この話でおおまかな設定は分かると思います。

本当は最後まで正体が分からない不思議な話にしたかったんですが・・・。

私の力量では無理でした。




桜幻想 【中編】




「遅くなってしまったな・・・。」


蓮は家に向かう途中で空に浮かぶ月を見上げてそう呟く。

明日の準備などを済ませていたら思いの外時間がかかってしまい、今の時間になってしまったのだった。

月明かりと街灯に照らされた道を歩いていると桜の木が見えてくる。

それを見た途端何故か胸騒ぎがして、気付くとそちらに向かって歩き出していた。


夜の桜は昼とは全く異なった様相をしていた。

妖しい美しさで人が近づくのを拒んでいるように見えて彼は少し歩調を緩める。

だが、根元にいる人影を見て再び早足になった。


「こんばんは、最上さん。夜桜見物かい?」


そこには昼間とは違い着物を着ているキョーコがいた。

淡いピンク色の着物は膝丈くらいの長さしかなく、普通とは違っていたが彼女にはよく似合っている。

その姿に目を細めながら話しかけた彼は近づくにつれ表情を変えた。


「怪我してるじゃないかっ!!止血するから見せて!!」


遠目には分からなかったが、彼女は左肩から腕にかけて血を流していた。

何か鋭いもので深く切り裂かれたようで、溢れる血が地面に染み込んでいく。

慌てて腕をとろうとすると彼女は首を横にふりながら引っ込める。


「大丈夫です・・・この程度の傷なら時間が経てば直りますから・・・。」


青白い顔でそんなことを言う彼女に。


「大丈夫かどうか判断するのは君じゃなくて医者の俺だ!!早く見せてっ!!!」


蓮は真剣な表情で怒鳴っていた。

その剣幕に目を瞬かせた彼女は、不思議そうに見上げていたのだが。

彼が尚も腕をとろうとするとそっと両腕を動かした。


「・・・そうですね・・・敦賀さんはお医者様でしたね。

なら、早く治すために協力していただけませんか・・・。」


そう言う彼女の瞳が琥珀色に光るのを見た彼は、金縛りにあったように身動きできなくなった。

その彼にゆっくりと近づくと首元に腕を回し顔を寄せて噛み付く。

しばらくして離れた彼女の唇は、紅を引いたように赤く染まっていた。


「君は・・・一体何者なんだ?」


動けるようになった彼は、戸惑いの表情を浮かべて呟いた。

あれほど酷かった傷が綺麗に消えた腕を見つめたままで。

そんな彼に微笑みかけてから、彼女は背を向けて桜を見上げる。


「ねえ、敦賀さん・・・あまりコッチ側に来ない方がいいですよ?

踏み込みすぎると後戻り出来なくなりますから・・・ね。

・・・これから先も光の中で生きていたいと思われるのでしたら・・・。」


表情は見えないがどことなく寂しげなキョーコの様子を気にかけながら。

言葉の意味が分からず聞き返そうとすると、風が吹いて花びらが視界を覆う。

ようやく治まった頃にはキョーコの姿は消えており・・・。

蓮は残された言葉の意味を考えながら帰路に就いたのだった。




つづく




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