※対談記録の中では、発言者の氏名を省略させていただきます。[天沼春樹さん⇒天 北見葉胡さん⇒北 東條⇒と]
『リトル・レトロ・トラム』 天沼春樹(作)北見葉胡(絵) 理論社刊
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(※記録⑤の続き)
と「そういえば先日おふたりで、ちょっとしたたくらみの表情を浮かべられながら「(イベントで)ドアの話をしましょうか?」とおっしゃっていましたが。」
北「うふふ、ドアの話。」
と「北見先生の作品には、「ドアを前に女の子がいる」といった場面をみかけます。そのドアを開けるシーンなどが印象深いのですが。」
北「そうですよね。私自身ドアのシーンは好きですし、ドアの絵を描くことも好きなんですけど・・・この『リトル・レトロ・トラム』(※画像4)で私は、ドアノブを描き忘れてしまったんです(笑)」
と「えっ、ドアノブが無い?」
北「はい、そうなんです。それで・・・描き忘れたまま印刷の段階に入ってしまっておりまして。元々〈ドアノブをにぎったら ひんやりと冷たかった〉という文章があったのですが・・・完成品にはないんです。その文章。印刷段階に入ってしまってから(ドアノブを描き忘れたことに)気づいたので、慌てて天沼さんに連絡して相談したんです。「どうしましょうか」って。」
天「文章なら、まだ削れる段階だったから・・・」
(会場 笑)
北「で、天沼さんはすごく美しい(文章)表現に変えてくださって。私はなんとかドアの部分の絵を修正しようと思ったんですけど・・・」
と「この部分の文章は、〈ドアを開けようとすると、ドアノブが消えています〉となっていますね。」(※画像7)
天「ナイスフォロー!!」
(会場 笑)
北「〈開けることもできません〉という風に、文章をまったく変えていただいて。私、もう平謝りをしたんですけれど、天沼さんは「いや、これが本来の姿だ」とおっしゃってくださって。」
天「『リトル・レトロ・トラム』の中で、女の子はこの「町」に二度来ているんですが(※画像8:最初の訪問を描いた絵)、二度目はまったく人に会えないんですね。つまり時間が・・この町では閉ざされていて、家の中にも入れない。家の中に入るにはドアノブを回さなきゃいけないんだけど、もう、はじめから入れないんだからドアノブがないってのがイイんじゃない?と言ったんです。後付けですけどね(笑)」
北「すみません、ほんとに。」
と「絵からドアノブが消えていたことが、却って良かったのですね。」
天「そう。(北見さんの)無意識の中にそういう意識があったんじゃないですか?(笑)」
北「・・・あ、ありました!わたし、天沼さんの(修正後の)文章が見えていたのかもしれない(笑)」
(会場 笑)
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天「今の話の骨頂は、【絵から立ち上がる物語】。・・・大竹茂夫さんとの作品の場合(『アリストピア』※画像5)なんかもそうですよ。」
と「こちら(『アリストピア』)は、『不思議の国のアリス』へのオマージュといった作品でしょうか。」
天「そうです。青木画廊さんでいつも絵をみていて、大竹茂夫さんの絵のフィルムをずっと見せてもらったら、あらゆる世界にひとりの女の子が出没するといった絵なんです、みんな。「これ、大竹さんの「アリス」じゃない?」と思って、・・アリスの国・・・「アリストピア」という造語を作って組み立てたナンセンスな話がこれなんですよね。だから大竹さんの絵の力で、6刷までいってるんですね。作者として謙虚に言いますと(笑)
作品は1年や2年で終わるものではなく、マニアの人たちがすごく支えてくれているんですね。・・・少しいいお話をしようかな。」
と「ぜひお願いします。」
天「わたし、中央大学でも教えているんですが、ある時一年生のドイツ語の授業の終わりに、女の子が「先生って天沼春樹ですよね」って言ってきたんです。「村上春樹じゃなくてわるかったな」って。」
(会場 笑)
天「「わたし、高校生の時に大好きな絵本を、同じもの3冊買って持っているんですけど、その作者の名前が「天沼春樹」なんです。先生の名前と一緒なんですけど、同じ人なんですか?」って。当り前だ!俺なんだから(笑)」
(会場 笑)
天「「サインしてくださーい!」って持ってきてね。1冊1,400円もするのに高校生で買ってくれたの?って言って。・・・嬉しいですよねえ。それまでは「先生ポッキー食べる?」なんて馴れ馴れしかった女の子が、それからはちょっと距離が・・・」
と「それは、改めて尊敬したのでしょうね。」
天「それから数年後に、中古市場でまた絵本を買ってくれたみたいで。「いくらだった?」と聞いてみたら「100円」って言われて(笑)」
(会場 笑)
天「そういうこともあるからね、作品は、長生きしてくれるといいですよねえ。」
北「そうですねえ。」
(※記録⑦に続く。)