写真は

小さな庭の入り口に咲く

ノイバラ『雅』





故・鈴木省三氏は


一万を超えるバラの品種の中で
今、何を求めているかと聞かれれば
迷わずノイバラ(Rosa multiflora)と答えたい

ノイバラは春2月からいちばん早く芽が萌え出て
春寒むの低温に堪え、
3月に入ると完全に2センチの長さに萌芽する。
剛毛みたいな繊毛が芽を覆っていてゴツイが、
やがて細かい、やわらかな綿毛のうぶ毛で覆われた
初葉が伸びてきて、バラの春となる。

しかしグングン伸びる明るいグリーンの茎に
集団の小粒の蕾が頭をもたげてきても、
花のいろづくのはゆっくりで
萼にも繊毛がソバカスのようであり、可愛い
また、白色の花がその萼片の間から顔を出し
開くときの楽しさ、可愛さ。その花の集まりは、
運動会で純白のスポーツ服を着た子どもたちの
チャーミングなマスゲームである

開いた花びらは厚みのある真っ白い壁のようで
あらゆる色を反射するが
2日目からはだんだん白さが透いて見え
ついには透きとおった白になる。
その間の甘い芳香は、中心の雄しべの黄色とともに幽玄の夢を誘う

結実して秋の空を撃つその実は緑に、青に、
やがて黄ばんでオレンジ色となり宝石の紅色となり
熟紅色となって晩秋、初冬を迎え、
葉を枯らして落としても、
実はつぶらつぶらに光って冬を越そうとする

このノイバラこそ、バラの中のバラであると思う。

「ノイバラが咲いている ノイバラがさいている
僕の好きな ノイバラが咲いている」


『Mr.Rose 鈴木省三~僕のバラが咲いている』

野村和子監修成星出版

より