備忘録                             このブログは転載自由です

2014年以降、ウクライナ国内のロシア人1万数千人を無差別に虐殺したウクライナも悪いが、ウクライナも含めた周辺国のロシアへの恐怖を解消しなかったロシアも悪い。しかし、最も悪いのは2014年に「クーデター」でロシア人大統領を失脚させた米国のネオコンと軍産複合体。即時停戦を!!
神ならぬ人間の言説は全て暫定的なもの従って、随時更新しなければならないので永遠に工事中!
(2024年2月18日) 

 

 

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備忘録 (2024年2月18日)

 

 

★★「佐藤優クロ現問題」でNHKに批判相次ぐ―世論分断工作に加担?ウクライナ取材のジャーナリストが解説


 

theLetter:2024年2月11日
「佐藤優クロ現問題」でNHKに批判相次ぐ―世論分断工作に加担?ウクライナ取材のジャーナリストが解説
志葉玲 

 

<要約とコメント

 

志葉玲氏は、NHKが佐藤優氏の親ロシア的な内容のインタビューを放送して、プーチン大統領のプロパガンダを手助けしたとしてNHKを批判し、佐藤優氏の主張を下記のように要約した。


・ロシアを一方的に“悪魔化”するのではなく、その内在的論理(相手が物事を判断するにあたって何を重要視しているかという価値観や信念の体系や、背景についての見解)を把握すべき。

・ウクライナをめぐる問題は、同国東部に住む、ロシア語を話し「アイデンティティーとしてロシア人の要素が強い」という人々の処遇をめぐるものであり、最初は地域紛争だった。

・停戦はロシアが占領している地域を認めることにはならない。とにかく銃を置いて、そのあと、外交交渉で問題を解決していくべき。

★先の大戦で日本人は、大本営発表をそのまま検証する事無く、報道していたマスメディアに騙され続け、最終的には沖縄に米軍が上陸して、沖縄県民の4人に1人が死ぬ事態を引き起こした。更に、広島・長崎に原爆を落とされ、日本中のほとんどの都市が灰燼と化して、軍民で310万人(戦死230万人、民間人犠牲者80万人)もの犠牲者を出した。


(この310万人には、管理人の爆撃死した祖父と、戦死した祖父の兄弟2名の合計3名も含まれているので、このブログには無意識的な反米バイアスがあるかもしれない)

 

戦前、虚偽報道をして国民を騙し続けたマスメディアは、戦後、国民に謝罪して実に立派な新聞倫理綱領を掲げた。しかし、原発推進報道やジャニーズ問題を隠蔽し続けたことでも明らかなように、戦前の隠蔽体質は戦後も全く変わっていない。むしろ、真実を報道していると胸を張りながらウソ報道を行っているので、戦前のマスメディアよりも悪質になったと言う他ない。これは、全ての国家でも起きていて、真の民主国家はゼロである。

 

★NHKがロシア側の主張を部分的に紹介した佐藤氏のインタビューを報道したのは、むしろ多様な意見を報道すべき公共放送の責務だ。なぜなら、日本人はウクライナ側の主張、西側の報道だけでなく、ロシア側の主張も正確に知るべきだからだ。

 

両者の主張を聞くことで、より客観的な判断、より適切な判断ができる可能性が高まるのは自明であり、それをプーチン大統領のプロパガンダに加担したと批判する志葉氏は、事実上、敵側の主張を報道しなかった戦前のNHKの方が良かったと言っているのと同じだ。

 

●志葉氏は、佐藤氏の最大の欠陥はウクライナ侵攻における客観的事実を、ロシアの内在的論理にすり替えて論理展開している点だと言う。具体的には、ウクライナ東部のロシア民族の評価や、「最初は地域紛争だった」との部分が客観的事実ではなく、ロシア擁護の発言と言う。

 

そして、志葉氏は、プーチン大統領が迫害されている東部のロシア人を救うために侵攻したと言っているが、東部のロシア人を苦境に追いやったのは、むしろプーチン大統領自身だと言い、ドンバス戦争で2度避難した女性の例を紹介する。

 

★残念ながら、志葉氏は東大の松里公孝教授が命懸けの調査で書き上げた労作「ウクライナ動乱」(ちくま書房新書)を読んでいないらしい。この松里教授の労作を読んでいれば、ロシアも悪いが、ウクライナにも責任があり、最も悪いのは謀略で両民族の対立を煽ったアメリカと分かるはずだ。

 

カントに由来する「民主的平和論」を信奉している日本のリベラル派のジャーナリストは、アフガン戦争やシリア内戦でも間違った解説をしてきたことは、彼らが好意的に報道してきたシリアの反アサド政権派や、アフガンのガニ政権は民衆の支持を得ていなかったために敗北したことでも明らかだ。民主国家も、資本家が支配する階級国家なので好戦的で残虐であることは、医薬品まで禁輸してイラク人の子ども50万人以上を病死させたアメリカなどのNATO諸国を見れば明らかだ。

 

志葉氏は、佐藤氏が一定の恣意的な「物語」を前提に、この戦争を解釈していると批判している。しかし、客観的事実を軽視しているのは志葉氏と思われるが、もう少し、志葉氏の意見を聞く


●ウクライナ東部のロシア民族については、ウクライナ国営通信「ウクルインフォルム」の日本語版編集者の平野高志氏は、ロシアが用いる侵略正当化の物語と言って切り捨てるが、この平野氏の意見を志葉氏も支持する。

 

また、ウクライナ東部のロシア語話者(ロシア民族)についても、実際にはほとんどのウクライナ人がウクライナ語とロシア語を話せるとし、世論調査を根拠にロシア語話者がウクライナよりロシアに帰属意識が強いとは言えないと言う。

 

★志葉氏は、平野高志氏の世論調査と現地取材を根拠に、佐藤氏は客観的事実を軽視していると言う。しかし、親ロシア派が支配している地域や、ロシアに避難している200万人以上のロシア民族は、この世論調査の対象外だった。

 

2022年2月の侵攻後の世論調査なので、この世論調査を根拠にした佐藤氏批判は成立しない。なぜなら、2014年以降、キエフ政権の支配地域では、様々な反ロシアプロパガンダが行われてきたからで、その最たるものが2014年の謀略的「クーデター」で、欧米も認めた正当な選挙で選ばれたロシア人大統領の政権を潰した「マイダン革命」に関する捏造だ。

 

★ウクライナは1991年の独立により、ロシアとの通商を縮小させたので、2000年頃のウクライナのGDPは独立前の半分となった。その後、GDPは回復基調になったが独立前に戻ることは無く、国家財政の赤字が続いた。その結果、ロシアから輸入していた天然ガス代が払えなくなり、ウクライナは国家破産寸前に陥った。

 

そこで、ロシア人大統領ヤヌコヴィッチは、西側の諸機関やロシアのプーチン政権と財政支援の交渉していたが、西側が提示した援助額では全く足りなかったので、国家破産を回避できる援助金を提示したプーチン政権に頼ることにした。しかし、この選択はEU加盟を断念し、ロシアが主導する「ユーラシア経済共同体」に加盟することでもあったので、2013年11月から親欧米派のデモ隊によるマイダン広場の占拠デモが始まった。

 

ところが、2014年1月にネオナチの「右派セクター」がデモに参加すると、時々死者が出るほど激しい攻防戦と化した。そして、2月22日(2月20日)、ヤヌコヴィッチ政権の治安部隊が丸腰の反政府派デモ隊員100名を射殺したとされた大事件が起こった。

 

この事件で、ヤヌコヴィッチ政権は崩壊したのだが、これ以降のキエフの「クーデター」政権はロシアへの憎悪を煽るプロパガンダをしてきたので、多くのウクライナ人が今回、ロシア軍への抵抗の意志を示したのは不思議ではない。だから、現在の世論調査を根拠にした批判は成り立たない。

 

★ウクライナでは、1991年の独立以来、ウクライナ民族とロシア民族のナショナリストたちの対立・抗争が続いていた。ただし、銃器が使われたことは無かったので、100名射殺は衝撃的事件だった。しかし、反ロシア派デモ隊員を射殺したのは、何と同じ反ロシア派の極右やネオナチだった。アメリカのネオコンに買収されていた反ロシア派の幹部が傭兵を使って仲間のデモ隊員を射殺し、その罪をヤヌコヴィッチ政権に擦り付けたのである。


後に、この傭兵グループの2名が、元イタリア首相のベルルスコーニが設立したイタリアで最も視聴率の高い「カナーレ5」という大手テレビ局の「語られざる真実」という番組に登場し、全て暴露した。彼らはネオナチ派幹部のアンドレイ・パルビイ最高会議議長から命令され、デモ隊と治安部隊の双方を射撃したと証言をした。

 

その後、彼らは仲間割れを起こし、暗殺されそうになった2人が暗殺を防ぐために、この報道番組に登場した。自分たちを殺そうとしている者の名前を暴露することで、暗殺を防ごうとしたのだったが、欧米の報道機関は全て、この証言を無視した。


彼らの証言では、この傭兵グループはマイダン広場に隣接するホテルの上層階から、デモ隊と治安部隊の双方を射撃して、双方が相手側が銃器を使用したと勘違いさせ、地上での銃撃戦を引き起こした。つまり、典型的な偽旗作戦だった。

 

この時、犠牲者を診た女性医者は、双方の犠牲者から同じ種類の銃弾が出てきたこと、更に線条痕も同じであり、また、多くの死傷者は斜め上方向から撃たれていたと証言した。地上での銃撃戦なら、胸から背中とか水平の銃創ができるはずなので、彼らの多くは地上での銃撃戦で死傷したのではなかった。


★この大事件が起きた時、エストニアの外務大臣ウルマス・パエト氏がキエフに来ていた。そして、この件を聞きつけ、この女性医師に確認したところ、医師は双方の狙撃に使われた弾丸は同じ種類の弾丸で、同じ線条痕があることを写真で示したという。

 

その後、パエト大臣は、上司に当たるEUのアシュトン外務大臣に電話で、デモ隊員と治安部隊の双方を狙撃したのは反ロシア派だと報告した。ところが、この会話はロシアの諜報機関に盗聴され、同年3月5日にユーチューブで公開された。すると、本人たちはこの公開された会話は本物と認めたのだが、反ロシア派が反ロシア派のデモ隊員を射殺したという内容は胡麻化した。

 

 Kiev snipers hired by Maidan leaders - Estonian FM to EU's Ashton

2014/03/05

 

★この銃撃戦について、実際にキエフに行って調べた東大の松里公孝教授は、著書の「ウクライナ動乱」(ちくま書房新書)で、「クーデター」を起こしたキエフの暫定政権は、この事件をろくに調べずに銃弾等の証拠を全て廃棄しただけでなく、マイダン広場の樹木まで伐採したことをマイダン広場で確認している。

 

というのは、マイダン広場の樹木には、あるはずがない斜め上から下に抜けた銃創がある木があり、この銃創は、真犯人のスナイパーはホテルの上層階に居たことを示していた。それで、暫定政権は銃創のある樹木まで伐採し、銃創が無い木だけ残した。以後、キエフ政権は、ヤヌコヴィチ大統領が治安部隊に命じて100名ものデモ隊員を射殺したと主張しているので、この説を信じているロシア人が両国にいても不思議ではない。

 

★実は、この銃撃戦が起こる前日の2月21日(2月19日)に、独、仏、ポーランド3国の外相の仲介で、ヤヌコヴィチ政権側の与党と野党との妥協が成立していた。その内容は、ヤヌコヴィチ大統領の任期を短縮して、同年12月に選挙を行い、新しい大統領がEUか、ロシアかを決めるという妥当な協定だった。

 

ところが、アメリカ国務省のビクトリア・ヌーランド欧州担当国務次官補(現米国務次官)は、この協定では、次の大統領もヤヌコヴィッチとなる可能性がある。そこで、子飼いのネオナチ幹部アンドレイ・パルビイ最高会議議長に命じて傭兵による偽旗作戦を実行し、一気にヤヌコヴィチを失脚させてしまった。この「クーデター」の黒幕がヌーランドである証拠の一つは、下記のユーチューブで暴露された盗聴動画だ。

 

AFP:2014年2月7日
米国務次官補が「EUくそくらえ」、電話盗聴され暴露

https://www.afpbb.com/articles/-/3007954

 

Recorded conversation between Asst. Sec. of State Victoria Nuland and Amb. Jeffery Pyatt

 

この動画では、ヌーランドが12月選挙という解決策を仲介したEUを、「F***」と罵ったことが注目され、暫定政権の首脳ヤツェニュクをヌーランドが指名したことは無視された。しかし、ヌーランドがEUに謝罪したことで、この会話は本物であることが明白となり、ウクライナの新政権首脳を、アメリカの一官僚が決めたことも明白となった。2014年以降のウクライナの政権は、基本的にはアメリカ(ネオコン派)の傀儡政権だった。

 

★反ロシア派は傭兵に、47名(その後、キエフ政権が100名に訂正)のデモ隊員と10~20名の治安部隊員を射殺させると、直ちに親欧米派のテレビ局が政府側が丸腰のデモ隊に発砲し、多数の犠牲者が出たというウソのニュースを流した。

 

それで、激怒した大勢のキエフ市民がデモ隊と共に政府庁舎を襲ったので、ヤヌコヴィチ政権は瓦解した。つまり、「マイダン革命」といわれている2014年の政変はアメリカのネオコンによる「クーデター」だった。また、その後のキエフの中央政界では、射殺事件の責任を問われたクリミアやドンバス選出の与党「地域党」「ウクライナ共産党」の議員たちは中央政界から排除され、「地域党」は解体した。

★この銃撃事件について、先述の松里公孝教授は著書の「ウクライナ動乱」のP111で、
カナダのオタワ大学教授イワン・カチャノフスキーは2014年以来、一貫して親欧米派の犯行と主張していることを紹介している。また、米国シカゴ大学のミヤシャイマー教授や、米国大統領選挙に立候補している
ロバート・F・ケネディJR、米国の社会派映画監督オリバー・ストーンも「クーデター説」を支持している。

 

日本でも、元ウクライナ大使で防衛大学教授だった馬淵睦夫氏や元外務省の局長を歴任した東郷和彦氏、在米30年以上の保守系政治評論家伊藤貫氏、元陸上自衛隊陸将補の矢野義昭氏、キヤノングローバル戦略研究所の研究主幹だった小手川大助氏も「クーデター」説を支持している。しかし、このようなアメリカに都合が悪いことを言う論者には、日本のテレビ局は出演要請しないので、日本の世論はG7国内でも、最も偏向している。

 

キヤノングローバル戦略研究所:シリーズコラム『小手川大助通信』:2014.03.20
ウクライナ問題について

https://cigs.canon/article/20140320_2453.html
小手川 大助(現大分県立芸術文化短期大学理事長兼学長、1975年に大蔵省(現財務省)、元キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

 

★2月22日に起きた、この悲劇はウクライナのナショナルな若者を激怒させ、各地でロシア民族を襲ったので、ロシア民族側に多数の死傷者が出た。また、ウクライナの治安機関「SBU」が各地でロシア人活動家を逮捕した。そのため、ロシア人が多いドンバスやクリミアでは道路に検問所が設置されて、街への武器の搬入を防ぐと共に、何の防衛策も取らないキエフ政権支持の首長を追放して自治体を刷新した。

 

クリミアやドンバスのロシア民族は、中央政界での自分たちの利益代表である政治家を失っただけでなく、復讐される側に立たされたため、「反クーデター」運動はウクライナからの分離独立運動へと発展した。この分離独立運動は、「アメリカ独立革命」の理念である「代表なくして課税なし」と同じ理念の運動だったが、アメリカのネオコン政権はキエフ政権を支持し、人類史上の輝かしい成果を挙げた祖先の顔に泥を塗った。

 

★キエフ政権は、この「反クーデター」運動をテロリストの運動と呼び、ウクライナ軍に武力鎮圧の命令を出したので、大勢のウクライナ軍内部のロシア人兵士は親ロシア派に寝返った。彼らにとっては、故郷と家族や親族を守る戦いだったので士気は高かった。

 

また、ウクライナ軍は財政難による訓練不足や給料の遅延、そして、つい最近までウクライナの国民だった東部の住民に対する戦争だったので、士気は非常に低い状態だった。それでも訓練と騙されて東南部に出動させられたが、途中で大勢の住民に包囲されて進撃を阻止され、住民から説得されると基地に引き返した。

 

そこで、キエフ政権が利用したのが英語を話す傭兵部隊と、アゾフ大隊のような政商(オリガルヒ)が組織していたネオナチの私兵部隊だった。彼らが、マウンポリ市に装甲車で突入してロシア側についた警察署を攻撃し、内戦の口火を切った。その結果、ウクライナ軍側が約4000人以上、ロシア民族側の軍民が1万人以上、双方で1万4000人~1万6000人もの死者を出し、200万人以上のロシア人難民がロシア側に避難した内戦が始まった。最初の避難民はロシア人だった。

 

しかし、ウクライナ軍は同年9月の「イロヴァイスクの戦い」大敗して停戦協定の「ミンスク合意1」を締結したが、休戦とは成らずに戦闘は再開した。そして、翌年の2015年2月には、ウクライナ軍の主力部隊6000名~8000名が「デバルツェボの戦い」で包囲され、全滅の危機に陥った。そこで、キエフ政権側は、この軍を救うために独仏の仲介で「ミンスク合意2」を締結して、停戦と自治権の付与を約束したので、親ロシア派は包囲を解いた。

 

つまり、親ロシア派は「ミンスク合意2」の約束を守ったのだが、結局、キエフ政権側がドンバスのロシア人に自治権を与える約束は守らなかったので、大砲は双方とも使わなくなったが、銃撃戦は続いていた。その後、キエフ政権側はこの時、ウクライナ軍は包囲されてはいなかったと言い出した。

 

しかし、包囲されていなかったのであれば、なぜ自分たちがテロリストと呼んで犯罪組織扱いしていた親ロシア派勢力と停戦交渉をするという主権国家としては屈辱的なことをしたのか説明できないはずだ。また、ロシア軍が参加していたのであれば、包囲したウクライナ軍の主力部隊を殲滅するか、捕虜にして無力化するはずだ。

 

更に、ドネツク北部のスラビヤンスク市やクラマトルスク市、南部のマリウポリ市などの主要都市はもちろんだが、ハリコフ市や首都キエフまで進軍して、「クーデター」政権を倒したはずだ。しかし、当時の親ロシア派部隊は優勢ではあったが、そこまでの軍事力は無かったから停戦に応じた。

 

★この「ミンスク合意2」を守っていれば、その時点で内戦は終わった。と言うのは、当時のプーチンはドンバスの2ヶ国が独立し、キエフが独立を承認してしまえば、新ウクライナは紛争が無い国となるので、NATO加盟が可能となることを危惧していたからだ。

 

それで、プーチンはドンバス側の併合要求を認めず、あくまでもウクライナに留まり、ウクライナ内部でNATO加盟に反対することを期待したため、今でも、穏健なナショナリストのプーチンは、ロシアの強硬派ナショナリストであるイーゴリ・ギルキンなどから恨まれている。

 

★アメリカは戦後直後から、元ドイツ軍の情報将校「ゲーレン」の紹介でウクライナのネオナチと接触してソ連内部にスパイ網を築いていた。また、1991年のウクライナ独立前後から、アメリカは60億ドルもの資金を投じて、ウクライナ内部の親米派を育成してきた。ロシアは、2008年にNATOがウクライナとジョージアの将来的なNATO加盟を決めたことで、NATOとの戦争を覚悟して体制を整え始めた。

 

アメリカのCIA研究者ダグラス・ヴァレンタイン氏は、CIAが第二次世界大戦末期以来70年以上もの間、ウクライナのネオナチ派の残党を利用して、ウクライナやロシアで政治工作をしてきた歴史を暴いた。

 

Takuya Yoshida」は、登録者数 1130人のチャンネル

CIA - ウクライナでの70年  2022/06/04

 

アメリカは、ロシアが何度も強硬に反対したが無視して、NATOに加盟したルーマニアにミサイル基地を建設した。それで、ルーマニアからモスクワまで10分で核ミサイルが届く事態となった。ウクライナ北部からだとモスクワまで、核ミサイルは5分で届くからロシアの「相互確証破壊」能力は失われる。本物の核ミサイルか確認する時間が必要だからだ。また、ウクライナ北部からモスクワまでは平原が続き、NATO軍戦車の進撃を止める高山や大河は無いので、モスクワは無防備な首都だ。

 

ロシアにとってウクライナのNATO加盟とは、アメリカにとってカナダが親ロシア国家に成るようなもの。2500キロも離れたキューバへの核ミサイル配備を許さず、国際法違反の海上封鎖を実行したアメリカが、カナダが親ロシア国家に成ることを黙認するはずが無い。アメリカがロシアを「侵略した」と批判したいなら、まずは、キューバやイラクなどに謝罪すべきだ。

 

★プーチンが侵攻に傾いたのは、2021年秋にゼレンスキーが「ミンスク合意2」を守る意思がないと伝えたからだが、この時は侵攻の日時は決めていなかったようだ。↓の大崎巌氏の論考を読めば、2月24日のロシア軍の侵攻は、ウクライナの宗主国であるアメリカが引き起こしたとわかる。

 

と言うのは、プーチンは2022年2月15日に国境地帯で軍事訓練をしていたロシア軍に、撤退命令を出すと、何と翌日の16日から、ドンバスの親ロシア派を包囲していたウクライナ軍が砲撃数を約4倍に増加させ、ドンバスで同胞に多数の犠牲者が出たからだ。ロシア民族の守護神であるプーチンは、同胞を見捨ててロシア軍を撤退させることは出来ず、ついに侵攻命令を出したと推認できる。後に、プーチン自身が他に選択肢が無かったと回想している。

 

現代ビジネス:2022.11.23(水)

ロシアより先に戦争を始めたのは米国とウクライナの可能性 「ロシアの正義」を全否定せず、日本は停戦協議の場を用意せよ
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72795
大崎 巌(
政治学者。22年3月まで、ロシア・ウラジオストックの極東連邦大学東洋学院・地域国際研究スクール日本学科・准教授

 

PRESIDENT Online:2022/11/09 
「こんなにうまくプーチンが引っかかるとは」ウクライナ戦争をアメリカが引き起こしたといえる残念な証拠 プーチンだけでなく、アメリカにも責任はある

https://president.jp/articles/-/63316
東郷 和彦(静岡県立大学グローバル地域センター客員教授)、中島 岳志(東京工業大学教授)

 

★アメリカの狙いは、ロシアを泥沼の消耗戦に引きずり込んで5年、10年、15年と長期間戦わせてロシアを疲弊させ、ロシアを1990年代のように親欧米体制の国に変えてロシアの資源を奪うことや、中国をロシアと共に挟みうちにして封じ込める戦略の実現だろう。

 

アメリカには、覇権を維持する世界戦略論では2派がある。一つはキッシンジャーやトランプらの米露が手を組んで中国に対抗する戦略であり、もう一つは、ネオコン派のシンクタンク「戦争研究所」の戦略。これは、中国を抑止しつつ露を攻めて親米派に変え、その後に米露で中国を封じ込める戦略。

 

今は、後者の戦略で攻めているので、核戦争を起こさずに戦争を5年、10年と続けることが目的。だから、ウクライナには少ししか武器は渡さないし、昨年の反攻作戦が失敗してもネオコンの戦略が失敗したのではない。元々、長期間戦争を続けて、ロシアを疲弊させる戦略だからで、ウクライナ側が疲弊したら、一時的な停戦もあり得るが、ネオコンは再び再開させるだろう。

 

ロシアは、この戦略を承知しているから、ポーランドなどに戦術核兵器を撃ち込み、それでもアメリカ軍が参戦しないことを暴露して、NATOを崩壊させるかもしれない。全面的な核戦争となれば、最初の30分で1億人のアメリカ人が死ぬので、アメリカはロシアと中国とは戦争をしないと決めている。つまり、「日米安保条約」も虚構であり、尖閣のような無人島や台湾のために、アメリカが中国と戦争をするわけがない。

 

●佐藤氏の主張の「最初は地域紛争だった」という部分について、平野高志氏は単なる民族間の地域紛争ではなく、親ロシア派にはロシア軍が参加していた、つまり侵略戦争だったと言う。そして、志葉氏も平野氏に同意し、「ロシアの侵攻は2022年ではなく、2014年に既に始まっていた」と言う。

 

★2014年と2015年の2つの大敗北の理由をキエフ政権は、今でもロシア軍が侵攻したせいだと主張し、キエフ政権は国際司法裁判所に提訴したが、国際司法裁判所は否定した。というのは、中立の立場で内戦を監視していた「欧州安全保障協力機構」が、ロシア軍の侵攻を否定したからだ。

 

しかし、今でもキエフ政権や欧米や日本の御用学者たちは、10年前のロシアの侵攻説を支持している。つまり、彼らに言わせれば今回の侵攻は2度目というわけだが、これまで、日本のテレビや新聞は、まるで何の問題も無い平和なウクライナに、突然、ロシア軍が侵攻したかのような解説をし、ロシア悪者論を宣伝してきた。


確かに、親ロシア派側にはロシアのコサック兵も含めて海外から多くの義勇兵が駆けつけたし、ロシアは親ロシア派に安く武器を払い下げ、事実上の武器援助をしていた可能性はある。しかし、これは、NATOからの援助武器で戦っているウクライナ軍が、NATO軍ではないとされているのと同じだ。

 

2014年~2015年の激しい内戦では、4000名前後ものウクライナ軍が戦死したため、キエフ政府の支配地域に住み、騙されているロシア民族やロシア語が母語のウクライナ人でも、ロシアを憎悪する人もいるはずで、ロシア民族にも少数だが親欧米派がいて、マイダン広場での攻防戦にも参加していた。その結果、平野氏が言うように、ロシアへの抵抗を支持する回答が圧倒的であっても何の不思議もない。

 

また、そもそも、ウクライナ側が「クーデター」という違法行為で選挙で選ばれた大統領やクリミアの議員をキエフから追放したから、「代表無くして課税無し」の原則でクリミア側にはウクライナの法を守る義務は無くなった。クリミアに駐留していたウクライナ軍の大部分は素早くクリミアに展開したロシア軍側に寝返ってしまったので、ウクライナ軍は戦意を消失させた。それで、極少数のウクライナを選んだ兵士はバスで帰国できた。もし、クリミアでも内戦が起きたら、ウクライナを選んだ兵士は全滅したに違いない。

 

実は、キエフの歴代政権は、クリミアから税金を吸い上げるばかりで、余り還元しなかったから、元々クリミアはキエフ政権への反発が強かった。それで、駐クリミア・ウクライナ軍の大部分の兵士はロシア軍に寝返り、タタール民族も含めて90%以上の圧倒的多数がロシアへの併合に賛成した。これは、一水会の木村三浩氏や鳩山由紀夫元首相がクリミアに行き、現地の人に確かめている。


志葉氏は、佐藤氏のウクライナの「勝利不可能論」や「即時停戦論」はウクライナの抵抗を否定し、妥協を強いるものとして批判する。また、この「即時停戦論」は、日本がロシアからエネルギーを買うことで、ロシアに戦争資金を渡してロシアの侵略に加担していると批判する。

 

★佐藤氏の「即時停戦論」は、①「命は何よりも大切」という価値観を前提にした議論なので、志葉氏が佐藤氏の、この主張を否定するなら、「命よりも大切なものがある」という議論をしないと反論にならない。

 

また、佐藤氏の「即時停戦論」には、②ウクライナの「勝利不可能論」という第2の前提もある。つまり、佐藤氏は、当ブログと同じようにウクライナが戦っても負けるから、犠牲者は無駄死にするという前提で「即時停戦論」を提起している。だから、志葉氏が佐藤氏を批判する場合、西側の支援があれば、ウクライナはロシアに勝てると論証しなければ反論にはならない。

 

その場合でも、③ウクライナは西側諸国に隷属しないという議論も必要だ。なぜなら、ウクライナは主権を維持するためにロシア軍と戦っているので、そのために西側に隷属しては本末転倒だからだ。

 

更に言えば、志葉氏はウクライナがロシアに勝っても、④核戦争は起きないという根拠も提示しなければならない。ロシアは核大国であり、既に核兵器を使うケースを公表している。それで、ロシアが敗けそうになれば、ロシアは戦術核兵器を使うこともあり得るからだ。

 

ところが、既にロシアでは、敢えてポーランドに核兵器を使用する議論が起きている。NATO加盟国のポーランドに人的被害が出ないように警告してから戦術核兵器を打ち込む案だ。全面核戦争を恐れるアメリカは加盟国が攻撃されても反撃しないことを実証して、NATOを瓦解させる狙いだ。しかし、万一ロシアが戦術核兵器を使った場合、その衝撃は計り知れないので、全面的な核戦争に突入する可能性はゼロではないから、志葉氏は核戦争は起きないという根拠も提示しなければならない。

 

★そもそも、この戦争は第2の「キューバ危機」。1962年のキューバ危機の時、キューバを国際法違反の戦争行為である海上封鎖したアメリカやNATO諸国、そして、アメリカを批判しなかった日本にはロシアを批判する資格が無い。なぜなら、ソ連よりも1年前の1961年にトルコやイタリアに核ミサイルを配備したのはアメリカであり、また、当時はNPT体制以前だったので、ソ連によるキューバへの核ミサイル配備は国際法でも合法で、海上封鎖は国際法違反だったからだ。

 

更に言えば、日本やウクライナが加担したアフガン戦争やイラク戦争も侵略戦争だったから、この戦争がロシアの侵略戦争だとしても、アメリカはもちろん、日本やウクライナ、そしてアフガン戦争やイラク戦争に加担したG7とNATO諸国には、ロシアを批判する資格が無い。ロシアを国際法違反批判するなら、まずキューバやアフガン、イラクに謝罪しなければならない。

 

と言うのは、大量破壊兵器が見つからず、イラク人約160万人が死亡したイラク戦争は説明するまでもないが、同じく約160万人も死亡したアフガン戦争では、アフガンはアメリカと「犯人引き渡し条約」を結んでいなかった。また、そもそもアフガンはビン・ラディンを引き渡さないと言ったのではなく、ビン・ラディンが「9・11」の犯人と言うなら、「証拠を見せろ」と言っただけだったが、アメリカは20年間もアフガンを侵略した。そして、日本も海上自衛隊を派遣して侵略に加担したからだ。

 

●更に、志葉氏は、ロシアと通商している中国やインド、トルコ等の国々に対しても対ロシア経済制裁に加わることを求める外交が重要だと言う。そして、単にウクライナに妥協を強いることを「平和主義」だと考えているのであれば大きな間違いだと言う。

 

★確かに日本もロシアから天然ガスを輸入しているが、ロシア産原油の輸入禁止を提起したアメリカ自身が去年の10月から、既にロシアから原油を輸入している。産地により、原油の質は様々で原油の精製装置も産地別なため、ガソリン不足に陥ったアメリカもロシア産原油を輸入しなければならなくなった。これをロシアが公表したがアメリカは反論していないし、日本では報道もされない。また、原発の燃料ウランも日本やアメリカはロシアから輸入しているが、こちらは停止する目途も立たない。

 

経済がグローバル化しているので、ロシア製兵器に西側の部品が使われているように、アメリカも中国から半導体チップを輸入しないと兵器が造れない。つまり、米国製兵器には中国製半導体チップが使われている。そもそも、ロシア軍の侵攻後も、ウクライナの軍事企業がロシアに兵器用の部品を輸出して摘発されたこともある。戦争の当事国もロシアに武器を売っているのがグローバル経済の現実。

 

★2015年の冬。ウクライナはドンバスの親ロシア派と内戦中だったが、ドンバスから石炭を買うしかなくなったのでロシアに仲介を頼み、戦争をしている親ロシア派から石炭を買い、寒い冬を凌いだ。2014年からの内戦で、ロシア側に避難したロシア民族系ウクライナ人は、今でも200万人以上もいるが、日本では全く報道されない。

 

内戦前のウクライナは、経済が破綻状態だったので人口の1割の450万人ものウクライナ人が親戚を頼ったりしてロシアに出稼ぎしていた。だから、今でも出稼ぎしている人もいるだろう。テレビはウクライナにはロシア民族がいないような報道しているが、ウクライナの人口の2割弱、800万人以上がロシア民族で、ロシア語が母語のウクライナ人も100万人以上いた国がウクライナ。そのため両民族には通婚者も多い国だったが、アメリカがマイダン広場での偽旗作戦という謀略で、ウクライナを無茶苦茶にしてしまった。

 

★米・中・露は大国であり、その関係は複雑だが、中国はロシアが米国の軍門に下り、親欧米国家となれば、次は米・露が中国を挟み撃ちにすると恐れているはずだ。それで、中国は何らかの形でロシアが敗けないように支援しているだろう。

 

そのような中国に、「ロシアを支援するな」と言うなら、日本は米国との同盟を止めて中国と同盟を結び、他の国にも中国と同盟を結ぶように、日本が影響力を行使すると約束するぐらいのことをしないと中国はロシア支援を止めるはずがない。

 

★ソ連は確かに問題が多い国で、社会主義体制ではなく、民族社会主義的な国家社会主義国だったが冷戦時代、日本よりもソ連の方が、アジアやアフリカ、南米の植民地独立に尽力していたことは確かだ。また、アメリカが独裁政権を倒したり、攻撃した独裁国家のほとんどが独裁国家時代よりも酷い無政府国家=破綻国家になってしまったので、多くの国から恨まれている。

 

ロシアや中国、アメリカのような多民族国家の政権を倒すと、今よりも酷い無政府国家=破綻国家になる可能性がある。その場合には、核兵器を持つ勢力同士で内戦が起こる可能性もあるし、何十万人もの武装難民が日本に押し寄せるかもしれず、日本も無事ではいられない。問題は国家間の敵対関係なので、米中対立を放置したままで、ロシアを支援する中国を批判しても実効性は無い。

 

戦後のほとんどの戦争を引き起こしたのはアメリカ。アメリカは16人のタリバン幹部をドローンで殺害するために、1000人もの民間人を巻き添えで殺した。アメリカは2000年以降の「テロとの戦争」で、アフガンとイラクで160万人以上、シリアとリビアで70万~80万人以上、合計500万人以上の民間人を殺害している。つまり、「民主国家」だろうが、資本主義経済の階級国家なので、国民による政府の統制は限定的。

 

現に、アメリカでは、既にウクライナへの軍事支援に反対する世論の方が多数だが、バイデン政権は逆で、ウクライナへの軍事支援では断トツのトップだ。個々に武装した国家体制そのものの止揚、つまり、世界政府の樹立が必要なので、日本は9条を堅持して戦争国家アメリカとの関係を見直し、国を挙げて世界政府の樹立方法を検討すべきだ。


●志葉氏は、プーチン大統領の目的は侵攻当初から現在も変わっていないとし、未だに「非ナチ化」を掲げていることからも、民主的に選ばれた他国の政権を転覆させようとしているのは明らかと言い、ブッチャの虐殺も認める。

 

志葉氏は、NATOが反ロシアの軍事同盟では無いかのような主張をしている。もし、NATOとロシアの関係が良好なら、志葉氏の議論は成り立つ。しかし、冷戦時代に結成されたNATOが反ロシアなのは明白なので、この戦争は15年以上も前に、アメリカのジョージ・ケナンにより予想されていたし、多くの西側の専門家がNATOの東方拡大に反対していた。


NATOは、ロシアのNATO加盟申請を断り、NATOが反ロシア軍事同盟であることを自ら暴露したので、プーチンはNATOとの戦争を予想して、ツィルコンやキンジャールのような極超音速巡行ミサイルや、10発で米国の全国民を殺害する威力があると言われているロシアの新型ICBM「RS-28サルマト」などの核兵器の開発をしてきた。

 

全ては関係が決するので、さしあたり誤解を解いたり、信頼性の醸成努力が大切であって、志葉氏のように不完全な国際法を持ち出してロシアを批判するのは対立を煽るので下策と言う他ない。トルコのような融通無碍な外交政策の方がよほど得策なので、ウクライナと同じ最前線国家日本もトルコを見習うべきだ。

 

★佐藤氏は、「ブチャ虐殺」について戦時中における虐殺事件とか、強姦事件に関する報道は心理戦の一部の場合が多いことから、「私は、そうした残虐行動に関しては、全部カッコのなかに入れることにしている」と言っていることを志葉氏は否定する。しかし、侵攻初期にウクライナの人権オンブズウーマン、リュドミラ・デニソワが報告したロシア軍による強姦話は捏造だったので、彼女は任命した議会から職を解任された。

 

また、軍事の専門家である元自衛隊の陸将補だった矢野義昭氏は、戦争犯罪の調査は困難で何年も時間が掛かると言う。と言うのは、疑われている部隊の日誌まで調べる必要があるからで、そうした緻密な調査もせずに、戦争犯罪と断定すること自体がプロパガンダの可能性がある。「戦争の最初の被害者は真実」だ。

 

また、フランス人の医療ボランティア・ボケ氏は、ウクライナ軍兵士が遺体を冷凍車から降ろして、道に並べているのを目撃したと証言している。そもそも、民間人を殺害した場合、何日も路上に放置するようなことはしないと矢野氏は言う。後で、戦争犯罪とされると、その部隊の指揮官も責任を取らされるし、駐留している街の住人が犠牲者なら、家族や住民を敵に回すから、直ぐに埋めてしまうのが通例。現時点では、「断定」しない佐藤氏の態度が妥当だ。

志葉氏は、事実が重要だと言い、疑問を持つのも大切だと言う。そして、抑圧された側に立つことが大切とし、欺瞞に満ちた「平和主義」は、プーチン大統領の思う壺だと言う。更に志葉氏は、NHKの看板番組「クローズアップ現代」が今回、欺瞞に満ちた「平和主義」でプーチン大統領のプロパガンダを流したと糾弾する。そして、ロシア側のプロパガンダに迎合するメディアを批判することや、本当の意味での平和をいかに実現するかを模索することは、ジャーナリズムの重要な役割と言う。

 

★まず、事実が重要とか、多数意見を疑うのも大切だ。今、われわれが、確信的に正しいと認めている「進化論」や宇宙の「ビックバン説」などは当初、間違いと批判された少数意見だったからだ。また、抑圧された人々の側に立つことも大切だ。

 

しかし、どんな意見にも多少は妥当な点が含まれている。それで、われわれ人類は間違える。だから、志葉氏は「プーチン大統領の思う壺だ」と言う前に、プーチン大統領の主張を冷静に吟味すべきだ。それには、まず西側の論者でプーチン大統領の主張の一部でも支持する人々の意見を吟味すべきだが、どうも先述したように、志葉氏は松里公孝教授の著書「ウクライナ動乱」も読んでいないようだ。

 

西側には、内戦の直接的な契機となった2014年の「マイダン革命」は、アメリカのネオコンによる「クーデター」という説を一貫して主張しているイワン・カチャノフスキー教授のような人物もいる。また、ミヤシャイマー教授ロバート・F・ケネディJRオリバーストーンのように、プーチン大統領の主張の一部を認める論者もいる。更にアメリカには、ロシア軍の侵攻を国際法上の自衛戦争と認め、合法だと言う国際法学者さえいる。また、日本にも、この「クーデター」説を支持する馬淵睦夫氏や東郷和彦氏、伊藤貫氏、矢野義昭氏、小手川大助氏のような人物もいるのだが、志葉氏は一切、彼らには言及しない。

 

★志葉氏のNHKが多くのウソを報道しているという批判には同意するが、このNHKの看板番組「クローズアップ現代」の佐藤氏の番組は、むしろ、現在の日本の常識に挑戦したNHKでは珍しい企画だった。しかし、志葉氏は、NHKの看板番組「クローズアップ現代」が、今回、欺瞞に満ちた「平和主義」で、プーチン大統領のプロパガンダを垂れ流したと糾弾し、ロシアに迎合していると厳しく批判している。

 

志葉氏の「本当の意味での平和をいかに実現するかを模索することは、ジャーナリズムの重要な役割」と言う主張は、その通りだが、志葉氏は「クーデター」説には一切触れていない。そして、致命的なのは、東大の松里公孝教授の「ウクライナ動乱」(ちくま書房新書)に、全く触れていないので、おそらく読んではいない。それで、「客観的事実」を軽視しているのは志葉氏自身であって佐藤氏ではないと推認できる。

 

★ウクライナとロシアとの間には長く、複雑な関係史があるが概ね近代以降、ロシアがウクライナを抑圧してきたと言える。ウクライナの独立はソ連を崩壊させたが、ソ連の崩壊はスターリン主義体制の欠陥だけでなく、ロシア民族側に他の民族にロシアの富(地下資源)を奪われているという被害者意識があったことも一因で、ロシアがウクライナを切り捨てたと言う面もある複雑な事態だった。実際にソ連崩壊、ロシアは一人勝ち状態になり、ロシア民族の所得はベラルーシを除けば、その他の分離した国々の概ね2倍となった。

 

しかし、ロシア人はウクライナ人に特別なシンパシーがあることや、西側との緩衝国になることを期待していたので、エネルギーを市価の半分程度の優遇価格で売り、しかも代金は後払いだった。当初から、EU加盟を望むウクライナ人は多かったが、ロシアを刺激するNATO加盟を望む人は少数派だった。それでも、ウクライナにはロシアから完全に分離することを望む反ロシア強硬派のネオナチや極右も多い国だった。

 

★そこで、60億ドルもの資金を投入したアメリカの内政干渉と、味方を47人も殺害した偽旗作戦まで行う冷酷で巧妙な政治戦術にロシア側は完敗し、2014年に内戦となった。湾岸戦争後のイラクへの経済制裁で医薬品も輸入も禁じて、50万人ものイラクの子どもを病死させたアメリカのネオコンの無慈悲さには震撼するしかない。

 

ロシア側のウクライナとの融和を築く努力も足りなかったが、アメリカが内政干渉をしなかったなら、両民族は戦火を交えるほどの最悪の事態には成らず、2014年12月の大統領選挙で解決したはずだ。そもそも、西側はNATOの「東方不拡大」の約束を破った。

 

その後も、先の2014年12月の大統領選挙や「ミンスク合意」の1と2、2022年3月の和平協議など、平和を回復する機会が多数あった。しかし、ロシアを泥沼の消耗戦に引きずり込みたい米英が全て潰したので、最も悪いのは、アメリカの軍産複合体や金融資本であり、ネオコンだ。