その文章を見て(絵描きが)描く。


でもこれ(西野さんの作品)は、文章だけ読んでも絶対にあの絵にはならないでしょう。本人が両方やってるから、絵のことは文章で書いてないわけです。もしこの文章をもらった絵描きがいたとしても、全然違う絵に・・・


西野:なるほど~。あのさっきの『桃太郎』みたいなことになる可能性もあるかもしれないわけですね。

(会場 笑)


『僕らの絵本』


なかえ:だから絵と文章が両方うまく、ね。広告ってそうなんですよ。


西野:先生はもともと・・・一番最初は絵本作家ではないんですか?


なかえ:最初は広告デザイナーをやっていたんです。そのときに、「広告は絵とコピーの結婚である」というのを聞いていて。要するに、絵だけ見てもわかんないしコピーだけ見てもわかんない。両方同時に見たらわかるっていうのが理想なわけです。


西野・西浦:なるほど~。


なかえ:だからこれ(西野さんの作品)は、すごい理想的。


西野:なるほど、先生は元々の出がそこ(広告デザイナー)だから・・・言わば広告も、届かなきゃ意味がないですもんね。伝わんなきゃ意味がない。そこにやっぱりルーツがあるのかもしれないですねえ。


西浦:あと、西野さんの絵とか見てると・・・僕はちっちゃい頃から、そこ(絵)から妄想を広げるのが好きな子どもだったんですけど、あの絵はとにかく情報量がすごい。左側にある文章だけのものじゃないっていうか。文章以外のこともいっぱい情報がつまってるのがすごい楽しくて。それがまた面白いなあって。


『僕らの絵本』


東條:西野さんの作品に関しては、物語の中にいる人物や鳥の声、風や様々なものたちが「動き出しそう」とか「音が聴こえてくるようだ」「匂い、香りを感じる」という感想も多く聞かれますね。


西野:ありがとうございます。(『オルゴールワールド』を開いて見せながら。)たとえば、この絵なんかはお話に関係ないのが二人くらい居るんですけど、一応ね、コイツはこんなやつで・・みたいな話も作るんですよ。


西浦:へえ・・・提示はしないけど、ご自分の中にはあるということですね。


西野:セリフもなんも言うてないんです。別に、そこにたいした話があるわけではないんですけど。でも、「コイツは子どもん時こうで、」「・・今こういう仕事をしている」とか。主人公とは全然関係なくてセリフも言ってない、この後ろに居るエキストラの人の話も一応作るんです。そうすると結構思い入れが出てきてですね、描くときに。


西浦:よく作家さんがおっしゃる、キャラが一人立ちしていく・・みたいな感があると。


なかえ:だからこれ、もし作家の人が文章を渡して(絵描きから)こういう絵が返ってきたら・・・作家は怒りますよね。「こんなことは言ってない!」って。両方自分でやるから、すごい理想的ですよね。


西野:いや、ホント言うたらですよ、僕は誰かにやって(描いて)もらいたいんです。誰かいたら・・・。だから先生(と上野紀子先生)のご関係がすごい羨ましくて。そこには絶対の信頼があるわけですよね。先生が書いてお話を作られて、で、渡されて。「こんなん全然ちゃうで!」っていうことはないってことですよね。


なかえ:あんまり考えたことない。()


西野:どこまで渡されるんですか?〈お話〉をまず渡されるじゃないですか。「こんなかんじの」ってラフ画みたいなのを描かれるんですか?


なかえ:主人公とバック(の絵)の、位置関係を示します。


西野:ああ、なるほど。それでわかるんですね。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(記録⑦へ続く。)