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僕は今
一人、ペルー、アレキパにいる。




また一人旅。いつもの一人旅。
久しぶりの一人旅。





そう。




相棒。だんと。さよならした。




正確には
さよならせざるをえなかった。





ほんとなら
2人でブラジルまでアンポン旅を
続ける予定だった。




それが突然の別れ。




だんと僕は
チリ北部アタカマから夜行バスに乗り
マチュピチュのあるクスコにむかっていた。




世界一の星空を見て
アタカマの大自然を惜しみながら
バスに乗った。






今回のバスは
最終目的地クスコまで
二回の乗り継ぎがあることから
一区間あたりの乗車時間は
それほど長くなかった。
長くて10時間。





座席は一番うしろ。
4列シートではあったが
僕らは最終列で
横にトイレがあっため
僕らだけ実質2列だった。





昔から窓側じゃないとなにか
落ちつかない僕は
決まって窓側だ。
良くトイレにいく僕だけど
決まって窓側。




いつもトイレに行くときは
だんにぶつぶつ言われながら
だんの前をまたいでいく。笑




今回も安定の窓側。
だんはぶつぶつ言いながらも通路側。







「アタカマよかったな。」





「南米も慣れてきたな。」






そんな会話を小一時間ほどして
僕らは眠りについた。





目を覚まして
時計を見ると午前1時。
僕はトイレに行きたくなったので
いつも通りだんをまたいで
トイレにいく。




もちろん、だんは爆睡中で
僕が前をまたいでいるのに
気づくと嫌な顔をしてまた眠りにつく。




眠りについたかと思うと
また僕がトイレから帰ってきて
前をまたぐので
最終的に、だいたい起きてしまう。



僕が
トイレから帰って
だんをまたいで
だんを起こしたその時だった。





だんが慌てた。




普段
あんまり慌てることのないあいつが。









「カバンがない。」









「はっ。」






真っ青になった。




大きいバックパックはバスの下に入れてあるが
小さなカバンは車内にもちこみ
イスの足置き場の下に潜らせるように
管理していた、だん。
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起きるとそこから
カバンが消えていた。





中身は


現金10万。
MacBook。
サングラス。
iPhone。
パスポート。




おい。
パスポートって。





運転手に言って電気をつけてもらい
バスの中を探すが
カバンはどこにもなかった。






アタカマを出てから
僕らが寝ている間にバスは何度か
止まっていたらしいが
おそらく
止まったバス停で
乗客ではない
誰かが乗り込んできて
取って逃げて行ったんだとおもう。





不幸なことに
僕らは最後尾。
死角だった。



さらにだんは
通路側。
窓側に比べれば、ものは盗みやすい。





そしてだんは
こうなった。
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「俺、なんにもないよ。」



だんは一言そう言った。
その言葉が忘れられない。




いったい彼はこの時
どこを見つめていたんだろう。
明日だろうか。笑










パソコンや現金も大切だが
なんと言っても
パスポート。




これがないと旅はできない。




パスポートを失った場合。
対処の仕方は大きく分けて二つある。
日本大使館で再発行してもらうか
または緊急帰国用の渡航券を
発行してもらうかだ。





旅を続けるのであれば
もちろん再発行しかない。





だんが言った
「もう、帰ろうかな。」





久しぶりに追い詰められている
だんをみた。






それでも
その理不尽に勝つため
だんは旅を続けることを選んだ。





大使館があるのはサンティアゴ。
僕らの現在地からはバスで30時間。




それでも
だんはサンティアゴまで戻る決意をした。






僕はその時、ものすごく迷った。
一緒にサンティアゴに戻るべきか否か。





僕が出したら答えは
サンティアゴに一緒に帰ること。





普通に
置いていけねーだろ。





それをだんに告げると
だんは言った。




「お前は世界一周続けろ。」



「とまっちゃだめや。お前は。」



「俺ちょっと美味しいしな。
   完全に主役ですわ。」
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だから
僕はだんにさよならをした。





そして今
ひとりで南米を歩いている。







理不尽ってのは本来マイナスのことだ。
人生で理不尽なことが起きると
人はふさぎ込んだり、逃げたくなる。



旅だって
理不尽なことだらけ。
目の前で人に裏切られたり。
バスが3時間遅れできたり。
急にキレられたり。




そんなとき



「 理不尽って美味しいよな。」




って言えるやつはそんなにいない。
なんかかっこいい。




そして、
そういうやつが
自分の人生を歩けるんだと思う。





だんが言ったとおり
理不尽ってのは本来美味しいものなのかも。
だって乗り越えたら
確実に己の肥やしになる。







旅で得るものはたくさんあるけど
きっと
理不尽ってのもまた一つ旅で得られる
大きなものだと僕は思う。
どこにも売ってないし、
日本で普通の日常を送っていたら
なかなか手に入れられない。







だんと
少しの間、共に旅ができて
アホできて
ほんとに楽しかった。

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それでもきっと神様は


「これ以上二人で居るとろくなことない。」
「腐れ縁共め。」


って言ったんだろうな。





神様、きっと正解です。
おっしゃる通り。

ほんとろくなことありません。
二人の家族は逆に
安心しているに違いない。







パスポートさえ発行できたら
また会うことだってできる。



でも何か知らないけど
きっともう南米では会わないんだろう。
って思う。
お互いめんどくさがりやだし。





ってことで
また日本でな。
帰ったら
ほんとの大好物、ほんとに美味い
美鈴の餃子でも一緒に食おう。



ほな。だん。

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