曲はいいのに歌詞は残念!? Freedom(10) | 日本語ネイティブのための実用英語

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6) 彼女の反応と、彼の小さな逆襲

 

1         You take my hand and tell me I'm a fool to give you all that I do

 

(直訳)あなたは私の手を取って、私がすることの全てをあなたに与えるなんて馬鹿だと

と私に言う。

 

Take my handという表現ですが、文字通りの意味は、相手が物理的に自分の手を取ってくれる、ということです。ただ、ちょっとそれでは浅いので、少し深堀してみたいと思います。

 

仮に自分が目が不自由だとして、誰か親切な人が自分の手を取ってくれたとしましょう。この時、どんな感じがするでしょうか?きっと優しさが感じられると思います。と同時に、どこか、然るべきところに導いてくれるような、頼りがいのある感覚も抱けるのではないでしょうか。相手が自分に対して、「教えてあげる」と言ってくれていて、自分は安心して導かれていく、という感じがぴったりくるかもしれません。

 

逆に、思いを込めてしっかりと手を握られるような感覚はないと思います。もしそのような、しっかりと握るという動作であれば、hold my handが使われます。

 

この「教えてあげる」的なtake my hand に続いて、彼女が私に語る台詞が、I’m a fool以下となります。

 

Give you all that I doですが、これは、「自分のすることの全てを相手に与える」というのが文字通りの意味です。これは、彼が日々していることの全てを彼女に与えている、ということを意味しています。つまり、彼は毎日彼女のことで頭が一杯で、彼女に振り回されて苦しみながら、彼女を独り占めにしたい気持ちを抑えきれず、そのためなら自分は他の選択肢など不要で、彼女一点張りでいい、と決め込んでいることを指しています。

 

彼女は、このような彼の盲目的で近視眼的な生き方に対して、やさしく、「そんな生き方をしてはダメよ」と諭してくれるのです。

 

この部分の試訳は以下のようにしてみました。

 

君はやさしく、諭すように言ってくれる。「全てを私に捧げるなんて馬鹿よ」

 

2         I bet you someday baby, someone says the same to you

 

(直訳)私はきっと、いつか、誰かがあなたに同じことを言うと思う。

 

彼は、苦しみながら絞り出した心からのお願いを、彼女から優しく諭されることで、またもやうまくかわされてしまいます。そこには、思いが叶わず、生き方まで否定された絶望があります。しかし、同時に、やさしさ溢れる彼女に、またもやほろっときてしまいます。そして、そこには、まだ失われていない希望もあるのです。これってまさに、You drag me to hell and back as long as we are together.、つまり、一緒にいる限り天国と地獄の間を行ったり来たり、という状態そのものです。

 

彼は否応なくこの自分の弱さを自覚しつつも、またここで敗北を重ねてしまうことへの屈辱も同時に感じています。そして、ここで、意地の逆襲に出た結果、飛び出してきたのがこの②の台詞になります。

 

I betのbetは、「賭ける」という意味ですが、I bet~で「きっと~だと思う」という意味で使われます。「~という結果が生じると、賭けてもいい」というふうに考えるとわかりやすいです。

 

Someday, someone says the same to you. ですが、いつか、誰かが、彼女に同じことを言う、というのが字義通りの解釈です。「同じこと」というのは、1で彼女が彼に入った、「全てを私に捧げるなんて馬鹿よ」という言葉を指します。このような、ある意味屈辱的な言葉を、将来、彼女が誰かに言われるはずだ、と彼は言っているのです。

 

彼の心理は、自分を苦しめている彼女に、自分と同じ苦しみを味わわせたい、という、因果応報的な気持ちもあることは間違いありません。その意味では、彼女が誰かから同じことを言われて彼と同じ気持ちを味わえば、彼の気持ちは癒されることになります。

 

ただ、彼は、どこかの誰かが彼女にそんな言葉を吐くのを望んでいるでしょうか?もしそんな誰かがいたとすれば、それは彼女が、今の彼のように、一途に思い慕って入れ込んでしまうような彼が現れたことになります。これって、彼女を独り占めにしたい彼にとっては、ある意味、一番起こってほしくない悪夢ではないでしょうか?

 

色々な男と付き合う彼女に我慢ができない彼ですが、救いとしては、彼女がどの男に対しても入れあげるまでには至っていない、ということです。自分もOne of themなら、他の男も全てOne of themなのです。

 

しかし、もし彼女が、「俺にすべてを捧げるなんて馬鹿だよ」と誰かに言われるとしたら、彼女はその彼にすべてを捧げてしまっていることになります。それは、彼としては絶対に許せない。あってはならない究極の悪夢です。でも、なぜ彼はそんな地獄のような状況を、「必ずそうなるぜ」と言い切ってしまうのでしょうか?

 

ここで、Someoneについて考えてみましょう。Someoneというと、「誰か」と訳されるので、「誰だかわからない」という頭になってしまいます。しかし、SomeoneはAnyoneではありません。つまり「任意の誰か」ではないのです。敢えて言明はしないものの、話し手の頭の中では、特定の誰かなのです。特定の誰かって、誰?

 

もう、きっとお分かりだと思います。このSomeoneは、実は彼のことです。Someoneと言いながら、これは彼の頭の中では「俺」なのです。「私にすべてを捧げるなんて馬鹿よ」といった彼女に対し、「俺にすべてを捧げるなんて馬鹿だよ」と言い返す資格があるのは、この世の中で、この俺様しかいない、というのが彼の言わんとしていることなのです。彼女に対するアンビバレント(愛憎併存)な感情が渦巻く中で、彼が思わず発することとなった、意地と誇大妄想の入り混じったこの台詞。これを聞くと、彼の身の程知らずな振る舞いに笑いが込み上げてきますが、同時に、意地で苦し紛れにこんな台詞を吐いてしまう彼の切羽詰まった様子がちょっと可哀そうにもなってきます。でもこの言葉は、心の奥底からほとばしり出る、嘘偽りのない気持ちがこもっていて、そこに活き活きとした力強さも感じられます。

 

俺がきっと、君に同じ台詞をお見舞いしてやるぜ

 

このような気持ちが、実は彼の心の奥底にあります。ただ、それは敢えて言葉の表面には出さず、以下、字面通りの訳で気持ちをにじませることとしました。

 

賭けてもいい。君、いつか誰かに同じことを言われるよ。