日付変わって、月曜日。



深夜0時17分



真っ暗な部屋の中で、僕は考えていた。



今、とんでもない睡魔が襲っているこの時間。

風呂も入って髪を乾かし、スラックスにアイロンをかけて歯磨きもした。



書類も完璧に準備完了。



ただ、このまま眠ってしまえば、次に意識を取り戻すのは月曜日の朝。


また歯を磨いて、顔を洗って、着替え。毛先にちょっとだけワックスをつけて

今夜飲んだコーヒーの残りをぐいっと飲み干して、家を出る。



一週間が始まるのだ。




わかる、わかってしまっているのだ。




そう、わかってしまっているだけに、僕は月曜日を構え、このなんとも言いようのない憂鬱な気分に陥る。






来週の今の時間も、おそらく僕は同じところで、同じことを考えているのだろう。




仕事の内容じゃない。そうじゃなくて、人生が全体的にルーティーンワークなのだ。







そんな日々から抜け出したいと思ったことは?






あります。ありますとも。





じゃあ思うようにやればいいじゃない。

明日から、出社拒否をして、そのまま自由を掴めばいいじゃない。




とてもシンプルで、イージーなこと。

自由を掴むためには、何のスキルもいらない。センスもいらない。


ただ、「やめます」というだけの口が顔にくっついているやつなら誰でも掴み取れる。




わかっているなら、そうすればいいじゃない。





ノンノン。僕は知っているんだ。気付いてしまったんだ。この一年半で。





世の中は甘くないって言うことを。



先のことを考えられないやつが、ペタペタと負け組みのレッテルを貼られてしまうことを。




そして、一度負けたやつは、たいそうな確率で、勝ち組に戻ってこれないシステムになっていることを。






幸い、今現段階で僕は、そういう人たちから見れば「勝ち組」の席に座っている。



自由を掴むってだけのことに対し、支払われる代償はあまりにも大きい。





そんなハイリスクな行動を僕がとれるわけがない。




じっと、じっと、耐えるんだ。



決められた時間に起きなくてよいということが、どんなに魅力的に思えても



クライアントから怒られることも、上司から怒られることも



失敗したら会社に大きな損益を与えるような業務をするプレッシャーがないことが

どれだけ幸せそうに見えても





「正社員」「安定」「世間体」


これが揃っているということが、それだけが、自由の誘惑を振りほどく栄養ドリンクなのだ。







自由は、恐怖。求めれば、さっきの3つを失う。



それは、恐怖。


「自由」という死神は、まるで天使が笑顔で手招きをするように、

意志の弱いもの、深く考えないものを連れて行ってしまう。






なんと単純なシステムだろうか。




僕は、絶対に死神には負けない。









しかし




しかし、だ。





その死神を作ったのも、システムを作ったのもまた、自分たちであるということも僕は知っている。






よくできたシステム。いくらでも悪用できる。


経営者は、僕たちが死神から逃げ回って生きていることを知っている。



だから、足元を見られる。

「正社員」「安定」「世間体」を人質にとり、

会社のすき放題に働かせる。そして、僕らに感謝しろといっている。



とんだサディストだ。











そして僕はいつもこう思う。


「いつか絶対本物の自由を手に入れるんだ



だけど、明日も早いし、今日は寝ようか。」 って。