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日本語ネイティブのための実用英語

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2.    Freedom(by Wham)

 

1) 自由を謳歌する曲

 

数あるお気に入りの洋楽の中で、最初に取り上げたいのは、Freedomという曲です。この曲、ご存じでしょうか?もしご存じない、あるいは記憶がおぼろげな方は、YouTubeで簡単に聞くことができます。Freedom by Whamと入力して検索すれば、複数の動画が上がってきます。

 

動画には、曲に合わせて歌詞だけが表示される画像バージョンと、実際に歌われている映像のバージョンがあります。まずは映像バージョンで、どんな曲かを聞いた後、画像バージョンを追いかけてみる、という見方がお勧めです。

 

映像バージョン(曲+映像)

 

 

 

画像バージョン(曲+歌詞)

 

 

 

Freedomについて簡単に説明しておきましょう。この曲は、Britishのイケメン二人組(Duo)のWhamが歌っています。邦題は「フリーダム」で、英語のタイトルそのままです。1984年に発表され、全英1位、全米3位を記録しました。

 

日本でも、WhamというDuoは、当時かなり有名でした。いくつもヒット曲を飛ばしましたが、中でも多分、Last Christmasが一番有名ではないかと思います。Last Christmas I gave you my heart…クリスマスシーズンになると、今でもこの曲をよく耳にします。きっと皆さんも、12月になると、メディアを通して、あるいは街角で、この曲が流れているのを聞かれたことがあるのではないでしょうか。

 

Freedomは、Whamの曲の中で、このLast Christmasに次いで有名な曲ではないかと思います。しかし、Freedomのメロディーは、Last Christmasのスローでメローな雰囲気とは違い、アップテンポで軽快です。聴いているうちに、楽しくて心が浮き立ってきます。

 

そして、曲のサビのところで出てくるのがFreedom。ここは、引き伸ばされてファルセット(裏声)で歌われます。Freeeeedamの歌声とともに感じるのは、まさに突き抜けるような爽快感です。

 

「きっと自由を謳歌する曲に違いない」そう感じても全く不思議ではありません。当時、私は実際にそう感じていました。きっとみなさんも、もしこの曲をご存じであれば、同じような感覚で聴いておられたのではないかと思います。しがらみを断ち切り、何ものにもとらわれず、両手を広げて「自由だーーーっ!」と叫んで疾走。解き放たれた自分の姿を思い浮かべながら、これまで何度もこの曲を聴いて爽快感を味わってきました。

 

2) 自由を否定する曲!?

 

でもこの曲、実は、「自由でいてほしくない」という叫びの歌なのです。えええーっ、何それー!歌詞を確かめてみると、I don’t want your freedom. 確かに、Freedomがdon’t wantで否定されています。「私はあなたの自由を望みません」うわーっ、何これー!思ってたんと真逆の意味やんか!これまでずーっと、騙されてたっちゅうことか!???

 

3) 失意と決意

 

驚きと失望に打ちのめされたような感覚でした。自由の謳歌ではなく、自由の否定がテーマの曲だなんて。。。

 

でも、そんなはずはないという一縷の望みは捨てられません。これまで感じてきたあの高揚感が、全部間違いだったというのはあまりにも残酷です。そもそも自由を否定する曲が、これほど軽快かつ爽快なメロディーで歌われているのはおかしい。。。このもやもやした気持ちを何とかしたい。でもどうすればいいのか。。。

 

確かに、Freedomという言葉だけを取り出して、自由を礼賛する歌だと思い込んでいたのは間違いでした。しかし、逆にI don’t want your freedomという言葉だけに引っ張られて、自由を否定する歌だと断定するのもどうかと思いました。歌詞の中のごく一部を取り出して拡大解釈する、という意味では、最初の間違いと同じだからです。

 

言葉の意味は、全体の文脈の中で決まります。部分だけを取り出すのではなく、全体の流れを掴み、その流れの中で意味を解釈するのが正しい理解に繋がります。

 

「よし、ここはひとつ、この歌詞をしっかりと読み込んでみよう」そう決意した私は、Freedomの隠された真相を確かめるべく、歌詞の深堀りの旅に出かけることにしました。

 

4) 旅立ち

 

旅といっても、歌詞も短いことだし、数日間の小旅行で終わるだろう、というのが、当初の見込みでした。ところが、現実は甘くありませんでした。数日どころか、数か月もかかった上に、行方不明になりかけながらも何とか生還した、という大冒険になってしまいました。

 

短く、かつ決して難しくはないはずの歌詞ですが、解釈を進めていくうちに、新たな疑問が湧いてきて行き詰ったり、解釈の深みにはまって抜け出せなくなったりと、思わぬ苦労が続きました。同時に、あれこれと思考が拡散して寄り道し、何度も迷子になりながら彷徨っているうちに、新たな気付きがいくつも得られました。

 

5) セレンディピティ

 

こうした紆余曲折を経て、何とか旅の終わりに近付いてきたころ、思わぬどんでん返しがありました。

 

このFreedomという歌について、「自由を否定する歌だ」と解釈することは、確かに正しいことがわかりました。I don’t want your freedomというのがメインテーマである以上、自由の否定という主張は揺るぎません。

 

しかし、同時に、「自由を謳歌する歌」である、というのも正しい、ということが、すとんと腹落ちしたのです。「おおーっ!この曲、やっぱり最高!」こんな望外のお土産を胸に、無事帰還することができた今、この知の冒険に出かけて本当に良かったと思っています。

 

6) 英文法の効用

 

英語の歌詞の深堀りの旅は、孤独な一人旅でした。ただ、頼りになる旅のお供と一緒でした。それは英文法です。日本語ネイティブであり、英語ネイティブの感覚を持ち合わせていない私にとって、英文解釈の際に頼れる強い見方が英文法です。

 

文法というと、堅苦しいルールであり、受験には役立つかもしれませんが、実際の会話には役に立たない、という声をよく耳にします。それどころか、文法を教え込まれることで英語嫌いになったり、文法間違いを気にして会話ができなくなるなど、むしろ弊害ですらある、という声もよく聞かれます。

 

しかしながら、文法は、ほとんどの外国人にとって、外国語を理解し、かつ使えるようになるためには必須のアイテムです。特に、日本語ネイティブにとっての英語を考えたとき、日本語と英語の言語構造がほぼ真逆で、距離が大きく離れているがゆえに、日本語の考え方のアナロジーが通用しません。ここで大いに役に立ってくれるのが英文法です。

 

英文法は、もともと外国人のために作られたものではありません。歴史を辿ると、英語ネイティブの庶民が文字を読み書きできるようにという目的で整理されていったことがわかります。素人ではなく、かつ外国人でもなく、その時代時代における一流の英語ネイティブである文法学者が、母国語としての英語への深い理解と洞察をベースに、抽象化、体系化してきたのが英文法です。

 

それゆえ、外国人が英文法を学ぶと、英語という言語の本質の部分に体系的にアプローチできるので、非常に効率よく英語を習得することができるようになります。文法をしっかりと味方に付ければ、自分の英語力が実力を伴い、実用英語の世界を自由に活き活きと駆け回ることができるようになります。

 

7) 逆アプローチのすすめ

 

とはいっても、分厚い英文法書を一から学んでいくということは容易ではありません。多分途中で挫折する可能性が高く、かつ、もし学び切ったとしても、実用に供するかどうかは疑問です。

 

そうではなく、巷に溢れる普通の英語を読み解く際に、必要となる文法知識は何か、と逆算して学んでいく、というアプローチの方が有効です。まず、具体的に目の前に現れた英語が、一体どのような意味なのか、という疑問と興味を持つことが、学ぶためのインセンティブとなります。

 

その上で、その英語の深い理解のための手段として、文法に遡ります。単語レベルでの機械的な逐語訳ではなく、文単位で、話者が対象世界をどのように切り取って表現しているのかを読み解いていきます。

 

その際に辿るのが文法です。「これは仮定法。歌の世界では本当によく出てくるお得意さま」「ここはかぎカッコはないけど直接話法だな」「あれ、動詞の過去形で始まっているこの文、主語が省略されている!」こんなふうに、具体的な英文から文法に遡ることによって、文法知識が目の前の現実としっかり結び付き、使える、かつ忘れない武器へと変化します。

 

8) 旅への誘い

 

今回、私はFreedomというポップスを題材として、文法解析を試みました。一見簡単な英語で、かつそんなに長くもない歌詞に、その何倍もの文字解説が続きます。ぱっと見うんざりかもしれませんが、お付き合いいただければ、歌詞の深い理解のために文法がいかに役立つのか、ということを、きっと体感していただけると思います。

 

長くなりましたが、前置きはこれくらいにして、いよいよ歌詞の深堀りの旅に出かけましょう。気楽に、楽しみながらお付き合いいただけると嬉しいです。