『僕らの絵本』


なかえ:『ねずみくんのチョッキ 』が今年40周年です。


西野:40周年ですか!(会場の)みなさんもきっと見てこられましたよね。僕も子どもの頃絶対に見てますから。


西浦:(『ねずみくんのチョッキ』が)出た時に生まれた人が、もう40歳になってるんですね。


西野:西浦さんも、絵本がお好きというか・・アレなんですか?まあでも、『ねずみくんのチョッキ』は読みましたよね。


西浦:ぶっちゃけますと、僕は絵本には慣れ親しんでは来たんですけど、最近あんまり読んでないんです。ここでまずちょっと、お客さんに冷たい目で見られるという気が・・・

(会場 笑)


西浦:聞き手の東條さんと元々知り合いでして、twitterでなかえ先生の『ねずみくんのチョッキ』のことをたまたまつぶやいたのを東條さんが拾ってくださいまして。


東條:はい。すぐさま「今なんとおっしゃいました?」と食いつきました。()


西浦:で、おそらく(このイベントの企画段階で)異業種同士のカチコミ合いみたいなものを求められていたみたいなので、そういった流れで僕はお呼ばれしたんですけど・・・多分誰も僕のことご存じないと思うんです。だから今日は自己紹介の紙を(お客様の)座席の上に置かせてもらいました。よかったら、あの・・持ち帰ってもらえたらと。くれぐれも、帰りに捨てないでいただきたい。悲しいので。

(会場 笑)


『僕らの絵本』


西野:先生の方はどうなんですか?最近の絵本はご覧になられたりしているんですか?他人の作品は。


なかえ:他人の絵本?ほとんど見ないですね。


西浦:それは、前からっていうことですか?


なかえ:そうですね。見ると腹が立つんです。()


西野:どういうことで腹が立つんですか?やきもちを焼くっていう方なんですか、それとも「なんていうクオリティのもん出してんだ」の方・・・


なかえ:「こんなのをよく出せるなあ」の方。(笑)


『僕らの絵本』

(会場 笑)


西浦:冒頭からこんなにヒリついてて大丈夫ですか?()


『僕らの絵本』


西野:いや~、面白い!()失礼ですけど、先生は今おいくつですか?

『僕らの絵本』


なかえ:生まれてから第二次大戦があったからね。()


西野:それで今でも絵本を見たときに、「ようこんなん出せるなあ」っていう(お気持ちになられるんですね)・・・


なかえ:(足元に置かれたカバンの中を探りつつ。)絵本はね・・・ちょっといいですか、お見せしても?


西野:まさか、絵本出して悪口言うんちゃうでしょうね?「この絵本、クソだ!」みたいなのやめてくださいよ。平和にいきましょうね、なるべく。

(会場 笑)


なかえ:僕の育ってきた絵本と、今売れてる絵本がね、


西野:違うっていうお話ですか?


なかえ:(絵本をニ冊取り出して見せる。)この『桃太郎』(※3. は復刻版ですけど、これだと今売れないんですよ。いま売れてるのは、コレ。(※スーパーなどでも売られる、回転棚に多くのタイトルが置かれている300円絵本を示す。)

(※3.)
『僕らの絵本』


西野・西浦:ああ、なるほどなるほど。

なかえ:わかるでしょう?中を見なくても。


西野:恐れていたことが目の前で起こっていますね、今。例を出して悪口を言ってるってことですね!

(会場 笑)


西野:こういうのじゃあない、と。

なかえ:これはこれで別に「悪い」とは言わないですけど。


西野:いや、嘘でしょう!?ちょっとやめてください、先生。もう取り返せないですよ!そこそこトガッてるなっていうのはもうばれてますから。

(会場 笑)


なかえ:こっちの『桃太郎』(※3. は子どもの本だけど、日本画の大家が、偉い人が描いてるわけ。中なんか見るとね、ほら、シュールレアリズム。でもコレは・・・シュールじゃない。


西野:やめないさいって。(一方の絵本を)オチで使うのやめてくださいよ!

(会場 笑)


『僕らの絵本』



なかえ:コレはコレで喜ばれているわけだけど。


西野:今のお子様が手に取るのは、こっちじゃなくてコレだと。


なかえ:みんな知らなさすぎるわけ。わかっていてコレを見るならいいんだけど、コレしか見てないと、こういう世界 を全然知らないまま大人になってしまう。

西浦:ちなみにこの『桃太郎』(※3. はいつくらいの物なんですか?


なかえ:ちょうど僕の生まれた頃かなあ?(※『桃太郎』(講談社)は1935年の刊行。)


西浦:それが、いつからこんな嘆かわしいことに・・・


なかえ:嘆かわしくはないですよ。()今はこういう時代だなあと思ってるだけで。「こういう時代もあったんだよ」っていうこと。ただ、こういう絵で育っちゃうと・・絵を描く人も、描けなくなっちゃうと思うんです。

西野:なるほど。


なかえ:西野さんは細かい絵を描かれるけど、ああいう細かい絵をね(絵描きが描けなくなっちゃうと思う)。楽な方がいいと思っちゃうだろうから。


西野:なるほど。でも、コレは・・・先生、桃太郎の中でもけっこうひどい桃太郎持ってきたんちゃいます?()一番ひどいの選んできたでしょう、コレ。


(会場 笑)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(③へ続く。)